第2話 母はエルフ
エミリーは不満そうに青色のプリンセスのような歩きずらいドレスを身につけ、踵の低いヒール、髪は青色の薔薇の髪飾りで飾られていた。
「毎日こんな服を着るの?」
エミリーは慣れない服装に不服であった。
「はい、ですが、ドレスにも種類がありますから動きやすいものもたくさんありますよ。ですが今日は御家族との初めてのご対面ですので、今日は我慢ください。」
リリは申し訳なさそうに言った。
「ドレスも着たところで、お嬢様の家族構成です。」
フィニーがなにか紙を持ってきてエミリーの前に広げた。そこには家系図のようなものが書いてあった。
「お嬢様のお父上にあたる、国王陛下のルーカス・ベルクト陛下です。そして国王陛下の奥様のサラ・ベルクト王妃です。お嬢様の腹違いのご兄妹は3人いらっしゃいます。長男であるレイ・ベルクト王子と、次男であるノア・ベルクト王子、3番目はお嬢様と同じ王女で、ルイーズ・ベルクト王女です。」
フィニーは指で紙に書いてある名前を指さしながら説明会した。
エミリーは肩を落とした。
「気を張らなくちゃいけなくて大変そう。」
「大丈夫です!ご子息達も皆様言いたいことはハッキリ申しておりますし、お嬢様も気楽になっていただいて結構ですよ」
エミリーは「そう?」と首を傾げた。
「兄弟達はいくつなの?」
「レイ様が18、ノア様は17ルイーズ様は16歳になります。皆様年子です」
「そうなの。」
エミリーが少しほっとするとフィニーが耳打ちした。
「ルイーズ様にはご注意ください。いつもメイド達をいじめて、私も酷いことをされました。あまりルイーズ様には関わらないで下さいね。きっとお嬢様の容姿に嫉妬してなにかしてくるかもしれません。」
「私、もともと農民の子だもの言われるほど綺麗なわけじゃないから大丈夫よ。」
エミリーが小さく笑うと、フィニーが頬をふくらませた。
「お嬢様はとてもとても!それはとても美しいお方ですよ!透き通るような白い肌、小さな顔に大きく丸い目!鼻筋も通ってらっしゃいます!それはそれは人形のようにお美しいです!」
フィニーはエミリーに詰め寄った。エミリーは「ご…ごめん」と言った。2人が話していると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。リリがドアを開けるとリリとフィニーは真剣な面持ちになり、深く頭を下げた。エミリーも咄嗟に下げそうになったがフィニーに「お嬢様は上げないで」と小声で言われ、緊張しながら姿勢を正して立っていた。入ってきたのは綺麗な金髪に、透き通るような青色の目をして、軍服を着た男であった。エミリーは瞬時に理解した。
「国王陛下ご機嫌麗しゅうございます」
そう言ってから会釈した。陛下のルーカスはゆっくりとエミリーに近づき、エミリーの前で止まった。
「アンナによく似ているな」
ルーカスはエミリーの目を真っ直ぐとみていた。エミリーは動けずにいた。
「エミリーとは私の母ですか?」
「あぁ、亡くなってしまったがな。美しいエルフだった。」
ルーカスはエミリーの部屋の中を眺め始めた。
「プレゼントは気に入らなかったか?」
「単に物欲が無いだけです。」
ルーカスはしょんぼりとした。
「ルイーズはこれでとても喜ぶんだが、やはり違うか」
エミリーはルーカスをなにか怖く厳しい人のようにイメージしていたが、目の前にいる男はただの不器用な人の様に見えていた。
「あの、私を育ててくれた義母もここではなくとも、どこか別荘とかに住まわすことは出来ませんか?義母はもう60になりますし、町はずれに1人なんて住みにくくてなりません」
エミリーの心の中には育ててくれた義母のことがぐるぐると回っていた。ルーカスはそれを聞き、首を傾げた。
「あいつは中流貴族だぞ。元々王族子息の教師をしていた。いまごろ城に戻って暖かくしているだろう。愛に行きたくば行くこともできる」
エミリーはぽかんとした。
「だからあんな勉強できたのか」
「そうだ。エミリー、これをお前に渡したくてな」
ルーカスは小さな箱をエミリーに渡した。エミリーはその箱を開けた。そこには貴重な鉱石が装飾されたピアスであった。
「私に高価なものをこんなものをくださるのですか」
エミリーは目を大きくさせた。
「それはお前の母の遺品だ。私が持つより娘が身につけた方がアンナも喜ぶだろう。」
「ありがとうございます。大切に使いま…」
その時バン!と部屋の扉が開いた。エミリーはビクリと体を震わせたが、ルーカスは全く驚いた表情もしなかった。
「陛下!!まだ休憩時間ではありませんよ!転移魔法で逃げるのも大概にしてください!!見つけるこっちは一苦労なんです!」
そう言って入ってきたのはルーカスの秘書であった。
「今戻る」
「もうやめてくださいよ」
ルーカスはそう言い、エミリーの部屋から出て行った。そして入れ違うようにリリとフィニーが入ってきた。
「お嬢様、陛下と何を話してらっしゃったんですか?」
フィニーがとてもワクワクした様子で聞いた。
「母の遺品を貰ったの。」
「これはこれは綺麗なピアスですね!付けてみますか?」
「うん、母の物だし」
エミリーは元々つけていたピアスを外し、そのピアスを付けた。
「お似合いです!」
フィニーは顔をニコニコさせた。リリも控えめながら嬉しそうに笑っていた。
「そろそろ昼食の時間でございます。」
フィニーが部屋のドアを開けた。エミリーはフィニーについて行った。
長い廊下を抜け、階段を降り、ダイニングルームに入ると、皿達がふわふわと浮かびながらテーブルへ置かれ、フォークやナイフ達も自分で浮かんでテーブルへ動いていた。テーブル近くで男の子1人がなにやら手を動かして食器達を操っていた。フィニーはエミリーの席の椅子を引いた。
「ありがとう」
「いえ」
エミリーが静かに座っていると、王妃のサラがダイニングルームに入ってきた。エミリーは立ってお辞儀をした。
「ご機嫌麗しゅうございます。サラ王妃」
サラは静かに席に座り、エミリーを見た。
「貴方がエミリーですね」
「はい」
サラはとても気品高く、少々 ふっくらした体型であったが、綺麗な顔立ちをしていた。
「勉学に励み、王女として義務を果たすように」
「はい、精進して参ります」
「よろしい。そして私のことはお母様と呼ぶように。血は繋がっていませんが、義母ですから。」
「分かりました」
サラは静かに昼食を取り始めた。そしてルイーズもダイニングルームに入ってきた。エミリーは立ち上がりルイーズを見るとぎょっとした。ルイーズは鼻でエミリーを笑って席に着いた。
「ご機嫌麗しゅうございます。ルイーズお姉様」
「せいぜい王族の顔を汚さないでよね」
ルイーズはそれだけ言って昼食を取り始めた。ルイーズはでっぷり太っていた。エミリーは今まで太った人あまり見た事がなく、年齢が近いと尚更であった。そしてルイーズの皿はとても量が多かった。エミリー皿を見ただけで吐き気がした。肉や、魚が多く、パンも大量に置かれていた。レイとノアも待とうと思っていたが、どうやら用事があり来れなくなったらしい。そのためエミリーも昼食を取り始めた。最初は喉を通っていた料理も普通盛りとはいえ量が多く、エミリーには半分ほどしか食べることが出来なかった。するとルイーズがエミリーの皿をのぞきこんだ。
「貴方それしか食べないの?可愛こぶるのはやめた方がいいわよ。私そうゆうの嫌いなの。お兄様達もね。」
「すいません。昔から少食な上に質素なものしか食べてこなかったのでなかなか喉を通らなくて。」
エミリーは上から目線のルイーズに苦笑いした。
「そんなガリガリだものね。スタイルだって悪いし、私より不細工だし。なにもいい所がないものね。」
エミリーはここまで批判されたことは初めてで、笑いを作ることしか出来なかった。エミリーはサラが何か言ってくれないかと心の中で願っていたが、サラは食べ終わりすぐに出て行ってしまった。ルイーズはふと目に付いたエミリーのピアスに目を丸くした。
「貴方、なんでそんな高級な耳飾り持ってるわけ?」
「これは私の母の遺品で、陛下から頂きました。」
ルイーズはそれが気に食わなかったのか、目をしかめた。
「貴方それで気取ってるつもり?」
「いえ、そんなつもりは…」
エミリーは手を顔の前で横に振った。
「貴方なんてね、お父様にもあのエルフにも好かれてないのよ!だって15になるまで農民として育てられてたんだから!」
エミリーはその言われようにカッとなった。
「好かれています!だから陛下は私に母の遺品をくれたんです!そして私を育ててくれていた人は中流階級の教師でした。なにか理由がなければそんかことしません!」
エミリーそう言い、ダイニングルームから出て行った。
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