第83話 どうなりたいのか
「ああああああああああああああああああああ〜〜〜〜〜……!!!!」
ゴロゴロゴロゴロ!!
部屋に戻ったアメリアはベッドの上で転がり散らしていた。
真っ赤になった顔を両手で覆って、パンをこねる麺棒のように転がっている。
普段なら既に消灯の時間なのに眠気なんて少しも到来していない。
むしろ頭は覚醒状態、身体もお風呂上がりのように火照っていた。
「はあ……はあ……」
体力的な理由でゴロゴロを中断するアメリア。
しかし、すぐに……。
──もっとわがままを言っても、いいんだぞ?
「うううう……ああああああああ〜〜〜〜〜……!!!!」
庭園でローガンに囁かれた言葉を思い出して、再びアメリアはパン捏ね麺棒になった。
それを何度か繰り返して、やっと落ち着いたアメリアは大きく息を吐く。
「ローガン様の、あの言葉の意図はなんだったの……? そもそもわがままって一体なに……?」
色々と言いたいことはあるが、それはさておき。
「で、でも、何も恥ずかしがる必要はないわ……!! 私とローガン様は……婚約者なんだし……」
そう、婚約者だ。
疾しいことなど何一つない。
「ちょっぴり、わがまま言っても……良い、のかな……?」
わがまま、と口にすると頭の中に明確なイメージが湧いてくる。
人生の中で数えるほどしか参加していない夜会。
婚約者同士の男女の仲睦まじい様子は幾度となく見ていた。
とはいえローガンとは出会いが偽造結婚に近い乾いた関係からというのもあって、婚約者らしいことはほとんどして来なかった。
しかし先日、メリサとの一件の後。
──俺は、アメリアを愛している。
──私も、ローガン様を愛しています。
お互いの気持ちを口にして、想いを確かめ合った。
(頭を撫でられたり、抱きしめられたり……それから、せせせ接吻……は、したけど……)
それ以降、いわゆる婚約者同士が行っているであろうスキンシップを、日常的にしているわけではない。
気恥ずかしさもあるだろう。
しかし何よりも、お互いに積極的な性格ではないというのも大きな要因だ。
アメリアに至っては恋愛経験など皆無な人生を送ってきたので、奥手もいいところである。
(そもそも、今のままでも充分、私は幸せ……)
でも、自分の本心を深ぼってみると、年相応の女の子らしい欲求が姿を現してくる。
──私、は……ローガン様と……。
何をしたいの?
どうなりたいの?
問いかけると、頭にぼんやりとしたイメージが湧いてきた。
それだけで、アメリアの情緒はいとも簡単に掻き乱されてしまう。
「〜〜〜〜〜〜……!! 〜〜〜!!」
とてもじゃないが、言葉にできない。
枕に顔を埋めて、ただただ悶絶するしかないアメリアであった
「うう……ずるいなあ、ローガン様は……」
枕からひょっこり顔を出して、アメリアは呟く。
自分は面白いくらい感情を乱されていたのに、ローガンは変わらず凛としていて、一切動じていない様子だった。
年上の余裕をたっぷり感じる所作を魅力的に思う一方で、ずるいなあと心底思う。
「しっかりしないと、私……」
頭をぶんぶん振ってから、ぱちんっと両頬を叩くアメリア。
「私は公爵家夫人となる淑女なのだから……もっと落ち着きを持たないと」
すーはーと深呼吸をして、アメリアは強く自分に言い聞かせるのであった。
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