前日譚─6「終焉魔剣」
「ああ、認めるとも!人間を竜に変え、徒党を組んだ!
時代遅れの弱い肉体の人間が、竜が世界に溢れた今の環境で生きていける生物などではない!」
貴様が思っているような、ただの支配欲や殺戮などではないのだと。
「竜を狩ると一口に言っても、どこまで行っても被害者は弱者だろう!
戦えぬ者たちを守る守ると言いながら、結果はこうだ!私の下についた者たちの数が証明だ!」
そうとも、ただ嵐が過ぎるのを待つしかない者たちにとっては、自分たちを救ってくれるものこそが慕うに値する。
事実だろう、俺も認めるとも。
それだけなら良かったんだ。
だが、なぁ。実態はそうではない。
「じゃあどうして、お前は安全圏で居座って眷族、或いは信徒は嬉々としてテロ行為を行っているんだ?」
そう、これもまた事実。
眷族となった信徒たちは、その力に溺れてテロ行為を始めた。
その力を他の竜を殺すことに使えばよかったものを、寄りにもよって人間社会に喧嘩を売る形になった。
勿論、
「お前が弱者を救うというのなら、どうして更なる弱者を襲わせるんだ?」
信徒たちの行為は、
救われたと、強くなったと勘違いした信徒たちは、今まで虐げられてきたという感覚から反転し、好きに誰かを殴りたい側に転がり込んでいったのだ。
その行為を、
何も変わらない、こいつも同じだ。
「人間という脆い器と創意工夫による悪あがき。時代遅れの生命体はひどく憐れだ。
だから私は行動を起こすときに、何度も何度も唱え続けた。
旧い器から脱却すべし、救いは此処に在る──とね
それでも来ないなら・・・死んでいい
網にかからぬ虫は鬱陶しい──そういうことだッ」
なるほど。何度も伝えても来ないなら、それはもう救いのいらぬ者たちだから死んでいい。
話に乗らぬなら邪魔だけ──そうか、よくわかった。
「──つまりお前にとって人間は結局、対等なのではなく下等生物扱いなワケだ」
結論が出た瞬間、怒りが俺の底から這い上がる。
淡い期待を込めた問いではあったが、ああやはりこいつも塵屑だったわけだ。
弱者を食い物にし、自分は安全圏から操ってほくそ笑む──救いがたいほどの糞袋だ。
大剣を握る手が、より強く握りしめられる。
何も変わらない、こいつも同じだ。
この世界に暮らす人々を見下して、殺し尽くす支配者意識の塊の怪物たちと一寸たりとも変わらない。
脳裏で思い出してしまう、故郷とそこに住まう人々が焼かれていく光景。
アレと同じように跋扈する
「そうとも。少しは考えてみると良いッ!我々が一斉にこの世界で活動したことが、何かの天啓だとは思わないのか!
明らかな人間の上位種だろう!恐竜の時代が終わったように、人間の時代が終わりを迎えるということだと思ったことはないのか!」
奴は俺の疑問である"そもそも竜とは何か"という部分に触れる。
興味深くはある。確かにそういった見方もあるのだろう。
理性では確かに、議論の余地があると感じはしたが──それはそれ。
その言葉を吐くのは
「ふざけるなよ」
お前が超えてはいけない
俺とて、無益な殺生だって好まない。
無害な竜が居るのなら、それに越したことはない。
だがお前は、こうして俺たちの前に脅威として降り立っている。
それはもはや一説などではなく、俺たちへの脅威となる正当化に他ならず──
「ならお前は、お前たちが上位種であると認めろと?滅ぼされることを受け入れろと?冗談じゃない」
それを受け入れるほど、物分かりが良いわけではない。
そうとも、俺の疑問にそもそも竜とは何かというのはあるが。
そもそもとして俺は───
「奪われたものは、奪い返すんだよ。
俺たちから笑顔を奪った奴らをみな滅ぼして、その果てに求めた
そうとも、復讐は何も生まないという破滅的な結論は古いのだ。
その宿命を、俺たちは超えていかなければならないだろう。
「証明してやろう──地獄の先にも、花が咲くということを。
何もかも踏み躙られた後でさえ、人は陽だまりに辿り着けるということを」
──家族の笑顔を取り戻す為に、俺は生まれてきたのだから。
だから今こそ見せてやろう。
俺たちだけの力で足らぬなら、志を同じく出来るかもしれない者たちの力も借りるまで。
此処は、その為の舞台だ。
「黙れ、そんな出鱈目が──出来るわけがないだろうがァァッ!!」
より熾烈な連撃を、
お前にはできやしないと、断じて認めない竜の暴力。
それに対し、俺は
「──いいや、やれるさ」
整った舞台に、心の奥底に封じていた絶大の殺意を燃やして。
「『必ず遂げると誓ったんだ』」
「ッ・・・!?」
共同戦線の為に、
リサは先ほどの戦いの一部始終を見ていた。
聴覚も優れていたから、何を話していたかも聞こえていた。
だが、ミサキには聞こえていなかったはず。
なのに、ケイスケとミサキの声が重なった。
心を一つにしたように。そうまるで距離など関係ないかのように、彼らは心を
「これが、この人たちの・・・」
ようやく見ることのできる、彼らの本領。
これがリサの任務、彼らの観察。
目に焼き付けようと、その光景を見つめていた。
『だからこそ──』
顕現する銀を纏った月の絆。
空間を超えた想いが、紡ぎ出される祈りを前に互いの覚悟を同調させる。
『奪われたものを取り戻すために。これからも一緒に生き抜くために』
「もう一度、あの日のような優しい笑顔を与える為に」
俺たちで、運命を戦い抜くと決めたから。
『さあ、受け取れ──
おまえに出来ないはずがない』
ああ、そうさ。
「俺は、
「創生せよ、天に示した極晃を────我らは奇跡の流れ星」
『神慮拝聴・憑星開始』
そして、呼び覚まされる魔の月光。次元や空間を問わずに重なり合う魂が、二人で一つの異能を誕生させんと共振させた。
『略奪された木漏れ日が、焼け付く悪夢を連れてくる。
爪と、牙と、
幻想にて憧れた、怪物との
依り代のように、生贄のように、捧げられる星と宿命。
生命から溢れるような赫い輝きが片目に宿り、溢れてくる。
それと
半身から捧げられる赫い未知なる輝きが、俺の手に宿ってくる。ならば──
「ならば我が
此処は人界、天地の狭間。人界の秩序を壊す者、鏖殺すべきは
怒りに燃える殺戮者は、地獄の底で牙を剥かん」
それを担い、俺が造ろう──
この世に存在しない。次元を超えた、不死を穿つ魔の剣を
「鱗を砕き、魔剣と化せ─────
『
暴虐の終わりに輝く、色彩豊かな黄昏へと』
互いを繋ぐ不可視の
爆発的な波動を材料に究極の滅びを生み出すべく、赫い結晶が大剣に纏わせていく。
ゆえにいざ、刮目しろ。
「銀の女神よ、語るに及ばず。この身はすべてお前の
これぞ、異能によって科学の未到達地点へと導く未発見兵装創造能力。
対不死者、対怪物、対神用決戦兵器の真髄と刻み込め。
竜の暴虐を搔い潜りながら一直線に地を爆ぜた。神経さえ結合させ真に一体化した切り札をかざし、獣のように疾走する。
使用者の殺意に応え、崩壊の
殺す、殺せ、殺す、殺せと、のたうち回るように叫ぶ終焉の具現を備え、その果てにいずれ砕くべき"何か"を見据えて駆けた。
「冥府を飛び立ち、滅びの
さあ、今こそ─────怒れる魔剣に運命を」
かつての誓いを再び、此処に──そして。
ミサキからの煌めく赫い血化粧が、終焉の装填を達成させた。
『汝、
斯くやあらん。
「『
刹那、天地に轟く
叩き込んだ終焉の顎門が、邪竜の宿す永遠を欠片も残さず嚙み砕いた。
赫のエネルギーの奔流に貫かれた
こいつがそもそもこの世に存在するという根源から断ち切り、文字通りこの世から消し去るべく存在そのものを蹂躙する。
こいつが存在した記憶も記録も消えないが、それでもこの世から完全に消し去り、仮に次の生があったとしても、その可能性を食いつぶす。
「嘘、嘘だ・・・」
貫いたことで発生する肉体の消滅と存在の否定。
その二つの工程を同時進行するからこそ、一度でもこの世に顕現した者は例外なく問答無用で殺す。
よって不死の概念を許さない。
細胞があれば復活するはずの
死に向かい、濁る眼球が落下しながら俺という殺戮者を映す。
どのような理由があれ、お前の命を手に欠けたということ。その罪を焼き付けるべく視線を逸らさないこちらを見て、最後まで涙するように。
「化け物、め───私には、わからない・・・」
落ちた眼球もまた砂のように消え去った。
ヤマトを食いつぶそうとした
計画完了──神龍滅殺の幕開けは、想定した狙い通りに完遂された。
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