第14話 朝ご飯は?
麗羅がシャワーを浴びている間に朝食を作ろう。
普段は寮で食事することがほとんどなので、家で朝食を取るのは週に一度、休みの日だけだ。
大抵は冷凍物のピラフやラザニアなんかで済ませることが多い。しかし、先日からは姪っ子たちがいるので、そういった食生活はどうはやめた方がいいかもしれない。
とは言え、昨日は買い出しに行っていないので、ろくな食材が――あるな。
冷凍庫には買い置きしている冷凍物がたくさん詰めてあるのは把握している。冷蔵庫は飲み物や基本的な調味料くらいしか置いてなかったはずなのに、何やら色々と増えてきた。
「あ、昨日買い物に行きました。冷蔵庫の中すっからかんで驚いちゃいましたよ」
冷蔵庫を開けて、やや驚いていたオレを見て、有紗がそう教えてくれた。
「家で食事することがほとんどないからな」
「だと思いました」
やっぱり――と言いたげな顔で有紗は笑う。
「料理しない男の人の冷蔵庫って感じですよね」
「オレのプライドのために言うが、料理できないわけじゃないからな」
「そうなんですか? 冷凍食品ばかりだったので、料理はしないのかと」
「昨日1日でわかったと思うが、ほとんど家にいないんだよ。食事も外で食べるから、買っても無駄にするだけだ」
一人暮らしだったこれまでは、家で満足に食事するのが週に1日だけ。なのに食材を充実させても食べ切る前に悪くなってしまう。
もちろん日持ちする物もたくさんある現代だが、冷凍品だとレンジで温めるだけで楽なので、ついそっちを買い溜めしてしまう。
「なるほど、フードロスを意識してるんですね」
「まぁ、そうなるな」
さすが現代っ子、オレが子供の頃には知りもしなかった言葉をご存じだ。
「なら、朝ごはん、お兄さんにお願いしてもいいですか?」
「ほう、オレを試すつもりか?」
ニヤニヤと見上げてくる有紗の表情から、オレは挑戦状を叩きつけられたような気持ちになった。
「プライドが本物かハリボテかどうか、教えてください」
「いいだろう。普段から料理しているオレの腕前を披露しよう」
これまでに経験をしたことのない朝に、少しテンションが上がっているオレはノリノリでそう答えた。
料理人というわけではないので、腕前は人並みだが……不味いなんて感想は持たれないだろう。期待外れにはなるかもしれないが。
「わぁー楽しみ。璃々夜、お兄さんがご飯作ってくれるって」
「おじちゃんが? リリヤはねぇ、卵が食べたい。ふわふわなのっ」
「卵でふわふわ……スクランブルエッグか?」
それなら寮の朝食でもよく作る。全く問題ない。
「有紗は?」
「お兄さんに任せます。ただし女の子が喜ぶもので」
「お、おぉ……一気に難易度が上がったな……」
女の子が喜ぶメニューだと……つまりお茶漬けとかじゃダメってことだよな?
料理の腕前を見せるのにお茶漬けを出すつもりはないが……さて、どうしたものか。
女の子が喜ぶ、喜ぶ、喜ぶねぇ……。
オレは昨日姪っ子たちが買ってきた冷蔵庫の中の食材たちと見つめ合う。
卵を始めてとしてベーコンやウィンナー、納豆、牛乳、豚肉に焼きそば等がまばらに置かれている。
まだまだ隙間が目立つが、これでも今までと比べると雲泥の差だ。
「因みに野菜室にもありますからね」
「野菜もちゃんと意識してるんだな」
「当たり前です。逆にお兄さんは意識しなさそうですね」
寮では学生たちと同じものを食べているので、野菜もちゃんと摂取するが、家だとわざわざ食べたりしない。
「男なんてそんなもんだ」
「そおなんですか? なら、これから家で食べる時はちゃんと食べてくださいね。お兄さんにまで早死にされたら、わたしたち困りますから」
「…………」
一度冷蔵庫から離れて、有紗の方を見た。
その表情には悲しげな色が強く浮かんでいて、とても寂しげだ。
両親を失ってからまだ数日、癒えるはずもない。オレだってそうだ。
「キミたちが大人になるまでは死なないぞ」
さすがにあと10年やそこらで死ぬつもりはない。少なくとも30年は生きていたい。
「それじゃ不十分です。わたしたち三人の赤ちゃんを抱いて可愛がって、その子たちの赤ちゃんにも同じようにして……幸せだって言ってください」
いきなり話のスケールが大きくなったな。
それは本来兄さんと義姉さんの役目だった。
しかし、二人は運悪くこの世を去った。バラバラになりそうだった三人をオレが引き取ったことによって、その役目はオレってことだ。
「有紗たちがちゃんと結婚したらな」
少子化のご時世、生まれてくる赤ちゃんの数は減少傾向にある。そもそも独身で生涯を終える人も増えてきている。
有紗や麗羅、それに璃々夜、この三人が必ず将来結婚するかは、誰にも分からない。
「順番的に言えば先に結婚するのはお兄さんですけどね」
「オレは……今じゃ三人の子持ちだからな。相手が見つかるか、どうか」
昨日、風吹さんが付き合ってくれるみたいな話しはあったが、アレは流れた。忘れる約束なので、オレ方から何かアプローチをかけるつもりは今のところない。
そもそも義姉さんを忘れることもできずに結婚なんて、したくないのが本音だ。
「仕方ないですね。わたしが大人になるまでお兄さんが独身だったら、わたしが結婚してあげます」
悲し気な表情が消え、いたずらをする悪ガキのような笑みが浮かび始めた。
「オレをロリコン犯罪者にするつもりかっ」
とんでもなくぶっ飛んだ発言だぞ、こら!
「いやだなぁ、今時20の歳の差夫婦だって珍しくないですよ」
20歳も離れてないけどな! ほとんど20なのは認めるが! 四捨五入なんて言い始めた奴は誰だよ!
「だとしてもだ。そもそも自分が20歳の時に生まれたような子と、結婚する奴の気が知れねぇ」
ホントにゾッとする話しだ。オレは恐ろしいとすら思う。
「そおですか? わたし的にはちゃんと可愛がって愛してくれるなら、歳の差なんて気にしませんよ?」
まだ10歳そこそこのガキが愛とか言うな。
「なら、お前のことを愛してくれる男を探せ」
「お兄さんがわたしを愛してくださいよぉ~」
有紗はそう言いながらオレの手を握って、媚びるような眼差しで見上げてくる。
やめてくれ、そういう可愛い仕草は。三姉妹の中で一番義姉さんに似ている有紗にそんなことされると……理性が溶けるだろ。
「愛してる。愛してるさ」
義姉さんの娘だ。有紗だけじゃない、麗羅も璃々夜も等しく愛してる。
「でもな、日本は姪と叔父じゃ結婚できないんだよ。法律だ」
「なら、ロシアに亡命して――」
「ロシアは出来るのか?」
「知りませーん」
「おい」
「あれ? その反応は出来たら亡命するってことでいいんですか?」
ニヤニヤと意地悪な笑みを全面に出して、挑発的だ。てか、挑発してないか?
乗ってやろうじゃねぇか。
「ああ、いいぞ。亡命じゃなくてちゃんと移住してやる。そうだな……子供は三人、いや五人は欲しいな」
オレは考える素振りをしてから、指を三――五本立てて、有紗に見せつけた。
「ご、五人……それは頑張らないとですね(そんなにわたしとえっちするつもりなのっ)」
予想通りと言うよりも思惑通りに、有紗は顔を赤らめて恥ずかしそうに俯いた。
うぬ、その反応に満足だ。
さて、そろそろちゃんとご飯作りに取り掛かるかな。璃々夜が待ってる。
「食パンもある……なら、アレか?」
時間がある時に、おやつで作ってあげると多くの子が喜ぶメニューが幾つかある。
今ある材料で作れるのは一つだが、朝食にもピッタリだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます