第37話 ドキドキしません
「ところで叔父さん、仮に私が叔父さんに告白した場合は、どんな答えになるんでしょうか?」
「何を言ってるんだ? オレとお前は叔父と姪、今となっては家族も同然だぞ?」
唐突な麗羅の問いかけにオレは首を傾げることしかできなかった。
仮定だとしても、姪が叔父に告白するなんて許されない行為だ。厳密に禁止されているかは知らないが、結婚できないのだから、恋愛そのものがダメな気がする。
それともアレか――
30になる叔父、中学生の姪と恋愛
――なんてニュースにでもしたいのか?
やめてくれ。人生終わってしまうだろ。
「家族になってなかったら……どうですか?」
「どうって言われてもな……」
ダメなものはダメとしか言いようがない。
家族になっていようとなかろうと、それは血縁の問題だ。
「ほら、私ってお母さんとも似てますし、髪も同じシルバーブロンドで、叔父さんの好みで言えばストライクかと思うんです」
顔立ちでいえば、一番似ているのは有紗だ。瓜二つと言っても過言じゃない。だからと麗羅と璃々夜の二人が義姉さんに似てないわけではない。
間違いなく三人共兄さんよりも義姉さん似だ。
それに義姉さんと同じ髪を持っている麗羅は、確かにオレにとってストライクど真ん中と言えるのかもしれない。
できるだけ考えないようにしてきたってのにっ。
「どうですか? 私だとドキドキしませんか?」
顔をグッと近づけて、髪を一房手に取ると、毛先でオレの頬をくすぐってくる。
シャンプーの爽やかな香りが鼻孔を刺激する。
それはそのままオレの身体を刺激するようで、胸がドキッと飛び跳ねる。
不覚にも一回り以上歳の離れた、しかも姪っ子にドキドキしてしまっている。
でも、それは女子中学生に欲情してるとかじゃなくて、女子が密着するくらい側にいるからであって……他意はないっ。
「姪っ子相手にドキドキもあるか。大人をからかうな」
オレは内心を悟られないように気丈な態度を取り繕い、麗羅の頭に優しく拳を落とした。
「あうぅ……叔父さんは私に厳しくないですか? 璃々夜が膝に座ったり、有紗が後ろから抱き着いても、こんなことしませんよね?」
麗羅はオレから少し距離を取ると、不満そうに頬を膨らませた。
それは多分、この数日間のことを言っているのだろう。
まだ兄さんと義姉さんが死んだ悲しみが癒えているはずもなく、二人は何かとオレにべったりだった。
さすがに暑いな、鬱陶しいなと思うこともあったが、寂しさを紛らわせるためと思えば叱ることもできない。
それに……やっぱり可愛いしな。
「二人はまだ小学生だしな。それに――今の麗羅みたいなことはしないからな」
ボディータッチの回数は多くても、それは所詮家族としてのものだ。
だが、今の麗羅は……誘惑というのか挑発というのか、そんな風な感じのことをしてきた。だから軽く叩いたのだ。しかし、それがご不満らしい。
「むぅ……なら、二人と同じようにします」
そう言うと麗羅はまたオレに近づいて来ると――こてっと頭を肩に乗せてきた。
「…………これは?」
「寄りかかっただけです。これなら問題ないですよね?」
「問題がないわけじゃないが……まぁ……」
あんなことをされた後だから、変に意識してしまいそうになる。
やっぱり麗羅も寂しいんだろう。
普段は二人の妹の前では露骨に甘えられないから、いつもならしないようなことをしてきているんだと思う。
だから、オレも過剰に反応して、突き放すようなことはしない。
これも親代わりの務めだ。
「叔父さんは誰かと付き合ったりしませんよね?」
「どうだろな……今はそんな気にはならないが」
あの人がこの胸の一番奥にいる限り、そう簡単に次の恋なんてできないだろう。そもそもオレは人生の半分は義姉さんのことだけをひたすら想い続けてきた。簡単に切り替えることはできないだろう。
「それは良かったような、悪かったような」
「どっちだよ」
曖昧な言葉にオレは思わずツッコミを入れて苦笑いをした。
「両方です。叔父さんが誰のものにもならないで、私たちだけの叔父さんでいてくれるのは嬉しいです。でも……私だけの叔父さんにならないのは……寂しいです」
「…………」
それは一体どういう意味で言ってるんだ?
私だけの叔父さんにならない――ってつまりは自分のものにしたいってことか?
オレを独占したいってことだよな?
それって恋愛感情とかがないと抱かない感情だと思うんだが。
つまり、麗羅はオレのこと――。
「くぅー……すぅー……」
あれこれ考ええていると耳元で小さな寝息のようなものが聞こえてきた。
「…………」
手を伸ばして麗羅の頬に触れてみても反応が返ってこない。
「……寝た、のか? このタイミングで?」
思わせぶりなことを言った直後に寝るってどういうことだよ。
「眠かったからこその戯言か?」
眠かったから、朦朧とする意識の中で意味もなく言っていただけなのだろうか?
「……それにしてもいきなり寝落ちって、子供みたいだな」
中学生なんて年齢で言えばまだ子供だが、これだとまるで遊び疲れて気づいたら寝ている幼児のようだ。
まさに麗羅が幼稚園児の頃、一緒に遊んでいると唐突に電池が切れたように動かなくなってしまう場面に何度か出くわしたことがあるので、その時のことを思いだした。
あの頃と比べると身体は何倍も大きくなって、大人へと近づいているはずなのに、まだまだ子供のままのようだ。
もちろん今回は遊び疲れてではなく、時間的なものだ。
普段であえば寝ているはずの時間帯にもかかわらず、オレの帰りを待ち、話をしていたせいで23時近くになっている。
昔から生活習慣がちゃんとしていたから、突発的な夜更かしに眠気の限界を迎えたに違いない。
「って、またここで寝るのかっ」
こんな状況、家具を買いに行った後にもあった。
あの時はオレも寝落ちしてしまったが、麗羅を部屋まで運び、パジャマに着替えさせるのには苦労した。
今日は既にパジャマだから着替えまでは必要ないが、できることなら自分の足で部屋まで戻ってほしかった。
麗羅は一度寝るとなかなか起きない体質だ。
その間は何をしてもバレないのは実証済みなので、起こして自分で移動してもらうことはもうできない。
だからと言って、オレの寝床を占領されるわけにもいかないので、以前と同じように運ぶしかないだろう。
オレは麗羅の身体を押さえながら、そっと立ち上がった。
オレという支えを失ったので、この手を離せばそのままソファーにゴロンと寝転がることになる。
座らせた状態と寝た状態、どちらが王女様抱っこしやすいかを考え、すぐに寝ていた方が楽だと結論付けたオレは、余計な振動を与えないようにゆっくりと麗羅を横たわらせた。
体勢は仰向けにして腕を入れやすいように調整して、オレはふと麗羅を見下ろした。
「オレの好み、か……」
麗羅の言う通り、この子はオレの好みで言えばストライクだ。
なにせ義姉さんの遺伝子を引き継いだ、可愛い姪っ子だ。
さっきは姪っ子相手にドキドキもあるかかっ――と一蹴したが、こうして無防備に寝ている姿を見ていると、ドキドキしてくる。
当然といれば当然の反応だ。
どれだけ手を伸ばしても届かなかった義姉さんに似ている娘なのだ。義姉さんと違って手を伸ばせば簡単に触れられる距離にいて、意識しないでいられるわけがない。
しかし、それはけして誰にも悟られてはいけない感情だ。
でも、誰も見ていない今だけなら、少し欲望に正直になってもいいんじゃないか?
麗羅は一度寝ればなかなか起きないし、有紗と璃々夜は部屋で寝ている。
「…………」
ペチペチ――とオレは確認するように麗羅の頬を触る。
するとくすぐったいように身を捩るものの、起きる気配は全くない。
「…………」
きっとオレはこの子の親代わりになるべきじゃなかったんだと思う。
※あとがき※
最近残業やらなんやら諸々の事情で投稿ペースが落ちております。
仕事が落ち着くまでは週末の投稿のみになるかもしれません。
一応アイパッドで休憩中なんかにも書いているのですが、まとまった時間がとれないので考えがまとまらず、なかなか進みません。
読んでくれる方が減りそうなのでペースは落としたくなかったのですが、こればっかりは仕方がないと諦めます。
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