第18話 二度寝と宣誓
お風呂の後は屋敷内を散策しようと考えていたが、体温が上がったためか気持ちの良い眠気がアメリアの身に到来した。
「お休みになられますか?」
「いや……なんの、これしき……」
とは言ってみるものの、足取りはおぼつかない。
そのうち瞼が意思に反して降りて来てしまい、身体がふらーっと横に倒れた拍子に壁にごっつんした。
「あいてっ」
「お休みになられた方が良いですね」
それでもなお部屋とは逆方向に向かおうとするアメリアの両肩をそっと掴んで、シルフィが回れ右をする。
「私も初めてお風呂に入った時はそうなりました。ポワポワして気持ち良いですよね? 今、お布団に入ればぐっすり眠れますよ」
「ここは天国かしら……?」
「いいえ、邸宅です」
結局、シルフィに導かれて自室に戻るなりアメリアはベッドに倒れ込んだ。
「アメリア様、せめてお布団をお被りになってください」
「ん……」
のそのそと芋虫のように身体を動かして、布団の中に潜り込む。
あったかい。
「一応、お昼のお時間にまた伺いますが、気にせずお休みください」
シルフィの声に、アメリアはこくりと小さく頷く。
カーテンが閉められ、部屋が暗くなった。
「それでは」
ガチャリとドアが閉まって、部屋がしんと静まり返る。
「……きもちい」
シーツはいつの間にか新しいものに替えられており、お日様の匂いが鼻腔をくすぐった。
お布団は相変わらず大きくてふっかふかで柔らかく、小柄なアメリアを聖母のように包み込んでくれる。
お風呂上がり、最高のベッド、程よい暗闇。
睡眠の好条件三拍子が揃ったアメリアを邪魔するものは、何もなかった。
(やっぱり……ここは天国ね……)
もう二度と実家に戻りたくないと心の底から思うほど、この家での待遇は格別だった。
(この生活を死守するためにも、ローガン様に見限られないようにしないと……)
嫌われて、婚約破棄でもされたら目も当てられない。
あの家に戻るのは、死んでもごめんだ。
自分がおっちょこちょいで、抜けているという自覚はある。
「のろま」「愚図」「鈍臭い」と実家で散々に言われてきた自身の性質が、ローガンの怒りに触れてしまわないか心配でならなかった。
(なるべく……おっちょこちょいなところを……見せないように……しないと……)
そんな決意をしているうちに、いつの間にか眠気が限界に来ていた。
ぽかぽかと心地の良い温もりに身を任せて。
アメリアの意識は微睡の底に落ちていった。
◇◇◇
──どのくらい寝てしまっていただろう。
そっ……と前髪に何かが触れる感触で、アメリアの意識が覚醒する。
シルフィが窓を開けてくれたのかしらと一瞬思うが、感触に温もりがあった。
ゆっくりと、瞼を持ち上げる。
「起こしてしまったか」
聞き心地の良い低音ボイス。
アメリアの視界に、むっすり顔のローガンが映った。
心臓がひやりと跳ねる。
「ロ、ローガン様!?」
驚き、寝たままの体勢のまま後ろに身を引いてしまう。
──ゴツッ!
その拍子に、ヘッドボードに頭を打ちつけてしまった。
「大丈夫か……?」
予想以上に大きな音がして、ローガンの声に焦りが滲む。
「だ、だいじょうぶ、です……」
言葉に反しアメリアの後頭部はじんじんと痛みを発していたが、それどころではない。
(早速やらかしてしまったわ……!!)
おっちょこちょいなところを見せない宣誓を早くも破ってしまったことに、アメリアは血の気がさーっと引いていくのを感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます