第44話 祝! 女神様御一行。ようこそ魔界へ!

 今までいた部屋から、多くの人々と共に俺は出た。


 こう簡単に魔界に行けるとは思わなかったので拍子抜けした。


 そんな俺の後頭部をコツンとベルが叩く。


「さっきから何をボーっとしておる。早く行かんか」

「えっ、ええ。あのベル様、ここって本当に魔界なのですか?」

「何を言っておる? そうに決まっとるじゃろーが。ほれ、天界より暑いじゃろ?」

「何、その冬にハワイに行って温度差で違う国にきたーって感じ?」

「まあ、まあ。それより早く行きましょう。出迎えも来ていると思いますから」

「え、出迎え? そんなものがあるの?」

「ええ。私達これでも女神ですから、魔界庁から正式に職員が派遣されているはずです」

「へー。わざわざお出迎えがあるんだね」


 ずっとそばにいて忘れていたが、腐っても女神は女神。それなりの待遇は受けられそうだ。


 一緒に来た人達の後ろを追って、俺達も出口らしき扉の所へ向かった。


 扉を通ると、そこには大勢の人が俺達の出てきた扉のある方を見ていて、そこから出てきた知人らしき人物を見つけると手を振る。


 そして知人同士が駆け寄りハグなとをして、再会を喜んでいた。

 

 そんな中で周りを見渡すと、あるものが視界に入り込んだ。


 それは『祝! 女神様御一行。ようこそ魔界へ!』というプラカードだった。


 視界をそこから下げると、そこにはプラカードの高いテンションとは違い、無表情のままこっちを見ているファミがいた。


「ようこそ。お待ちしておりました」


 ファミは表情を変えずにペコリとその小さな頭を下げる。


「やっ、やあ。久しぶり。まさか君が出迎えてくれるとは」

「はい。本当は違う人が来る予定でしたけど、こちらの都合で私が代役で来ることになりまして……あっ、ちょっと待って下さい」


 ファミは会話を途中で止めると、自分の持っている鞄をまさぐり、中から小さなクラッカーを取り出しその紐を引いた。


 小さな爆発音と共に少量の紙吹雪が飛び出した。するとまた鞄をまさぐり、中からこれまた小さなトランペットを取り出し、軽快な音を鳴らした。


 演奏を終えると、また鞄をまさぐり中からでんでん太鼓を取り出し、カラカラと鳴らした。


「……何してるの?」

「はい。魔界庁として要人をお出迎えさせて頂く身としまして、ささやかながら歓迎の催しをさせて頂きました」

「……ありがとう」

「……はい」


 その後、小さな旗を持ったファミに引き連れられ、魔界の検問所を出た。施設の外に出ると、その景色は天界とはまるで違うものだった。


 空は焼けたように一面真っ赤で覆われていて、生えている木々は葉っぱが無く枯れている物がほとんどだった。


 気候も天界と比べて暑く湿気もあり、そんなに動いていなくても汗がにじみ出てきそうだ。


 見慣れないものが多く俺は周りを見渡した。


 魔界の雰囲気はまるでハロウィンのテーマパークに来たみたいで、ちょっとワクワクするものがあった。


 俺の他にも久しぶりに来たのか、女神たちも浮かれた様子できゃぴきゃぴしている。


 そんな中をファミは先導しようとする。


「皆様、こちらに乗り物をご用意しています。私に付いてきてください」

「ねえ、ファミさんそんな厚着で暑くないの?」


 俺は外に出て思っていた以上の気温の高さに、全身に黒いマントを着ていて、フードまで被っているファミに聞いた。


「ええ、暑いですよ。あっ、あとファミでいいです。変に気を遣われるとかえって気持ち悪いです」

「そっ、そうか。ならファミ、なんで暑いのにそんなの着てるの?」

「だって、これ着ていた方がなんか悪魔っぽいじゃないですか」

「えっ、そんな理由?」

「はい。悪魔は雰囲気を大事にするんで、結構重要なのですよ。次に出るボーナスで今度は杖を買おうと思ってます」


 ほんと、悪魔って変わり者が多いよな。


「皆様、それではこの乗り物に乗ってください」


 ファミが指さした先には『女神様御一行貸し切り』という札が掲げられている観光バスらしきものがあった。


 運転席にはメガネをかけた鬼が座っていて、俺達の存在に気が付くと礼儀正しくお辞儀をした。ここで初めて常識ある悪魔に出会った気がした。


 俺達はバスに乗り込み、各自好きな席に腰を下ろした。


 ファミはバスに備え付けられているマイクを取り出すと、自分の口元に持ってくる。


「えー、皆様。本日は魔界ツアーにご参加いただき、誠にありがとうございます。今回は観光課の者に代わりまして、私ファミが皆様のガイドを務めさせていただきます」

「えっ、観光課の代わり? じゃあ、本当は今日ここに来るはずの者って……」

「はい。アスモさんの予定でした。しかしアスモさんは、今は魔王様からのお仕置き中ですので」

「そっか……。それはよかった。本当に良かった……」

「……はい」

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