第17話 見違えました

「わっ……誰かと思いました」


 お風呂上がり。

 新しいドレスに着替えて脱衣所を出ると、待機していたシルフィが口に手を当てて言った。


「そ、そんなに?」

「はい。お肌の汚れも取れて、髪も艶々になって……見違えました」


サバサバとした物言いのシルフィだからこそ、心の底からの言葉であることがわかった。


「髪の艶に関しては、シャンプーのおかげね」

「わかります。私も初めて使った時には、こんな素敵なものがこの世にあるものかと感銘を受けた覚えがあります」


 髪にしっとり馴染ませて水で流すと、信じられない艶が出る魔法のアイテム、シャンプー。

 シルフィ曰く、精油にココナッツミルクやハチミツなどを混ぜて作るものらしい。


(精油と混ぜると言うことは、自由に香りを変えられるということよね……ラベンダーとすずらん……いえ、ネメシアとかも……)


 アメリア調合癖が疼き始めた。

 いつか、成分の正確な配合率や調合工程を調べて、自分のオリジナルのシャンプーを作ってみたいと思った。

 

「あとはたくさん食べて、肉付きを良くしていかないとですね」


 アメリアの体躯を見回しながらシルフィが言う。


「お、お腹を痛めない範囲で頑張るわ……」

「そして何よりも、ドレスとアクセサリー。どこかのタイミングで買いにいかないとですね」


 アメリアが着ているドレスは実家から持ってきたものだ。


 ドレスなんて高価なもの、実家では滅多に買い与えられてもらえなかったし、買ってもらえても安くて地味なものばかりだった。

 持ってきたドレスは全て、お世辞にもお洒落とは言い難く、なんならよれよれで所々燻んでいる。 


 とても、公爵夫人が着用しているドレスとは思えない。


「でも、私なんかが着飾っても……」

「何を仰るんですか」


 視線を落として自信なさげに言うアメリアの手を取って、シルフィが言う。


「アメリア様はベースがとても良いのですから、しっかりと標準まで体重を戻して、ちゃんとおめかしすればきっと……いえ、絶対に化けます」

「そ、そうなの……?」

「ええ、間違い無いです。私が保証します」

 

 真面目腐った表情で深く頷くシルフィはお世辞を言っているとは思えない。


 ただ今まで、醜穢令嬢やら骨やら散々な言われようだったから、自分の容姿を褒められるなんて初めてで、実感が湧かない。

 

(でも……)


「……ありがとう。そう言ってくれて、嬉しいわ」


 心の底から、そう思った。


 自己肯定が地に落ちているアメリアにとって、誰かに褒められると言うのは天にも登る気持ちにさせてくれるものだった。


 意図せず、頬がにやけそうになるのを誤魔化すように、アメリアはシルフィに背を向ける。


「さて、一旦部屋に戻りましょう」

「かしこまりました」


 自室への帰り道は、行きと比べると足が非常に軽いアメリアであった。

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