俺が階段に辿り着く前にお迎えが来た。


 「聖騎士様、この度あなた様の案内役を務めるリラと申します。何かありましたら何なりとお申し付けください」


 スッと彼女は俺の手前に立ち、両手を前に置き、すらりと一礼をした。


 「わかった....聖騎士のアルバートだ、城にいる間は世話になる。よろしく頼む、まずは俺の部屋に行きたいなんだが....」


 「はい、アルバート様。ではこちらに」


 こういう社交辞令にはいつまでも慣れないもんだ、そう思いながらメイドのあとについていく。


 しばらく歩いて思ったのは、最後に来たのは二年前だというのに、本当に変わってないなこの城。いや、これといった飾り付けなどの模様替えはしているらしいけど、全体的にな雰囲気は変わっていなかった。


 城のそばにある訓練場から聞こえてくる兵士たちのかけ声、カチャカチャっと時々途切れるがリズミカルな庭師のハサミ音。それらと相対して自分たちの足音しか聞こえない城内、なぜかそれに物言わぬ威厳を感じてしまう。


 「アルバート様、こちらの客室となります」


 気がついたらもう部屋についたらしい。メイドはすでに慣れた手付きで音立てずにドアを開け、面を伏せて俺が入るのを待っていた。


 「すまない、少しぼっとしていた」


 「いえ、お気になさらず」


 ....やっぱりか。


 目の前に広がる光景に思わず目を伏せたくなる、部屋に収めている物のどれも高価な嗜好品であった。いかにもふかふかしそうなベッドとカーペットはさておき、絵は絶対にいらない、しかもサイドテーブルにちょこっと年代物のワインが置かれていた。


 流石にそんなものに囲まれて休められるような神経はしていないな、そう思いながら振り返ると、メイドは未だそこにいた。


 「アルバード様、今晩には国王陛下との晩餐会がございます、申し訳ございませんが武器の持ち込みにご遠慮いただければと存じます」


 「あぁ....わかった」


 「それから、こちらを」


 メイドは一瞬振り返ると再びこちらと向き合った、その手には手紙を持っている....


 一体どこから取り出したんだ....


 「こちらの手紙は教会から預かりました」


 メイドはそれをこちらに手渡し、スッと壁際に引っ込めた。


 ....なんだ、まだ何かあるのか?....いや、違うか


 「もう下がっていい」


 「はい、わかりました。時間になりましたら、まだ迎えに来ます。それと外に他のメイドを配置致します、何かご要望がございましたら可能な限りこちらがご対応致します。....メイドのリストはこちらに置きます、では失礼します」


 彼女は話しながらまだしてもこちらに背を向き、そしてそれなり厚みのある紙束を取り出してサイドテーブルに置き、退室した。


 ....一体ど....イヤ深く考えないでおこう、先取り出した紙束も、俺の手に持っている人肌程度の熱を靡いてる手紙も....うん、そうしよう。


 にしてもメイドのリストってなんのために....そう思いながらちらっとリストに視線を向けた。


リラ

年齢:22

特技:色々

スリーサイズ....

処....


 ....とりあえず、これに用はないってことはわかった。


 「あとは、これか....」


 教会からの手紙、そして封蝋ふうろうの模様から見ると教皇猊下の直筆らしい。


 中にはたった一言。


「ごめんなさい、辛いならこっち戻っていい」


 ....やっぱり知らないのは俺だけだな。


 俺が持っているもう一通の手紙を今すぐ開きたい気持ちもあるが、行動に移す時にどうしても躊躇ためらってしまう....


 そこに一体何を書いていたろう。


 彼女を救えなかった俺には怒られて当然だ、恨まれたとしても文句はない。


 ....たけどそれを確かめる勇気は....俺にはまだないみたいだ。


 俺ただこの静かな部屋で、手紙を手に持ち。ベットに座り、そしてそれに倒れ込む、ベットはリバウンドし少し軋む音をした。


 壁の方に掛けている時計を横目でみる、夜までまだ時間があるようだ。


 チク、タク、チク、タク....

 時は進む、それを刻む音も止まらない、ただ静かに物語の終わりエンディングへと....

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