第12話 その町の中心で、男は一人のオタクと出会った

 翌朝、チュンチュンという小鳥の鳴き声で目を覚ました。


 あーあ。昨日の出来事は夢じゃないんだよな……。出来ればこのまま惰眠をむさぼり、現実逃避をしたい。だけど、そういうわけにもいかない。しょうがない……起きるか。


 そう思い、顔を横に向けると――


「おはようございます」


 そこにはベッドの隣で正座をして、こっちを見ているヴィディーテさんがいた。


「うっお!」


 正直めちゃくちゃ驚いた。


「なっ、何してるんです?」

「いえ。気持ちよさそうに寝ていらしたので、ちょっと寝顔を見ていました。朝食の用意が出来ていますので、よろしければどうぞ」


 そう言うと、何も無かった様にヴィディーテさんは立ち上がり、部屋を出て行った。


 ……いったい何だったんだ?

 


 朝食を食べた後、俺は何かのヒントを得る為に街に出ることにした。


「それじゃあ、ちょっと行ってきます」

「はい。いってらっしゃい」


 ヴィディーテさんは、わざわざ店先まで見送りをしに来てくれた。


 女神は女神でもどこかのニートとは大違いだ。


「ふふっ、なんだか新妻みたい」

「えっ、何か言いましたか?」

「いえ、なにも。それより、頑張ってくださいね」


 笑顔で手を振ってくれるヴィディーテさんと別れ、俺は街の中心街に来た。


 だが、作戦と言ったもののどうすればいいのか……。


 周りを見渡すと、幸せそうなカップルが多く、幸せオーラが満ち満ちている。


 一方は幸せの絶頂、かたやこっちは消滅危機にある不幸な存在。


「同じ場所に居るのに、どうしてこうも状況が違うのか……」


 とりあえず、今はこの理不尽な差に悩んでいる暇はない。この前も言ったように、相手との実力差を縮める事を考えなくては。


 しばらく考えた俺は、ある結論に至った。


「そうだ! 装備だ!」


 ゲームで魔王と戦う時もそうだが、強い相手と戦う時にはそれに見合った装備が必要となる。


 相手を圧倒する強力な武器や防具を身に付ければ、相手が悪魔でも勝てるかもしれない。


 そうとなれば、早速武器屋に行こう! どんな高価な武器でも大丈夫だ。何故なら、こっちにはニート製造カードがある! 相手の力を、財力で圧殺してやる。


 そう決めた俺は、早速街の人に武器屋の場所を聞きに行った。


 数時間後、俺は街中で佇んでいた。街中で武器屋を探した俺だが、聞いた人々に


『ここは愛の街だよ。武器屋なんてあるわけないじゃん』と言われたのだ。


 いきなり出鼻をくじかれた俺は、カップル達がたむろしている噴水に一人腰かける。


「はあ~。このままじゃ、消滅まっしぐらだな……。幸せな第二の人生……はかない夢だったな……」


 その時、そんな既に諦め気分の俺の前に、一人の男が立ち止まった。


「おっ、これは、これは。誰かと思えば、アルティメット・ラブマスターではござらんか。こんな所で、何をしているのでござるか?」


 この恥ずかしい二つ名を呼ぶ男の顔を見ると、それは前日にヴィディーテさんの店に来ていた客の一人だった。


「こんな所に一人でおられるから、我々の同志と思ったのでござるが。何やら思いつめた顔をして、どうしたでござるか?」


 愛の街『イザデール』。その町の中心で、男は一人のオタクと出会った。


 俺は相談できる人もいなかったので、愚痴をこぼす様に今までの経緯をそのオタク君に話した。


「そうだったでござるか……。それは災難でござったな。それにしても、その悪魔はけしからんでござる! 我々は、あの店では紳士でなくてはいけないでござる。それが、あの楽園での掟!」


 オタク君は何故か、どんどんヒートアップしていく。


「そもそも! 愛は押し付けるものではござらん! 愛とは本来、愛でたり敬愛したりするものでござる! それをなんたる……嘆かわしい!」

「おっ、落ち着けよ」

「す、すまんでござる。拙者、愛の事になると我を忘れてしまうでござる」

「いや、いいよ。こっちこそ、つまらない愚痴を聞かせて悪かったな。どこかに行く途中だったんだろ?」


 俺の言葉を聞くと、オタク君は慌てて腕時計を見た。


「いっ、いけないでござる! これから『うさ耳 ピョンピョン。愛しい君だけのラビちゃん』写真集の発売だったでござる! 観賞用、保存用、実用用と手に入れなくてはいけないのに! このままでは売り切れてしまう! 急がねば!」


 オタク君は慌てて立ち上がった後、俺の方に振り向いた。


「もしよければ、貴殿もご一緒しないでござるか? 今から行く書店は写真集だけでなく、他にも面白い本が多いでござる。きっと気晴らしになるでござるよ」


 本屋か……。天界の本屋ってのも珍しいな。もう行くことも無くなるかもしれないから、行ってみるか。


 そう思い同行することにした。


「では、早速行くでござるよ。アルティメット・ラブマスターよ」

「うん。その呼び名、止めて」

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