第40話 秘密兵器 ベルブラック

 日は完全に昇り、皆が起きてきた。


 俺も色んな意味で火照った体を冷まし、ラウンジに降りた。そこにはすでにベルとヴィディが紅茶を飲んで待機している。


「おはようございます。パラスはまだですか?」

「いや。少し前に、何故か足早に先にアテナの所に向かったぞ」

「そっ、そうですか。じゃあ、僕達もアテナの所に向かいますか」


 当初の目的である、神の居場所をアテナに聞く為に彼女がいる神殿に向かう事にする。


 その時、出口に向かおうとした俺の背後から不機嫌な声が聞こえてくる。


「そういえば、昨日お主はこう言ったな? 『主役は遅れてくる』と……」


 あっ……やばい。


「我の記憶が正しければ、昨日の試合は主役が遅れてきたら、全てが終わってたんじゃがの。これはどういう事か説明してくれんか?」


 このポンコツ、何故こんな所は気が付くんだ? しかし、この場をどうにかしないといけない。こいつの仕置きは危険だ。


 俺は急速に頭を回転させ、一つの言葉を思い起こす。


「ベル様……」

「何じゃ? いい訳なら聞かんぞ」

「秘密兵器という言葉を知りませんか?」

「秘密兵器? 何じゃそれは?」

「日本の戦隊物の主役はレッドです。しかし、その主役をも凌ぐ人気を持っている者がいます」

「何じゃと? 主役をも凌ぐ人気だと……」


 ベルはつばを飲み込み、俺の話を聞きだした。


「それはブラックです!」

「ブラックじゃと! なぜそんな華やかではない色が人気なんじゃ? ……はっ! もしかしてそやつがお主の言う」

「さすがベル様。ご明察です。そう、そのブラックこそが秘密兵器なのです!」


 ベルの目が明らかにキラキラしてきた。


「主役を含めた全メンバーが敵の力に及ばず倒れ、全てが終わってしまう絶望感に包まれた時! ……そこにさっそうと現れるブラック! 普段は一匹狼の為に出番は多くない! しかし、その圧倒的力を持って強力な敵をも葬ってしまう! こんなカッコいい存在に魅了されない者はいるでしょうか!?」


 ベルは顔を横にフルフルと振る。


「先日の戦いはよくある通常話。普段のメンバーでも勝てる相手でした。そんな時に秘密兵器の力が必要でしょうか?」


 俺は力強くベルの肩を掴んだ。


「しかし、いつか我々の力でも敵わない強大な敵が現れるでしょう! 我々が倒れ絶望が満ちた時、あなたの力が必要なのです! ベル様……いいえ、秘密兵器、ベルブラック‼」


 俺の熱弁を聞いたベルは軽くふっと鼻を鳴らした。


「ふん。そうやってあまり我に頼るなよ。我の力は特別な時にしか使わんからの。まあ、そこら辺の雑魚はお主らがなんとかしろ。なんせ我は……秘密兵器じゃからの!」


 そうキメ顔したベルは、さっそうと宿場の出口から出て行った。


 あれがベルにとっての一匹狼であるブラック像なのだろう。


 俺はそんなベルの後姿を見ながら一つの事を思った。


 ずっと秘密だったらいいのに……と。

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