第22話 新たな目的地 ラテパル
イザデールを後にしてしばらくたった後、俺は疲弊していた。一人分の重量が増えたせいもあるが、それ以上に俺は疲弊していた。
「……あの……少し休んでいいですか?」
「う……うむ……そうじゃな。そこら辺で少し休むとするか」
いつもは高飛車で無慈悲な女神が、同情の目をこちらに向け、妙に優しくこちらの提案を受け入れる。
俺は近場にあった大きな木の木陰部分にポンコツ号を止める。
「はぁ……」
腹の底から俺は深い溜息を吐き、木にもたれる様に体育座りをした。
「まっ、まあ、あれじゃ。生きておればいつか良い事があるぞ」
ベルが珍しく、慰める様に話し掛けてきた。
「生きていればか……ふっ、もうほとんど死んでいるんですけどね……」
何故ここまで落ち込んでいるかというと、ここに来るまでに起きた様々な出来事のせいであった。
生真面目な俺は、二人を乗せたポンコツ号を頑張って引きずっていた。
そんな俺が無くさないように首から下げていた『女神カード』ことニート製造カードのキラキラ光るものに、天界に住まう普段穏やかな鳥が反応し、いきなり襲い掛かって来た。
その鳥に突かれながら必死に逃げた俺は、道端で幸せそうに寝ていた犬の尻尾を踏んでしまい、それからも追いかけられる羽目にあった。
そして走り回る俺の前に、何故かこの世で猿回しの練習をしていた猿のご褒美用のバナナを誤って踏みつぶしてしまい、激怒した猿にも追いかけ回された。
そのまま俺は鳥と犬と猿を引き連れ、鬼ヶ島へと向かい、悪い鬼どもを懲らしめて財宝を手にし、幸せに暮らしましたとさ――
とはいかずに、鳥に突かれ、犬に噛まれ、猿に引っ掛かれと鬼の様にボコボコにされ、俺の昔話は幕を閉じた。
「まあ、あれじゃな。ある意味あそこまで動物たちに追われるなんて、この世では珍しいぞ! お主、何か特別な物を持っとるのかもしれんの!」
「ふっ、そうですね。例えきび団子を持っていたとしても、あそこまでの熱烈なラブコールはされないでしょ。特別な物……ああ、そうか。きっと俺に残された微かな幸運という名のきび団子を食い散らかしに来たのかな?」
俺はそう投げやりに言うと、再び深い溜息を吐きつつ俯いた。
「~~~っ! でいっ!」
「痛っ! 何するんですか!」
ベルは落ち込む俺の頭に、チョップをしてきた。
「ええい! いつまでもウジウジと! 何故我がお主に気を遣わんといかんのじゃ!」
「いいじゃないですか、たまには! 俺だって落ち込んだり、ウジウジしたい時があったりするんですよ! そんな時ぐらい優しくしてくれたり、甘やかしてくれたりしてもいいじゃないですか! あなた女神でしょ!」
「うるさい! 優しくされるのも、甘やかしてくれるのも我だけの特権じゃ! そこにお主が入ってきたら、この世の理が崩れる! そんなことよりも、お主は我の為に何か食べ物を買って来い!」
「何だよ、その自分だけに都合がいい理は!」
ベルとそう言い合っていると、ヴィディーテさんがなだめる様に俺達の間に割って入って来た。
「まあまあまあ。二人とも落ち着いてください。ほら、幸太さんもこんな所で落ち込んでいるよりも、買い物でもして気を紛らわした方がいいですよ」
「はっ、はあ……」
ヴィディーテさんの言うとおりだ。こんな所でウジウジしていても仕方ない。俺は買い物が出来る近場にある村を探しに行くことにした。
「もう。ベルは本当に不器用ね。素直に『気晴らしに出かけてこれば』って言えばいいじゃない」
「ふんっ! 誰もそんなこと思っとらんわ。我は本当にお腹が空いただけじゃ」
「はい、はい」
しばらく歩いた先に小さな町を見つけた俺は、何か食べ物を売っている店がないか周りを見渡しながら探していた。
すると、数人の集団が輪を作り気合を入れている。
「よし! あともう少しで、我々の目的である戦いの聖地『ラテパル』に着くぞ! みんなここでもう一度気を引き締めるぞ!」
光り輝く防具を全身にまとい、凛々しい好青年が気合の入った声を上げている。
「ああ、そうだな勇者殿。肉弾戦は戦士である私に任せてもらおう!」
えっ、勇者? あの人、勇者なの?
「ふっ、後方支援は魔法使いであるワシに任せておくのじゃ」
「みんなー。心配しないでガンガンせめてね! どんなに傷ついても賢者である私が、回復魔法で治してあげるから!」
「うん! 僕はなんて逞しい仲間を手に入れたんだ。このパーティーならどんな魔王でも打ち勝てる! 恐れるものは何もない! 行くぞ、いざラテパルへ!」
「「「おー!」」」
えっ、何で天界に勇者のパーティー? ラテパルに魔王がいるの? ラテパルっていったいどんな場所なの?
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