第9話 天魔竜テレシア
雲の上。それは空を漂っていた。
全長4メートル程の体躯、全身が白い体毛に覆われた竜。そう、それは竜だ。鱗を持たない白竜。天魔竜テレシアだ。
頭の上に展開される光輝く魔法陣、純白の汚れなき6枚の羽は天使を彷彿とさせる美しい竜だ。テレシアはワイバーンの変異した存在であり、魔物には毒である光の魔力を持つのだ。
自分の糧となる餌を探すために。光の魔力を持つ生物はテレシアを除けば人間だけだ。光の魔力以外を取り込む気はない。不純物が混じり、力の低下を嫌うため。だが、それではこの空腹感は強くなる一方だ。
テレシアは地上の街を見下ろし、餌を探す。雲上からだと街は小さく、もっと言えば人間など胡麻粒だ。しかし、テレシアには分かる。どの人間が光の魔力を持つのかが。
そしてテレシアは襲いかかる。より、強くなる為に。
☆ ☆ ☆
少年はスリをして生計を立てていた。自分でも悪いことをしている自覚があった。だが、他の子たちが食べるにはこれしかないのだ。冒険者という道もあった。だが、それ以上に奪取というスキルがあまりにも便利過ぎた。わざわざ、低賃金での雑用をするより盗むほうが楽なのだから。
「お前ら帰ったぞ〜」
ボロボロの今にも倒壊しそうな家に彼らは住んでいる。
「おかえりなさい〜」
幼い子供たちがワラワラと囲い込んで来る。みんな痩せ細っているものの笑顔だ。それを見ただけで少年は心が痛む。
彼らの故郷は焼かれたのだ。死齎蟲イザナによって。今でも夢に見る。全身を防護服で包み、鳥のクチバシを連想させるマスクをした人たちが炎の魔法で村ごと全てを焼き払うのを。
「今日はなー、大金が手に入ったんだよ。 だからいっぱい食えるぞー!」
少年の声に喜びの声を上げる子供たち。ここ暫くはあまり収穫が良くなかったので、かなり、我慢させていた。だが、それも暫くは大丈夫だろう。やたら身なりのいいボンボンから上手く盗めたのだ。
「ねぇ、ちょっと来て」
「あ?」
家の奥から同い年の少女が出てくる。自分とは違いかなりの美人だ。服は汚いのにも関わらず品を感じるほどに。
「なんだよ、話って」
「いつまで盗みを続けるつもり?」
何の脈絡なく問いかけて来る。
「なんだよ突然?」
「アタシは治癒魔法が使えるの。 教会に行けばみんな保護してくれる筈よ」
彼女は治癒魔法が使えるのだ。流石に聖女のような力はないが、それでも充分だろう。
「俺たちの村を焼いたのはその教会の執行者だろうが」
無意識にギュッと拳を握る。その手は爪が食い込み、出血し始める。
「でも、こんなのいつまでも続けるなんて……」
「分かってる。 これで最後だから。 しばらくは金に余裕が出来た。 今のうちにどこか働き口を探すさ」
「本当?」
「約束だ」
「約束よ。 ……手、出して」
言われた通りに両手を出す。血が滲み痛々しい。と、その時ーー
「へぇ、可愛い顔してんな、おい」
「ッ!?ーーぐっ」
背後から声がする。振り返ろうとするより速く、衝撃が後頭部に走り、そのまま床に倒れる。
「カイン!?」
「この盗賊もどきがよ! 俺様は勇者だぞ! その軍資金を盗むなんざ死刑だぞ、おい!」
何度も腹を蹴りつけながら、そいつは口汚く罵ってくる。
(こいつ、勇者か!?)
身なりはなかなかだったのを覚えている。だからターゲットにしたのだから。だが、まさか勇者だったとは。だから、ここまで追いついて来たのだろう。
「まぁ、これはお前の死と、そこの女を犯して償って貰うか」
「ぐっーーぅ」
何とか力を脚に込めて、立ち上がる。自称勇者は肩に(おそらくだが)聖剣を担いで余裕の表情だった。というか、股間の部分がやたら強調されていた。
「あの女、まったくヤらしてくれなくてな、随分溜まってんだわ。 簡単に壊れんなよ?」
「ひっ」
恐怖の余り、腰が抜けてしまう。これから自分がどうなるのかが簡単に想像できる。
「にげ、逃げろ!!」
「うるっせぇぞ!!」
「ぐっ」
乱暴に振り下ろされる剣を紙一重で避ける。
ドガンッ!と派手に床を粉砕してしまう。まともに食らえば即死だ。
何とか状況を変えるべく思考をフル回転しようとしたその時ーーー
屋根が崩れる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます