第46話 お困りのハーデス様

 バスは魔界庁の手前にある停車場に止まり、俺達は下車した。


「はい。それでは早速中に入りましょう。中はクーラーが効いていて涼しいですよ」

「ちょっ、ちょっと待った!」

「ん? どうしたんですか?」

「中に入るって、それからどうするの?」

「どうするって、皆様をハーデス様がお待ちしております」

「ちょっと待って! こっちは何も準備できてないよ! 回復薬も持ってないし、こっちのパーティーは俺以外全員遊び人なんだ! とても戦える状況じゃない!」

「何を言ってるんです? ハーデス様は忙しい方なんです。早く行きますよ」


 無理だ。今まで出会った悪魔達でも色々と手こずり、命の危機も何度もあった。


 それがいきなりラスボスと戦うなんてムリゲーすぎる。


 それにこっちはさっきも言った通り遊び人しかいない。


 何処の世界に、何をするのか分からなく、制御ができないメンバーを引き連れて悪魔城に攻め込むやつがいるのか。こんなのすぐに全滅じゃないか。

 

 たじろいでいる俺の手をファミが掴み連れていこうとする。


 それを俺は病院に行きたくない犬の様に、足に力を入れてその場に留まろうとする。


 しかし、ファミの力はその小さな体のどこから出ているのか分からない程強く、何の抵抗も出来ないまま引きずられていく。


 そのまま建物内に入ると、そこにはファミに似たような格好の女性が出迎えに出てきた。


「ようこそ、おいで下さいました。ハーデス様は最上階でお待ちになられています」


 何処かの幽霊アトラクションの案内人みたいに、その女性はわざとらしく暗い感じの声を出してきた。


 そしてそのままエレベーターみたいなものに乗せられると、そのまま上の階へと昇って行った。


「ねえ、ファミ」

「はい。なんでしょう」

「何で、俺達はそのハーデス様に会わなきゃいけないの?」

「まあ、魔界に4人もの女神様が一緒に来られるのは珍しいですし、魔界の長として天界の要人をおもてなしするのは当然ですよ」

「いやいやいや。女神って言っても大したことないですよ。なんちゃって女神みたいなもんですから、そんな気を遣わなくてもいいですよ」

「おい、駄犬。聞こえてるぞ」


 おもてなしをすると言われて、俺はそのハーデス様なるものが常識を持った人であることを願ったが、今まで出会ってきた悪魔を思い起こすと、その願いは儚く砕けそうだ。


 変人の悪魔達の元締め。そんな者が正常なわけがない。


 いや、魔界一の変人なのかもしれない。


 いきなり勝負とか挑まれたりしたら、どうしよう? 


 丁重に断れば帰らせてくれるかな? ……いや、アスモの例を考えるとこっちの話なんて聞いてもらえないのかもしれない。


 現に、今は有無も言わせずにハーデス様の所に連れられてしまったし……。

嫌な想像しか出来ない。

 

 そんなあらゆる事態を想定していると、ファミが深刻そうな顔をしながら口を開いた。


「それに、ハーデス様は現在とても困っておられます」

「えっ、困っている?」


 そんな話をしている最中に最上階に着いたのか、エレベーターの扉が開いた。


 そしてそのまま正面の長い一本通路を歩いて行くと、そこには今まで見たことも無い巨大な扉がそこにはあった。


 扉は様々な悪魔が描かれてあり、もしここに一人で来たとしたら間違いなく中に入らず、そのまま素通りしたくなるような禍々しさを醸し出していた。


「ねえ、ファミ。ハーデス様が困っていると言ったけど、どうしたの? 俺達ってそんなに万能じゃないから、魔界の長の困り事なんて解決できないよ」

「大丈夫です。いえ、むしろあなた達にしか解決できない事なのです」

「俺達にしか? ……それってどういう事?」

「はい。……実は、今ここには神がおられます」

「ふむふむ。なるほど、神が…………っ、えっ? えっえええええええええええええ‼」


 俺はいきなりの重大発表に驚きを隠せなかった。


「えっ! いるの!? ここに神いるの!?」

「はい。この扉の向こうにいます」

 

 いきなりクライマックスが来た。


「ほう。神め、こんな所に逃げておったのか」

「よっしゃ! 今度こそ神をぎゃふんと言わせてやる!」

「ふふふっ。神に出会うのは久しぶりです。楽しみですわ」

「久しぶりに神の美しさを目に出来るなんて、僕はとてもハッピーだよ」


 それぞれの女神達もそわそわしだした。


「ねえ、ファミ。さっきも言ったけど、今ここに神がいてハーデス様が困っているといったけど」

「はい。実は……」


 ファミが何かを言おうとした時、扉の向こうから何やら声が聞こえてきた。


『帰れ!』

『嫌じゃ!』

『もう、お前本当に帰れよ!』

『嫌じゃと言っておるじゃろうが!』

『お願いだから帰ってくれよ! お前がいたら仕事がはかどらないんだよ!』

『わしはまだ暇なのじゃ! あともう少し遊びに付き合え!』

『お前、数日前にも同じこと言ったよな⁉ だからゲームにもずっと付き合ってやったのに! お前ほんとそういうところ昔から変わってないよな!』

『うるさい! 暇じゃ! 暇じゃ! 暇じゃ! 暇じゃ! 暇じゃ!』

『あ~~~っ! もう、誰か助けてくれよ!』


 俺は声がしてくる扉に指をさした。


「あの、ハーデス様が困っている事って……」

「はい。神がここに居座ってしまい、ハーデス様の仕事の邪魔をされて、とても困っています。どうか皆様で、神を連れて帰ってくれませんか?」


 魔界に行って魔王の仕事の邪魔をする神……。俺はこんな奴を追って、色々な苦労をしてきたのか?

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