アイを語るもの
ゆいしき
プロローグ
帰還
???
「こんな……こんな終わり方であってたまるか!」
「勇者様万歳!」「勇者様ありかどう!」
俺は叫んだ、だがその叫びすら許されないかのように揉み消され誰かに届くことはなかった。
「っ……俺は一体何のために………クソ!」
俺は拳を握りしめ思いっ切り乗っている台車に叩きつけ、そして先頭の馬車にいる男を睨み付ける。
その男の線が細くそして女性とすら勘違いしてしまう端麗な五官を持つ。まるで夜空を表す様な艶のある黒髪はひとつに結んでいる。
彼は今目を閉じてこそ見えないが、その瞳はもう旅が始まったばかりのオブシディアンを思わせる黒ではなく、同じく宝石で例えるならピーターサイトのように金と青が混ざっている―――そう、その男は目をつぶっている、まるで誰かを弔うかのように....
いや、彼は弔っているのでしょう、あの子を。優しい笑顔で俺たちを励ましてくれたあの子を、指示を従え一生懸命にサポートしてくれたあの子を、決戦の前まで太陽のような笑顔で笑てたあの子を。最初から自分の死がわかっていてなお自分の身を捧げたミサを。
だからこそ許せなかっただろう、何故ならその男は知っていたんだ。この戦が勝つか負けかに関係がなく、ミサの死が確定されてること。知ってなおそんな彼女を見殺しにした。
聖女の真の役目は命を持って魔王の魔力を一分間封じることだった、つまりミサは聖女に選べられたあの日から死ぬ運命であった。
そして日々努力積み重ねて聖騎士になったの俺の責務は彼女を守り切り処刑台に送ることだった....今から思うと彼女と面識のある俺は
「何が必ず守り切るんだ、生きることをあきらめさせたの俺じゃねぇのかよぉ!」
拳をさらに握りしめ、赤いつぶがその手から零れ。ぽったりと台車の床に落ちて染み込むより先に次のつぶが落ちる。小さな溜まりができて、その次に
「アル....自分を傷つけるのやめて、ミサはこんな君を見たくて決心したわけじゃないからほら....手を出して。」
いつの間にかその男は目の前に立っていた。そして彼の言葉は俺の考えはあながち間違っていないことに確信を持たせ、その事実に途方に暮れた俺はただ言われるままに手を差し出した。
「『ヒール』――これで良しっと、それと....これ。」
男は突然に開いた黒い空間から手紙を取り出し渡してきた。
「ミサの手紙だよ、すべてが終わった後に渡すようにって。すぐに渡すつもりだったけど、アルがパレード直前まで目を覚まさないから。」
俺は男から手紙を受け取り、ただそれを見つめていた。
「それで....その....来週にわたしの
男はそれだけを言い残して、目蓋をつぶる
いつの間にか、パレードは終わっていて城にたどり着いた。よく見ると俺の隣に紙が置いてある、石をのせたそれに丸っこい字で「ありがとう、バイバイ」っと書いてある。
「それでは、私も行くわ。」
俺の向こうに座っている少女はそう言いて、首輪についている鎖を鳴らしながら立ち上がる。
「....大丈夫か」
少女は意味が分からなくて少し戸惑い、パッと理解し少しうれしいように答えた。
「えぇ....奴隷と言っても権力こそないが一般的な貴族より立場がある方だから、大丈夫だわ。自画自賛ではあるが、私みたい有用な道具を使い潰そうとする人はそうそういないし、そもそも国に許されないわ。あれはきっと何かの手違いよ、私の鎖をあんな奴に渡すなんて....。まぁ....改めて言うけど、ありがとうね。」
言い終えた少女は後ろにいる銀色の球体に倒れ、それがまるで液体のように彼女を包み、浮き上がり、ふわふわっと城の奥に進む。
賢者である少女の後ろ姿を見届き、俺も立ち上がり、二階への階段の方角に進むことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます