第4話 語り部
「サネー! おーい、サネが何処に居るか知っている者はおらんか?」
大爆弾の投下から1時間もすると、家にサネのいない事に気づいたお父さんが、サネを探しはじめました。
「サネは今日、街に買い物に言ったじゃ」
誰かが言った。
サネの父は、すぐさま押し車にワラと衣を沢山積み込んで、街の方角ヘ飛び出して行った。
30分程も進むと、前方にフラフラとこちらへ歩いて来る人影があった。
髪の毛がチリチリになって、身体中火傷をしている様子ではあったが、彼はそれが自分の娘だとすぐに判った。
駆け寄って抱きしめようとする父に向かって、サネはか細いがハッキリとした口調でこう言いました。
「お父さん、触らないで、痛いの」
村で5本の指に入る美人の娘の変わり果てた姿を見て、父は膝から崩れ落ちて言葉にならない叫びをあげて号泣した。
やや落ち着いて来ると、父は娘を優しく押し車に乗せてやり、隣街の病院ヘ向かった。
途中サネが喉の乾きを訴えたので、米屋で水を貰って飲ませた。
病院は、爆弾の怪我人でごった返していたが、父の友人の先生がいたので、頼みこんでその日から入院出来る事になった。
親類や友人が入れ代わり立ち代わりサネのお見舞いに訪れたが、サネは決して泣かなかった。
サネは心が強いから乗り越えられると言うエレナの言葉が支えていたからだ。
エレナは泣いても良いのよ、と言いましたが、サネは泣きませんでした。
サネは2年間入院し、一般の生活に戻る事になり、事件となった現場へ赴いた。
あの日が全く嘘のようであった、アナウンサーを夢見ていた事、爆弾の被害の光景を思い出していた。
建物が破壊されて、今は広場になっている所で、いくつかの人だかりを発見して、サネはその一つに近付いてみた。
人だかりの中央であの日の出来事を熱く語る人がいた。
サネの中で閃くものがあった。
一通りの話が終わると、サネは語り部に近付いて言った。
「あの。私もあなたと同じ事がしたいです」
語り部は、サネの容姿を見てすぐに理解して、彼女にいろいろ指導してくれました。
サネは、あの凶悪な爆弾の事を語り継ぐ「語り部」になりました。
語り部達は、爆弾を落とした人や国を非難する話は一切しませんでした。
ここであの日、何が起きたかをただ克明に語ったのです。
彼等の崇高な活動に心動かされて、何度も此処へ訪れる人は少なくありませんでした。
来る日も来る日も、雨があっても風が吹いても、そこに人が来る限り伝えたのです。
語り部を続けている中で、サネはくるぶしの下のしこりが無くなっている事に気が付きました。
サネは語りの最後に必ずこう付け加えました。
「でもねぇ、私は知っているんですよ、この爆弾の事で一番苦しんだのは、この爆弾を発明した人と落とした人だって事をね」
サネは86歳で亡くなる迄、語り続けました。
柔らかで幸せそうな顔をしていたそうです。
お通夜でサネの遺体が無くなる騒動がありましたが、それはエレナが仲間のホワイトブラザーに頼んで宇宙船に運びこんだからです。
サネの骨は、宇宙船の周回する宇宙に撒かれました。
そんな訳で、今も戦争が無くなる事を信じていたサネのスピリットが、宇宙から私達を信じて見守っているのです。
サネはもう一度、私達が別の星に移住する計画の進む頃に生まれて来て、再びホワイトブラザーの仕事をするそうです。
その後更に生まれ代わって、エレナとして活動すると言っています。
そう、白づくめのエレナは、サネの未来世だったのです。
エッ、君の身体に錠剤位のしこりがある?
もしかしたら、ホワイトブラザーに選ばれているかもしれません。
自分の希望をよく調べて見て下さい。
自分より、世界の幸せが気になるようだったら、選ばれている可能性が高いです。
白づくめの人達 @mody
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます