前日譚─終「太陽」


「これが・・・神龍殺しジークフリート・・・」


殺意の圧が違う、深さが違う。

あれがただの復讐者というにはあまりにも底なしだった。

それでいて復讐の先の未来を望んでいるなど、とても考えられなかった。


だが、逆をいえば・・・彼は、理土月啓介は己をどこか見放して、控える末路に身を任せているように思える。

自身を蔑んでいるように思える。


それが、何処か親近感が湧いてしまったようで──


「どう、リサさん。竜狩りに相応しい証明になったかな?」


横から聞こえた声に、リサは正気に戻る。

知らず深く考え込んでしまったからか、彼女の声に反応するのが遅れてしまった。


「竜狩りの一員として私は二人が竜狩りになることそのものに異論はありませんし、恐らくは一級品の戦力として期待できるでしょう」


リサは心を静めて、一切の私見を抜きにして言う。

文句なしだ。これ以上ない、対竜の特攻兵器そのものだ。

間違いなく竜狩りに貢献できる戦力だろう。


あの異能、或いは兵器と見ていいのだろうか。

あれもまた間違いなく、研究者から見ても興味津々となることだろう。

理土月兄妹の思惑は、リサの眼から見ても果たされることは目に見えていた。

その成果が出るかどうかは、また別の話だが・・・。


「・・・ミサキさん」

「ん?」


そして、つい心の底から出てきた疑問を投げてみたいという意思が出て、ミサキの名を呼ぶ。

この場にいる彼女に対して、思ったことが、聞きたいことがあるのだ。


「・・・そんなに、竜を滅ぼすことが良いことだと思いますか?」


竜狩りとして、失格な問いだと自覚しながら。


「・・・分からない」


それを、実に曖昧に神龍殺しジークフリートの片割れは答えた。

意外な答えに、少しリサは目を丸くした。


「私たちは怨みで竜を滅ぼそうとしているけれど、それが良いことかと言われたら・・・どうだろう。

確かに人間社会にとっては良いことだけど、果たして善悪抜きにした命の在り方として正しいのかは・・・私には分からないかな。だって」


いつも明るい調子の彼女も、彼女なりに深く考えていて・・・それでいて今も悩んでいるようで。


「殺しは殺しだから。その行為そのものは、決して褒められたものじゃない。家畜を殺すのとも、また違う。絶対的に違う生き物だけど、同じく知能を持ってる生き物だから・・・また違った感覚なんだろうな、というのは思う。


私は兄さんほど光狂いじゃないから、ずっと兄さんに励まされっぱなしでさ。

この先が本当に正しいのか、私はずっと疑問に思いながら戦ってる。

戦った先も、どんな未来を描くのかもね」


なるほど、立派だ。だが定まっていない。

彼女が戦えるのは、兄がいてこそなのだろう。


「リサさんは・・・」

「行きましょう。ジャイロ=キロンギウスが待っています」

「え、ちょっと!?」


兄の方であるケイスケの方は・・・きっと相いれないかもしれない。

何より、リサは本心を明かすことはない。

きっと受け入れられるような価値観ではないから。

だからこうして、誰かの為に礎にならんと己を捨てているのだから。


彼に親近感を覚えたのは・・・きっと気のせいだとリサは自分に言い聞かせる。

竜を殺していることが罪ならば、お互い同じであるのだし・・・何よりリサはケイスケほど殺意に塗れていない。

共通点など、あるはずもない・・・そう思ってリサは本心を決して明かすことなく、責任者であるジャイロのところへ向かうのだった。












「歓迎するぜ、神龍殺しジークフリート──我が戦友」

「ありがとう、臨界突破オーバーロード──神龍滅殺を果たそう」


よって、後は順当に竜狩りのヤマト支部における重大戦力になることは容易く。

するりとヤマト支部の上層へと受け入れられた。





あとの顛末は本筋の通り。

ヤマト支部に重大戦力や、優秀な科学者たちが集い、そして太陽が訪れる。


「私たちが、人類を守るの」


その名はエステラ。

圧倒的なカリスマ。

圧倒的な成果。

そしてちょっと抜けているという愛嬌。


彼女を慕うものは多く、彼女がジャイロという優秀な人物と変わりヤマト支部の責任者になることに、誰も異論はなかった。

だって、彼女は太陽のような存在だから。


一つ物事を起こせば、一つ言葉を発すれば、それだけで誰もが勇気づけられるから。







「───ああ、そうとも。"勝つ"のは俺たちだ」



それに負けず、奇跡にて焼き尽くす神龍殺しジークフリート

彼もまた、本来はそうなるはずのなかった人造の太陽なのだ。


斯くやあらん。

竜との戦いは、新たな舞台へと進むのだ。

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旧き世界の分岐記録/外伝 @axlglint_josyou

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