第12話 選定の儀(祭)

「さぁ、皆さま! ついにこの日が来ました!」


 芸術都市アートのど真ん中に位置する大広場。ここは毎年様々な催しを行う際に使われる場所だ。例えば、芸術家たちが自分の作品を展示、又は競売などである。


 今回の聖剣シーリアスの選定の儀はこの広場で行われる。理由は単純、以前の使い手であった《美烈創漢》ジェスコフ•ライノスキーの遺言だから。彼は勇者であると同時に創作者である。絵画から童話、あらゆる分野に渡りその才能を発揮した。


 聖剣を手にして魔物の軍勢を単騎殲滅をし、彼の築いた屍山血河を絵に収めた作品『紅の荒野』はオークションで数十億という値がついた。


「あの、天災! ジェスコフを超える怪物が生まれるのか!? 乞うご期待!」


 白色のモヒカンが特徴的な司会の男がノリノリであった。



☆ ☆ ☆



「……なんでこんなお祭り騒ぎなの?」


「気にしないほうがいいよ。 ……疲れるだけだし」


 選定の儀当日。

 僕はこの場のテンションについていけなかった。

 選定の儀はもっとこう、粛々と行われるもののはずなんだけど……。なぜか広場には屋台などが並んでいた。

 

「勇者誕生はめでたいことですから……」


 愛那の言葉僕に向けられたというより、自分に言い聞かせるようなものだった。


「とりあえず、エントリーしましょう」


 1人平然としているアリスがとても逞しく見えるのはなんでだろ……。


「頑張ってください!」


 みんなに温かく見送られながら列に並ぶ。


「おい、アンタ冷やかしならやめときな」


「えっ、僕ですか?」


 前に並んでいた人が急に声を掛けてきた。格好はワイルドな山賊スタイル。普通ならかなり浮いているけど、今この場ではなんだか懐かしさを感じる。不思議。


「いいか、聖剣に選ばれるってことは修羅に身を置くことになる。 お前みたいなヤツには到底無理だ」


「まぁ、見てな。 新しい英雄の誕生を……」










 ……山賊風の英雄、アリかもしれない。



☆ ☆ ☆


「それでは次の方どうぞ!」


「待て! もう一度だ!」


 先ほどの次代の英雄(山賊風)さんは聖剣に触れることすら許されなかった。


 聖遺物は意識を持っており、武器が人を選ぶ。選ばれる人間は武器によって変わるが、シーリアスは雑食な分類に入る。それに触れることすらできないのは中々に嫌われている。


 スタッフに引き摺られながら、会場を出される男を見送り、聖剣の前に立つ。


 (マジかで見ると、酷いなぁ)


 それは聖剣の見た目にあった。黄金の刀身に取り付けられたハートマークの宝石。別の聖剣シェアフリートをマジかで見ていた、シオンからすれば使うのは躊躇してしまう見た目だ。


「……よし」


 意を決して、聖剣の柄に触れーーー


「ーーーーーーーッ!」



 













「ダーリン! 会いたかった!」


「いえ、違います。 人違いです」


 つい、反射的にそう言ってしまった。




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