第41話 修羅の国編開始?

 街の人々の白い目をなるべく気にせず、俺達はアテナの神殿にたどり着いた。神殿の中に入ると、慌ただしかった先日とは違い落ち着いた雰囲気だ。


 すると、神殿の受付さんが奥から現れ、俺達に頭を下げる。


「皆様、ようこそおいで下さいました。既にアテナ様は玉座でお待ちになられています」


 そう言うと、俺達を案内する為に前を歩き出した。


 そして、以前来た時には見なかった大きく豪勢な扉の前に到着した。


 扉には左右に二人の戦士の彫刻が描かれ、扉の中央で二人の戦士が持つ剣が交わるようになっている。


「こちらが、アテナ様の玉座の間でございます」


 受付さんの言葉の後、重そうな扉がゆっくりと開き、その中から光が漏れてきた。


 光の奥を見ると、豪勢な間の中でこれまた豪勢な椅子に威風堂々と腰を下ろしているアテナがいた。


 その姿は以前の軽やかな姿ではなく、光り輝く王冠とピアスやネクレス、指輪などの装飾品を身にまとったものであった。

 

 俺達はそのまま歩みを進め、アテナの前にたどり着く。


 アテナの雰囲気は前日の脳筋やんちゃ娘ではなく、まさに気品のある女神様そのものであった。


 もしこれが初対面だったら、俺は片膝をついて頭を下げていたかもしれない。


 横には先に出たパラスが立っている。そんなパラスに視線を送ると、彼女はぷいっと頬を膨らませ横を向いてしまった。


 どこの乙女だよ……。


 そう今朝の失態を少し後悔していると、アテナが落ち着き払った声を発した。


「よくぞ参られた。この戦の女神アテナが、貴殿らの訪問を歓迎する」


 なんだ、このザ・女神様は? ぜんぜんキャラが違うじゃないか。


 いや、もしかするとこっちが本当の顔なのか?


 威厳のあるアテナの言葉は続いた。


「さて、早速本題に入りたいと思うのだが。貴殿らは……えーと……」


 ん? どうしたんだ、いきなり口ごもって。


「その……なんだ」


 アテナがボソボソ言いながら、視線を自分の左手に落とす。その左手には何かの紙が持たれてあった。


「そうだ。貴殿らは神の――」


 カンニング! 何言うかカンニングしてたの!


 その時、隣にいたベルが噴き出しながら笑い声を上げた。


「くっははは! お主、何じゃそれは? 変に着飾りおって。慣れんことをするからそうなるのじゃ!」


 ベルに馬鹿にされたアテナは、持っていたカンニングペーパーを握りつぶし、目尻を吊り上げた。


「うるせぇ! 俺だって、てめぇにこんな事したくなかったんだ! でも、そこのメリアがたまにはちゃんとしないと、女神としての体面やら威厳やら言いだして、しょうがなくだな!」


 後ろを振り返ると、ここにきて初めてメリアという名前を聞いた受付さんが、トホホというような顔をしながらため息を吐いている。


「だって、アテナ様! 私も色々な所へ研修に出てたりするんですけど、そこにいる女神様たちはちゃんとしていて、それに仕える従者達も堂々としているんですよ! たまには私達も威厳ある態度で迎えてもいいじゃないですか! いつも、いつも、アテナ様がやりたい放題して、私達は色んな所で頭を下げて回っているんですよ!」


「うるさい! うるさい! 俺は堅苦しいのは嫌いなんだ!」


 アテナは感情のままにその場で地団太を踏み出した。


 その光景は、色々な装飾品を綺麗に着飾っているから、より一層滑稽なものに見える。


 俺はそれを見ると、同じように困った女神を引き連れている身として、メリアさんがとても不憫に感じられた。


「まあまあ、アテナ。俺達は別に気にしてないから、いつも通りのお前でいいよ。それより本題の神の居所を教えてくれよ」

「ん? そうか。よし、では話を進めるか」


 いつも通りでいいと言われたアテナは、ケロッと機嫌を直して話を進める。それを見たメリアさんは残念そうに諦めた表情を見せた。


 すまんメリアさん。こういう手合いは思い通りにしないと、物事は進まないんだ。


 普段からわがままニート女神を相手にし、ある意味女神の転がし方を心得てきた俺ならではの誘導をした。


「それじゃあ、神の居場所を約束通りに教えてやる。今、神は……」


 アテナの言葉に唾を飲のむ。


 今度は何処だ? いや、どんな所でも俺は行ってやる! そう俺には待ってくれている人がいるから!


「魔界だ!」


 そう、俺の未来の彼女の為に! 恐れるものは何も……。


「……パードゥン?」

「だから、魔界だ!」


 未来の彼女、僕は君に会えないのかもしれない……。


「ほう。今度は魔界に行くのか」

「えっ、本当に魔界にいるの! 嘘ですよね? お願いだから嘘だと言って」

「何で俺が嘘を言わないといけないんだ?」


 そうだ。この脳筋が嘘とかジョークとか言うタイプでは無い事は、短い付き合いの俺でも分かる。でも、少しの可能性でもいいから、そんな事に俺は頼った。


「あの……魔界って、悪魔いますか?」

「お前は何を言っているんだ? 魔界だぞ? そこら中にうじゃうじゃいるに決まってるだろ? というか、悪魔以外はほとんどいないぞ」


 俺は今まで天界で出会った悪魔達を思い返す。


 人の話を聞かず、周りの人に迷惑をかけるストーカー悪魔アスモ。


 そんなアスモを猫の様に摘み上げ、魔界に帰って行ったファミ。


 この街で出会った、凶暴な小さな悪魔グリーズ。


 そんな奴らがうじゃうじゃといる魔界……。

 

 いきなり修羅の国編開始じゃないか。

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