第42話 おたっしゃでー
次の旅に出発する為に、俺達はラテパルの出入り口に来ていた。
そんな中、俺は大きな溜息を吐きながら、久しぶりにポンコツ号の取っ手を持ち上げた。
これから起きる事を考えれば、ため息なんて次から次へと自動生成される。
「さっきから鬱陶しいのお。決まったことは、決まっとるんじゃ。男らしく腹をくくらんか」
「幸太さん、大丈夫ですよ。どんなに辛くても、あなたの隣にはいつでもどこでも私がいますから」
「分かってますよ。ここまで来たら、もう行かないといけないなんてことは……それじゃあ、点呼を取りますよ。いーち」
「これ、毎回やるのか? にーい」
「私これ好きですよ。さーん♡」
「へっ、これからの戦を考えるとワクワクするぜ! よーん!」
「君がいる所に僕ありさ。ごー」
「…………」
隣には腕をぐるぐると回しているアテナと、サラサラな前髪をかき上げかっこつけているパラスがいた。
「これは、これは美しい女神様たち。これから何処かにお出かけですか? 奇遇ですね、僕らもこれから出発なんです。それじゃあ、またいつか何処かで!」
素早く挨拶を終え、その場を去ろうとした俺の肩をアテナが力強く掴んだ。
「おい。何処に行くんだ? 早く一緒に行こうぜ!」
「ちょっ、何でだよ! 何でついてくる気満々なんだよ!」
「ん? 神にリベンジする為に決まってんだろ。今回の戦いで自信も取り戻せたし、今度こそ勝って見せるぜ!」
「だったら別々に行けばいいじゃん!」
「何言ってんだよ? 一緒に行った方が大勢で楽しいし、どうせ神に会うんだったら一緒に会った方が効率いいじねーか。お前馬鹿か?」
「ぐっ!」
この脳筋女神に馬鹿呼ばわりされるなんて屈辱極まりない。
「というか、何でパラスもいるんだよ!」
「いっ、言っただろ? アテナのいる所に僕ありさ。こっ、このスケベ幸太!」
くっ、パラスに関しては今朝の失態もあるから強くは出れない。
どうにかしてこの現状を打開できないかと考えている中、俺は彼女らの後ろにメリアさんがいる事に気が付く。
「メ、メリアさん。いいんですか? ここの街を取り仕切るアテナがいなくなって。女神様がいなくなるなんて一大事じゃないですか!」
メリアさんは優しい笑顔を見せ俺の問いに答える。
「大丈夫ですよ。街の運営は私達従者が滞りなくいたしますので。アテナ様には心置きなくご自分のしたいようにしていただくのが私達の本望です」
やばい。このままでは本当に連れていかなくてはいけなくなってしまう。
「それに私達もそろそろ休暇が欲しいですし」
メリアさんがボソリと本音を漏らす。
こっ、この人、俺に厄介ごとを押し付ける気だ!
「ちょっ、ちょっと待って下さい! そうだ! これ見てくださいよ! ほらこのポン、天馬鳳凰号はそんなに広くないんです! これじゃあ高貴な女神様を乗せる事は出来ません!」
「それなら問題ありません。ほらあなた達」
メリアさんの掛け声で、後ろから数人の従者が現れ、何やらポンコツ号と同じ様な大きさの綺麗な乗り物を持ち出し、フックの様な物をポンコツ号に取り付けた。
「おお、新しい装備を付けてレベルアップしたな。やはり我の天馬鳳凰号には無限の可能性が秘められておるの!」
何故かベルはとても嬉しそうだった。
簡単な取り付け作業を終えると、アテナとパラスはその乗り物に乗り込んだ。
「では幸太様。アテナ様とパラス様を宜しくお願いします。それではおたっしゃでー」
メリアさんを含めた従者さんたちがハンカチを振りながら別れの挨拶をしてくる。
「でも、メリアさん!」
「おたっしゃでー」
「あの」
「おたっしゃでー」
この後、メリアさん以外にも何度も話し掛けたが、返ってくる言葉はどれも同じだった。
今から修羅の国に行きどんな困難が待ち受けるか分からなく、様々な不安という重みが心にのしかかる俺は、物質的にも重みが増したリヤカーを引きずっていた。
「いやー。旅なんて久しぶりだぜ。けっこう楽しいもんだな」
「アテナ。僕のこの髪型どう思う? やっぱり前の方がいいかな?」
「ねえパラス。そっちに乗せてあるカチューシャ先月号を取ってくれない?」
「おい、お主らうるさいぞ。今我は大事な戦いの真っ最中なのだぞ」
くっ、こいつら。俺は今大変な目に遭っているというのに。女子会なら他でやれ。
そう心では毒づくも、当然口には出せない。
「はあ、本当にいつでもどこでも運が悪いな……。こんなんで本当に目標が達成できるのか?」
そんな俺の言葉にアテナが反応する。
「ん? 何言ってんだお前は? 運なんかで達成できるわけねーだろ。分かってねーな。いいか? この世は運より努力、友情、そして勝利だ‼」
脳筋女神は実直に心に荒みがない子供の様に叫んだ。
俺は本当にそうだったら、俺の世界は救われるのになっと思った。
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