第23話 お腰が痛いオスカー


「大丈夫ですか……!?」


 腰を押さえ前屈みになったオスカーに、アメリアが声を掛ける。

 突然の事態に、無意識に敬語が戻ってしまっていた。


「ご安心を」


 アメリアにオスカーが掌を見せる。


「それよりアメリア様、敬語が戻ってしまっております」


 アメリアが「はっ! ほんとだ!」と言ってる間に、オスカーが「ふんぬっ!!」と気合の入った声と共に腰を伸ばした。

 

 バキゴキッと、あまり身体からは響いてほしくない音が鼓膜を叩く。


「いやはや、お見苦しいところをお見せし申し訳ございません」


 腰を回しながら、オスカーが何事も無かったかのように言う。


「腰の調子、良くないの?」

「お恥ずかしながら。最近、座り仕事が多いゆえ、凝り固まってきているようでして。昔はへっちゃらだったのですが、やはり歳には勝てませんのう」


 ほっほっほと、余裕ぶった笑顔を見せるオスカー。

 しかし彼の右手が、そっと腰を摩っているのをアメリアは見逃さなかった。


「ちょっと待ってて」


 先程までの無邪気な女子のような雰囲気から一変。

 女史を思わすような表情になったアメリアが駆け出した。


「アメリア様?」


 オスカーの声がけも構わず、アメリアは草原に舞い戻り腰を下ろす。


「えっと……ラムーの葉をこのくらいと、ラングジュリの花をこのくらい……もうちょっと、ブーメイル草もあった方が良いかな……」


 ガサガサゴソゴソと、草原のあちこちに行ってはしゃがんで、ぶつぶつ呟いて植物を採取するアメリア。


 その行動に迷いはなく、何か一つの目標に向けて動いているように見えた。


「これは……もしや……」

 

 ひとつの可能性に思い至ったオスカーは何も口を出さず、静観することにした。


 しばらくして、両手を草花でいっぱいにしたアメリアが戻ってきた。

 

「これ、机の上に置いていい? 汚れてしまうと思うけど……」

「構いませんよ」

「ありがとう!」


 アメリアは植物を種類ごとに並べたあと、実家から持ってきたカバンをパカリと開けた。

 

「一応、持ってきておいてよかった」


 言いながら、アメリアは机の上に何やら色々と並べ始めた。


 すり鉢、すぎこぎ棒、小さなスプーン、などなど……。


 それらは正規品で売っているようなちゃんとしたものではなく、どれも木や石を組み合わせたり食器を改造していたりと、手作り感が満載だった。


 調合のための道具か──と、オスカーは予想する。


「えっと……まずはラムーの葉を荒く擦り下ろして……」


 そこからのアメリアの挙動は、オスカーにとって全く未知のものであった。


 見ていた感じ、草を擦り潰したり花から蜜を搾ったりしたものを混ぜ合わせ、出来たものをまた別の花蜜と混ぜて……といった事をしていた。


 その過程でどのような化学反応が起きていて、何が出来上がっているのかはオスカーの知るところではない。


 ただ、アメリアの手際の良さから、保有している知識と経験値が凄まじいということだけはわかった。


 全集中した瞳で手元を動かし続けるアメリアの気迫に、オスカーはしばらく目が離せないでいた。

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