第47話 勇者幸太
急に俺は虚しさを覚え、ここにきて一番大きな溜息を吐いた。
ファミがドアをノックするが、中にいる人物は気が付いてないらしく返事がない。
「……しょうがないですね。入りますか」
そう言うと、ファミはその大きな扉を片手で押し開けた。
「じゃあ、こうしよう! そのゲーム持って帰っていいから! なっ! それやるから、帰って! お願い!」
「嫌じゃ! こんなの一人で狩っててもつまらん! 協力プレーするのがこれの醍醐味じゃろ!」
白熱の協議をしている二人は、俺達が入ってきた事にまだ気が付いていない。
「あの、ハーデス様」
ファミの声にも気づかない。それで、ファミは息を大きく吸い込んだ。
「ハーデス様‼」
広大な部屋の中に、今までの小さな声からは想像できない程の大きなファミの声が響き渡った。
その声で、やっと気が付いたハーデス様はこっちに振り返った。
その風貌は、肩には地面にまで届く長さの黒マントを付けていて、体には全身黒を基調とした鎧を身にまとっている。
鎧には所々に黄金の装飾が施されていて、魔界一の地位を表現するには十分の物だ。
そんな人物の顔は俺が思っていたよりも若々しく二十代後半くらいの二枚目である。
二枚目と言ってもなよなよした感じはなく、凛々しさをそこには兼ね備えていて、もし知り合いなら頼りたくなるお兄さんみたいな感じがした。
さすが魔界の長、ハーデス様。その体全部から威風堂々なオーラを醸し出している。
そんなハーデス様が、綺麗な黒髪ロングを揺らしながらこっちに歩み寄ってきた。
ちなみに神は反対方向を向いた椅子の大きな背もたれに隠れ、その姿は見えない。
「ハーデス様。こちらが先程お伝えした、女神様御一行でございます」
その言葉を聞いたハーデス様はその歩みを速め、俺の前に来た。すると、ハーデス様は俺の肩を力強く掴むと、希望の光を見つけたような表情を浮かべた。
「よくぞ来た、客人……。いいや、勇者よ! どうかこの魔王を救い出してくれ!」
魔王城に乗り込み、そこの魔王に助けを求められた勇者は、世界広しといえど俺だけではなかろうか?
「はっ、初めまして。僕は勇者じゃなく、神代幸太と言います。今日はこちらの女神様を連れて、神様を探しに来ました」
俺はかなり前のめりな魔王に少し引きながらも、ここに来た目的を告げる。
「おお! そうか、そうか! それは何よりの朗報だ! 早くあの忌々しい、わがまま傍若無人悪魔をここから連れ出してくれ!」
魔王に悪魔と呼ばれる神って……。
「何が悪魔じゃ! わしはただいつも一人寂しく過ごしているお主に、慈悲深い心で遊びに来てやっているというのに。少しは感謝せんか!」
そう未だに背をこちらに向けたままゲームをしている神が、何処かのニート女神に似たようなことを言った。
「何が慈悲深い心だ! 仕事の邪魔ばかりしやがって! あれを持ってこい、これを持ってこい、あれを食わせろ、これを食わせろって、どれだけ人を振り回せば気が済むんだ!」
「客人をもてなすのはこの城の主として当然じゃろ?」
ゲームをする手を止めた神が、ゆっくりと座っている椅子をこちらに回して、その姿を初めて俺に見せた。
そして、俺は言葉を失っていた……。
何故ならその姿は、両側に綺麗に束ねたツインテールをぴょこぴょこ跳ねさせ、いたずらぽくみせる笑みを浮かべた口元から可愛らしい八重歯が顔を出し、そのか細い四肢は守ってあげたくなるような幼さを垣間見せていたからである。
その風貌は、ランドセルを背負わせたくなるようなオーラを発していた。
そして少し時が経つと、俺の口から純粋に、ただ思うがままに一言が零れ落ちた。
「こっ、子供か……」
「神じゃ‼」
そんな叫びと共に、神の飛び蹴りが俺の顔を的確に捉えた。
「ぐはっ!」
俺は何回転も転がりながら、壁に打ち付けられた。
「ゆっ、勇者殿おおおおおおおおおおおおおお!」
魔王城に魔王の悲痛な叫びが響き渡った。
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