第6話 再会と邂逅
「兄貴! 兄貴! 大丈夫っすか!?」
「あっ、あぁ、多分な。 生きた心地しねぇがよ」
グレンは10メートル近く吹き飛ばされた先でボロ雑巾のようになっていた。身体のあちこちが痛む。
……あの嬢ちゃん何者だ?
重い身体を気合いで起こす。あんなものを正面から受けて良く生きてるなと、他人事のように思いながらシオンの方を見る。
流石のオレにも分かる。戦闘面はからっきしでもサポートでいえば引く手数多であろうシオン。身体能力、魔法、剣術どれをとってもAランクは間違いなくあるアリス。
「兄貴? あんま……」
「大丈夫だよ」
最後の魔法、あれは全力でないのは分かる。街中で、しかも人間に向けて放つものではない。だから、ギリギリまで抑えたのだろう。それでもやり過ぎだが。
シオンと腕を組み褒めて褒めて、と頭を撫でもらっているアリスが近くグレンに気付き緩んだ表情を引き締め、腰の剣に手を置く。
「まだやるの?」
「いや、もういい。 次は確実に死ぬからな」
「じゃあーー」
と、その時。
「見つけた!!」
グレンが吹き飛ばされた方から綺麗な声が夜に響き渡る。
☆ ☆ ☆
「クソがッ!」
男は1人酒場の隅で荒れていた。
「俺は勇者、選ばれた人間だぞ!? それがなんで……」
勇者、それは特別な存在だ。特殊な武器に選ばれた者に与えられる称号だ。キースは
「どうかされました? 随分と荒れているようですが」
「あぁ?」
キースの隣の席に自然に着く何者か。
「ーーーッ!」
それは衝撃。初めてアリスと出会った時以来のものだった。青みがかった黒い髪、貌は小さくパーツ一つ一つが良く出来ている。かなり特徴的なローブを纏っており、キースの情欲を誘うような色気がある。そんなアリスとは違った妖艶な美女にキースは思わず見惚れた。
「どうかされましたか?」
「い、いや。 あんた綺麗だなって、思って……」
「あら? もしかして口説かれてます?」
脚を組み替える女。その一挙一動にキースの視線は釘付けになった。
「聞きましたわ。 あなた、あの勇者様だと」
「そ、そうなんだよ! 俺さ、勇者なんだよ。 すごいだろ!」
これでもキースは自分にかなりの自信を持つ。勇者としての力。異性なら人妻すら虜にできる容姿、そして、何よりも精力だ。アリスたちに2年間ずっと手を出すことが出来なかった。無理やりというのも考えたが相手はみんなかなりの力量の持ち主。それに地位も相当なものだ。いくら勇者でも合意がなければまずい。
だから、キースは適当にそこそこ良さげな女を娼婦から街娘、人妻目の前まで見境なくやってきた。みんな勇者の名を出せばすぐに股を開く。だから、この女もそうだろう。
「ええ。 そんな、あなたの元を愚かにも他の仲間は立ち去った、と」
「ーーー」
それを聞いた瞬間、キースは無意識に腰の聖剣に手を伸ばす。今すぐにでも自分をコケにする存在を抹消するために。
「お待ちになって」
剣を握る手に彼女の手が伸びる。抜かさないようにしないのではなく、優しく包み込むような感じで。
「わたしはマリン。 あなたの味方です」
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