EP4 似合う季節
桜があまりにも綺麗で少し遅めのペースで歩いていたがそろそろ公園を抜ける。朝なので人はあまりいなく、健康のためかランニングをしているおじさんとすれ違う程度だ。
そんな時、急に右側の広場から女性の歌声がきこえてきて立ち止まり聴き入る人というのはあまりいない。なのに俺はどうしてこの声に今耳を澄まして、さらに近寄ろうとしているのだろう。時間に余裕はあるにしろ、誰かも知らないような女性の生歌。しかも楽器も鳴らしていないアカペラに興味が湧くなんて。
そう思いながら声をたどり、ついた場所は一本の桜の木がドシンと聳え立つ少し盛り上がった場所だった。その木影と日当の境界線を行ったり来たり動きながら、スマホからイヤホンを繋げて歌っている。あまり歌を聴かないため、音程やらがどうなのかはからきしわからないが、彼女の歌声は力強く、とても高揚感のあるものだ。いつの間にか俺は、フリーダムに踊りながら歌う見ず知らずの女性に釘付けになっていた。
すると彼女は急に歌うのを止めて、こちらのほうへ近づき笑顔で話しかけてきた。
「惚れちゃった?」
これに対して俺は思わず「うわぁ!え!違います!」と必死に答えてしまった。
「うわうわうわ、こんな美少女に笑顔で話しかけられてさぁ、うわぁ!は無しでしょ。化け物にでも見えたわけ?」
「あ、いえ。急に話しかけられてびっくりしただけで…すみません。」
彼女は右手を口元に当てて笑い出した。
「あはは。そんなマジレスしなくていいのに。面白いな〜。」
急に大爆笑する彼女をみてるとさっきよりもなんだか恥ずかしくなったが、緊張は一気にほぐれてしまった。そして反抗したいという気持ちが出しゃばってきて「美少女って言いましたけど、俺より明らかに歳上ですよね。」とちょっと意地悪っぽく言ってみた。すると彼女は笑うのをピタリと止めて顔をあげた。
「へぇ〜?君そういうこと言っちゃうんだ。女性に歳のことを出すとは最低だね?」
バックの桜のように急に大きく見えて、ラスボス感が垣間見えた。しかしそれはすぐにストンと消え「なーんてね。」と笑った。
「君高校生でしょ?正解。わたしもう二十一だもん。君から見たらおばさんでしょ。悔しいなぁ。君より背丈低いのに。あのね〜実は五日前に誕生日迎えたばっかなんだよねぇ。春生まれなんだよ。よく友達にも春っぽい春っぽいって言われるんだ。」
急に自分の話をされて少し戸惑いはあるが、発端は自分かもしれないので聞いておくことにする。
「よくあるよね、〜っぽいってセリフ。あれあんま好きじゃないんだよね。勝手に見た目とか雰囲気だけで話のダシにされるの。春っぽいってわたしよく言われるけど、わたし花粉症だし、寒がりだから微妙な春の気温苦手だから春ってそこまで好きじゃないんだよね。本当はわたし暑い夏が好きなんだよ。みんなわたしは夏が嫌いそうとか、日焼けをメチャクチャ予防しそうって勝手な偏見言うんだけど、全然違うからね?太陽だーいすき。」
俺は今何を聞かされてるんだろうと思いながら軽く返答をした。
「確かに自分と周りが思う自分が違うとなんかつっかえますよね。でも周りがそんなに自分の偏見を言い合うことで楽しんでいるのをみてると、なんか入りにくくなりますよね。そしていつの間にかその偏見がまとまってマジョリティ化してしまう。そうすると何故か自分がマイノリティ化して偏見に合わせに行ってしまう。自分を失う原因になっちゃうんですよね。」
と言うと彼女は瞳を見開き声を張った。
「そうなんだよね!君わかってるね!なんか嬉しいよわたし。これって気づいてない人が多いからなんか感動しちゃった。ありがとう。君とはもっともっと話がしたいな。」
「俺もえっと…あなた?と話していると楽しいです。」
なんて呼べばいいかわからず、割と失礼な呼び方をしてしまった。すると彼女は笑って言った。
「アハハ。やっぱ面白いね君。いいよいいよ、名前教えるよ。
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