第3話
称号、それはこの世界において探索者たちの才能、そして優劣をはっきりと分ける存在だ。
ライセンスカードを使いその称号をセットすると探索者の全てのステータスは飛躍的に上昇する、いわゆるステータス補正が発生するのだ。
そのステータス補正の効果を凄まじく、称号をセットしていない探索者と称号をセットした探索者たちの間では武器と素手でやり合っても覆せないほどの戦力差が生まれる。
つまりステータス補正が大きく強力な称号を得ることが探索者と成功の第一歩なのだ。
しかしこの称号というのは得られるかどうかがまさに才能なのである。
単純な話、スライムを同じ数だけ倒したとして称号を得られるかどうかは別の話なのだ、あるいは称号を得るためにずっと同じモンスターを狩り続けたとする、それでも……何十年とその行動を繰り返しても称号を得られない人間は得られない。
称号を得られる者と得られない者そしてより強い称号を得られる者と大して強くない称号しか得られない者、ここには明確なヒエラルキーが存在していた。
結果として才能のない探索者は早々にドロップアウトして社会の歯車になることになる。
そして俺はそのドロップアウトした側の人間だ。
大卒が就職する人間の前提条件となる現代社会。
親の金銭的な理由で大学を諦めて高卒で働きに出ることになった俺は色々あり人の下で働くのを諦めて探索者になる道を選んだ。
それから五年ほど探索者として称号を得るところまではいった、だがその称号はどれもこれも大抵の探索者なら持っているようなしょうもない称号ばかりだった。
俺には探索者として成り上がる才能はなかった、そのことを自覚して探索者を辞めたんだ。
「そんな俺が偽物とはいえまさか神殺しなんてものを得るなんてな…」
スマホでしばらく探してみたがそんな称号を持っている探索者の情報は一つもなかった。
称号の効果の有無は実際にセットしてみないとわからないが基本的に『竜殺し』や『巨人殺し』に『幻獣殺し』みたいなやたらと物騒な称号の方がステータス補正は大きい。
そしてステータス補正が大きい称号とはすなわち格上の称号ということだ、もしこの『神殺し(偽)』の称号が 俺がかつて欲しくて欲しくて仕方がなかったその手の称号だったら……。
俺は静かに息をのみ、ライセンスカードを操作して『神殺し(偽)』の称号をセットする。
その時、冷静な部分の脳が言う。
イヤイヤ流石に酒で酔っぱらった自称神なんてぶちのめしたくらいでそんな大した称号をゲット出来る訳がねぇだろっと…。
それでも…それでも俺はその低い可能性に期待してしまうのだ。
俺はライセンスカードを見た。
【名前:
【性別:男性】
【称号:神殺し(偽)】
【筋力:EX】
【知力:S】
【魔力:EX】
【俊敏:EX】
【精神力:EX】
【器用度:S】
【幸運:EX】
【状態異常耐性:EX】
【精神異常耐性:EX】
【神殺し(偽)】
【神を騙る者を倒した者に与えられる称号。神または神性を持つ存在やそれに比肩する存在との戦闘においてステータスを超強化する。】
「マジかよ……」
ステータスはFから始まりE、C、B、AそしてSとランクが上がっていく、当然最強はSランクのステータスだ。
何しろネットで有名な世界最高峰の探索者が幾つかのSランクのステータスを持っていてソイツらが本物のドラゴンを倒す動画を見たことがある。
そしてEXなんてランクは俺も知らない、なんだこれっしかしセットした瞬間に俺の全身から物凄い力が満ちるのを感じた。
これは、本当にチートな称号を手にしてしまったかも知れないぞ……まさかかつて夢見た俺ツエェェしながら余裕でダンジョンでモンスターを倒してバンバン稼いで、稼いだ金で豪遊する生活を送れるかも知れない。
心が超踊るんですけど!
「………人生って奇跡が起こるんだな」
大して努力とかした訳じゃないが、それはそれ。
速攻で後輩に話そうかと思い…そして留まる。
今宮は俺の『神殺し(偽)』の称号の事を知れば速攻で探索者になり俺に寄生する可能性が高い。
今宮はそう言うヤツだと俺は思っている。
本音はアホ1人連れても問題なくダンジョンで稼げれば別に構わないのだが……と言うかアイツならダンジョンにも行かずに俺だけに行かせる可能性の方が高いか。
「……………」
「ん? 先輩、何かやけにニヤけてませんか?」
「別に何でもないよ?」
俺は全力で誤魔化す事にした。
時間まで働きエロ本を買ってコンビニを出る。
今宮のやつに「聖夜の爆乳フェスティバル……先輩は本当にデカチチ好きですよねぇ~~」と言われても買ったぜエロ本。
そして薄らと明るくなる空を見上げながら、俺自身の人生の夜明けも感じていた。
会社での仕事? そんなの無視だろ、それより俺はこの『神殺し(偽)』の称号によるステータス補正がどれだけのもんかを検証すると言う大仕事があるんだよ。
その結果次第では退職代行サービスへと連絡するつもりである。
「病気で休みますとメールくらいはしとくかな」
軽やかになる心と身体、俺はそのまま近場のダンジョンへと足を向ける。最早時間が夜とか関係無くなっている俺なのであった。
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