第23話 愛って、いろんな形があるよね

 食料を手に入れた俺は、ベル達の元に戻って来た。


「どうです? 少しは気分がスッキリしました?」

「はい。スッキリというか、さっきの事なんか吹っ飛ぶくらいの不安な事があったから」

「えっ?」

「あのヴィディーテさん。ラテパルって一体どんな街なんですか?」

「ん~。あそこはですねえ……」


 ヴィディーテさんが説明をしようとすると、空気を読まない女神がわめきだした。


「何をもたもたしておる! 我はお腹が空いとるのだ! 早く供物をよこさんか!」


 無視をすると何をされるのか分からないので、とりあえずこのニート女神に適当に買って来たカレーパンを渡す。


 すると、ベルは駄々こねを止め幸せそうにカレーパンを食べだした。


 本当に単純な奴だな。まるで子供を相手にしているみたいだ。


「あの~。私がお願した物も買ってきてくださいましたか?」

「あっ、ああ。ちゃんと買って来ましたよ。って言うか、本当にこんな物までこの世にあったんですね?」


 買い物袋からヴィディーテさんに頼まれた物を取り出し渡す。


「はい。頼まれた月刊少女漫画『カチューシャ』です」


 それを受け取ったヴィディーテさんは、目を輝かせ嬉しそうな顔をした。


「わ~。ありがとうございます! 今月号楽しみにしていたんです!」


 そう言うと、木陰に座ったヴィディーテさんは夢中に雑誌のページをめくりだす。


 すると、カレーパンを咥えたベルが横から雑誌を覗き込んだ。


「何じゃそれは? 軟弱な絵じゃな。修行とか特殊能力とか出てこんのか?」


 こいつの頭は中二か?


「ふふふっ。ベル、これは愛の本よ。ここには様々な形の愛が描かれている、とても素晴らしい読み物なの」


 そう言いながらヴィディーテさんがページをめくると、ベルは顔を真っ赤にした。


「なっ、なななななんじゃこれは⁉ はっ、はははは破廉恥過ぎるぞ!」

「ふふふっ。これも愛の形よ」


 ベルは手で顔を隠しながら、指の隙間で本の内容を見ている。


 最近の少女漫画は過激だとは聞いていたが、一体どんな内容が描かれているのだろうか?


 あの中に加わって見るわけにもいかず、気まずい思いをしながら自分で買って来たおにぎりを咥えた。


「なっ、何じゃこれは? お、男同士でじゃぞ!」

「ふふふっ。これもまた違った愛の形」


 おいおい。本当に大丈夫か?


「なっ何じゃこれはああああああああ! 何でこんなに人数がいるうううううう!」

「ふふふっ。これも愛!」

「おい! この世の出版社の倫理観はどうなっているんだああああああああ!」

 

 ベルはその後ポンコツ号の中に逃げ、顔を赤くしながら体育座りをし、ブツブツと何か独り言を言いだした。


 ヴィディーテさんは雑誌を夢中になって読み、読み終わるとホクホク顔で雑誌をそっと閉じた。


「ふ~。もうお腹いっぱい」


 俺はその間、気まずい思いのままヴィディーテさんの前でご飯を食べていた。


「あっ、そういえば!」


 空気を変えようと、何となく違う話題を振る。


「何で俺ってお腹が空くんですか? 一応ここはあの世なわけで、空腹とは無縁だと思っていたんですけどね」


 以前から思っていた何気ない疑問を言ってみた。


「ああ、それは簡単ですよ。この世に留まる為です」

「留まる?」

「ええ、どの世も生き物とは欲や意義を原動力として生きています。それはここでも同じ。何かの欲の為にこの世に居られるのです」

「へー。欲って案外大切なんですね」

「ええ。欲とはその場に留まる為に必要なもの。ですからここで欲や意義を失うとその存在が消えてしまうので、注意してくださいね」


 あの欲の塊のニート女神とは無縁の話だな。


「分かっていただけましたか?」

「はい。有り難うございます。ヴィディーテさんのお陰で、いい勉強になりました」

「ふふふっ。良かった。あと私も質問があります」

「えっ、何ですか? 俺に答えられる事なら何でも答えますよ」


 すると、さっきまでの朗らかな笑顔から一変し、黒いオーラをまとった様な雰囲気を出しながら俺の目をじっとりと見つめてきた。


「何故、さっきから他人行儀に『ヴィディーテさん』って呼ぶのですか?」

「えっ?」

「私の事は気軽に『ヴィディ』と呼んでもいいのですよ」

「あっ、あのなんていうか……」

「何で?」

「いや、あなたは女神ですし、礼儀と言いますか」

「ねえ、何で?」

「あの、その……」

「私は理由を聞いているのですよ」


 何度も彼女の無機質な質問が返ってくる。


「…………わっ、悪かったよ。ヴィディ」


 俺の呼び名を聞くと、ヴィディーテさんはいつもの笑顔に戻った。


「はい。あなた」


 …………こっ、怖えええええええええええええええ!


「あ、あと。心の中で呼ぶ時もちゃんと『ヴィディ』って呼んでくださいよ」

「はっ、はい……」

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