第43話 魔界の階に到着しました

 不幸中の幸いというか、魔界に行く為の場所はラテパルからそう遠くない所だった。


 まあ、そうは言ってもここの『天界・魔界間第四検問所』の所までは2日はかかった。


 その間はこの個性あふれるわがままお嬢様達の面倒を色々と見せられたが、今となってはそれも慣れてきたところなので、それぐらいは苦痛には感じなくなってきた。


 そんな自分に嫌気がさすが、今の俺はそんな事に気を回している暇はない。


 何故なら今から行く所には、そんな小間使いみたいなことがぬるく感じるような場所なのだから。


 不安を感じながら、俺は長蛇の列に並んでいた。


「ネークスト」


 事務的な声と共に、自分の順番が来た俺は前に出て、一人の鬼の様な角を生やした巨漢なおじさんの所に来た。


 おじさんは不愛想に自分が持っている書類と俺を交互に見る。


「滞在目的は?」

「か、観光です」

「滞在日数は?」

「1週間くらいと考えています」

「……オーケーボーイ」


 そう言うと、おじさんは先程作ったばかりの俺の天界パスポートにハンコを押して、その先にあるゲートを通らせてくれた。


 ゲートの奥にはエントランスがあり、ベル達はそこで俺を待っていてくれた。


「おい駄犬、遅いぞ。我を待たせるなど後でお仕置きが必要じゃな」

「まあまあ、ベル。しょうがないじゃない。幸太さんは一般人なんだから色々と手続きが必要なのよ。私達みたいに顔パスは無理よ」

「でも良かったじゃないか。本当は天界パスポートを作るには1週間はかかるのに、こんなに早く用意できるなんて。メリアがこっちに連絡を回してくれていたお陰だね。さすがアテナの従者だ」

「へっ、まーな。メリアは俺の自慢だぜ」


「あの、みんなは魔界に行ったことがあるの?」

「ええ、ありますよ。結構人の行き来もありますし、魔界特有のリゾート地もありますから。私も休暇時に滞在しました」


 リゾート地? そう言えば、以前イザデールで出会った悪魔のファミが、魔界には観光課があるって言ってたな。まったく想像できないけど……。


「まあ、とりあえず魔界に向かいましょう」

「ちょっと待つのじゃ。我はここで少し買い物をする。お主は我の荷物持ちをしろ」

「えっ、ちょっと待って下さいよ。俺達は別に魔界に遊び行くわけじゃないんですよ。早く行かないと、また神が居場所を変えるかもしれないじゃないですか?」

「うるさい! ここでしか手に入らないお菓子とかいっぱいあるのじゃ!」


 俺は助けを求める為に、ヴィディ達の方を見る。


「じゃあ、一時間後にここで再集合しましょう」

「そうだね。僕もここ限定の香水を買いたいと思ってたんだ」

「だな! 俺もあまりこんな所に来ないから、色々見たいしな!」


 なんだ、この久しぶりに空港に来て、テンションが上がってしまっている観光客みたいな感じは。


 こいつらには危機感とかは無いのか? それとも魔界とは俺が考えているほど危ない所じゃ無いのか?

 

 そんな思いが浮かび上がった時、俺は雑念を振り払うように顔を横に振る。

 

 駄目だ! 気を緩めるな! つい先日の過ちを忘れたのか? 


 そうだ、どれだけ順調に物事が進んでいても、何処で足元をすくわれるか分からない。


 周りがどれだけ浮かれていても、俺だけは気を引き締めていこう!


 そう強く決心した俺は、その想いのままその後一時間ベルの買い物の荷物持ちをした。


 約束の時間になり、俺達は再び集合した。


「でっ、どうやってここから魔界に行くんだ? もしかして、飛行機みたいなのに乗るの?」

「いいえ、この先にある部屋に行き、そのまま下に降りていくんです」

「下?」

「はい。下にです」


 ヴィディの説明にピンとこなかったが、ここで考えていても分からない。とりあえずはやってみるしかない。


 そう思い、俺は皆を引き連れてその部屋に向かった。


 部屋は円形で広大な広さがあった。そこには俺達以外にも大勢の人々がいて、それぞれが賑やかに会話をしている。


 これから行く所が魔界とはとても思えなかった。


 そんな思いをしながら周りを見渡していると、部屋に女性の声でアナウンスが流れた。


『皆様、お待たせしました。それではこれより天界第四支部発、魔界第四支部着の便を発進させていただきます。それでは快適な旅を』


 まさに飛行機内のような案内をされた。


 これから天界から魔界に行くみたいだが、まだ俺はピンとこなかった。


 出発と言っても一体どれくらいの時間が必要なのだろうか? 


 日本にいた時は、アメリカに行くには10時間くらいかかると聞かされた。


 もう少し食品を持ち込めばよかったかな? 今持っている食べ物はお菓子くらいしかないし。あっ! トイレに行きたくなったらどうしよう。


 色々な不安事を考えていると部屋が少しゆれ、下に部屋ごと降りて行っている様な重力感が体にかかった。


「のう、ヴィディ。ここでチップスを食べていいかの?」

「もう、ベル。ここじゃあ匂いが広まって、周りの人に迷惑でしょ? もう少し我慢してなさい」

「なあ、パラス。最近鍛えている俺の上腕二頭筋はどうだ? これなら神を相手にしてもワンパンでいけると思うんだ」

「いいね。君の鍛えられた体は美しい。それじゃあ、僕のこのグラサンどうだい? カッコいいかい?」


 そんな他愛のない会話の少し後『チン!』というエレベーターの様な音が鳴り響いた。


『お疲れ様でした。魔界第四支部の階に到着しました』

「…………デパートか!?」

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