前日譚─4「幕開け」
「ちィィ・・・!」
そして時間は、ジャイロの兵器によって
ようやく、そう、ようやく
敵地の中枢で、床や壁や天井に触手を張り巡らせて、その中心にいる植物を纏う竜は忌々し気に見上げている。
何処までも隙だらけ。
眷族の数と巡らせた触手で己の脅威となり得るすべてに対応してきたゆえに、単純な潜入に気づけない。
そして───
「・・・ごめんなさい」
小さく呟かれた、およそ戦場ではあまりにも似合わない言葉と共に、未だ気づかぬ竜へと銃口を向ける。
全ての準備は整った。
「リサ・トロイメライ──交戦を開始します」
発せられる銃声。広いとはいえ此処は閉鎖空間。
嫌というほど耳に響く音と共に、天井に張り巡らされた触手を撃ち抜いた。
「ですが・・・眷族を増やした上で、直々に私が出れば──ッ!?」
これにて、ようやく
竜狩りが既に本丸まで潜入していた事実と、触手を一つ撃ち抜かれた事実。
それによって意識は完全にリサの方に向けられた。
「小癪な・・・!たった一人で何ができると・・・!」
たった一人の竜狩りでは、主級である
五月雨のように襲い掛かる無数の触手。
どれもこれもが貫かれれば一瞬で命が刈り取られるものであるが・・・
「ふっ・・・!」
無論、竜狩りには例外が存在する。
戦う意思を持つ一般兵、後方の研究機関、選りすぐりの精鋭・・・そして───全体の1%にも満たない、例外中の例外たち。
特に怪物に立ち向かうことに秀でている特級の戦力。
リサ・トロイメライはその一人だった。
そんな例外は無数の触手を潜り抜け、その隙間をまたスナイパーライフルで撃ち抜いて壁に張り付いた触手を撃ち抜く。
これでまた一つ、支えを喪う。
「だがそんな銃一つで、私の手足を奪えるとでも思いましたか!」
「その準備は、とうの昔に終えました」
「何を──」
「ミサキさん、もう大丈夫です」
突如発生する爆発。
このエリアの周囲に起こり、連鎖する爆発、爆発、爆発、爆発。
テロリストも真っ青な破壊工作が、この敵地にて引き起こされた。
外で地響きが起きたかのように思われたのはこの影響だろう。
天井や壁から無理やり剝がされる触手。
壊された直後に再生できるとはいえ、その触手を支えるものが無くなれば咄嗟の身動きは難しくなるのは自明の理。
「ぐ、うぐ・・・!ふざけるな!貴様たちは忘れたか!ここには人間が──」
「居たはずでした・・・けれど、もう分かっているんです」
そう、リサとしてはいてくれたらどれだけよかったか。
しかし、
「此処に訪れた人間は、あなたによって怪物に変えられてしまったのだと」
「───」
ようやく暴かれた真実。
爆発によって触手が散らされていくなか、
対して、やはりリサは悲し気な顔をするままで。
似合わない光景がそこにあったが、それがいったい何なのか答える者は何処にもいない。
『さあ!舞台は出来上がったぜ!
その目で見届けろよリサ!奴らが相応しいかどうかをな!』
無線にて伝わるジャイロの司令。
そうだ、リサの仕事はこれで終わりではない。
悲し気なまま動きが止まったリサに対して、苦し紛れに
苦し紛れとはいえ、致命は致命。
貫かれれば絶命は必須だったそれを──
『お前はこんな破綻者を見習うんじゃねぇぞ、リサ』
「・・・私は、わかりません。私は、いいんです」
リサを覆う膜が、触手を弾いた。
彼女の異能、それは単純なバリアだった。
だがその強度はこの通り、怪物の一撃を確実に受け止められる鉄壁だった。
「皆さんの力になって、私はみんなの礎になれれば・・・それで──」
それが、いまのリサを支える答えだから。
強固なまでに固めた答えは、張られた防護壁に比例するように閉じられたもの。
「だから、さあ」
自身を礎に出来る、その力を見せてもらおうとリサは
「さあ」
外にいる勇士たちもまた、待ち望んでいる。
「さあ」
その中心であるジャイロもまた、待ち焦がれている。
「さあ」
そして
「さあ、
──これにてついに、計画完了。
「貴様の
支えを喪った
絶対の好機を待ち望んだ殺戮者は、静かに運命を宣告する。
時は来たれり。いざ、殺す。
貫いた刹那、反転した掌が頭蓋を掴み──
頸椎を叩き折る音と共に、
墜落する、墜落する。何が何だか分からない。
地下へのコンクリートを貫きながら、殺戮者によって下へ下へと解体されながら落ちていく。
強引に折られ、毟られ、引き千切られる触手。
容赦なく奪い取られる対抗手段に、抜け出せる
そして地下の奥底へとたどり着き、全力で地面に叩きつけられた瞬間、
更に駄目押し──まだ足らないと、唸る追撃の兜割り。
相手が怪物だからといって尊厳を限界まで踏みにじるその所業、しかし。
「──ガ、ぐぅ!はぁ、はぁ、はぁッ」
見よ、時代遅れの
地球の大地から養分を吸い取り、細胞の一片さえあれば無傷の再生が可能なその肉体こそ不死性の証。
既に信徒を大勢抱えて、大地から養分を吸い取りながら蓄えた
根差した触手を今更剥がしたとて、なんになる?もう遅いと。本来なら誇るのだが。
しかし殺戮者は、軽い溜息を返すだけ。
やはり
辟易した気配は一瞬、鉄板じみた大剣という凶器を握りしめて、歩き出す。
理由は勿論、最後までちゃんとやるために。
「ようこそ、地下シェルターへ。いや、お前にとっては人間だった者たちの墓場か」
どこまで落ちたのだと見渡す
人間だった信徒を従え、自らの触手を植え付けて眷族へと変えたその現場こそが、この本来なら避難に使われる地下シェルターだ。
「そして、今からお前の死に場所だ。
殺し合おうか、竜の精鋭。魔剣の煌めきを見せてやる」
「貴様・・・
始まる人間と竜の死闘。
不可能を超えた
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