第3話最強、弟子をとる

□霧宮朧

 「はあぁ~…。ついつい助けちまったが…。めんどいなぁ」


 でも…、このボロボロの少女は、耐えて、耐えて、耐えて、それでも無理で…。

だから助けを乞うたんだ…。こんなにボロボロになってまで、1人でがんばっていたのだろう。


 「んな姿、見せられちまったら、助けたくなるに決まってんだろうが…っ」


たく、こんなになるまで耐えるとか、こいつド根性すぎねえか?後で叱ってやらねえとな。ま、今はそれよりもこの状況どーすっかなぁ。


 「—ッ!おい!!てめえ、どこから来た…?周りにはうちのやつら、うろつかせてたんだがよぉ…?」


 なんか叫んでんが、今はどうでもいい。まずは、こいつの傷を治さねえと…!


「無視してんじゃねえぞ!」

「おい…。少し黙ってろ…。あまり、女子に手を出したくねーんだよ」

「ひっ…。」


 ちっ。鬱陶うっとうしくて殺気を出しちまった…。まあ、今ので気絶したみたいだし、女子に手を挙げたりせずに済んだことは良かったのかね。

よし、じゃあちゃっちゃとこの娘の傷を治すとするかね。


「スキルセット―【蒼炎そうえん】」


 その瞬間、自分のなかで力—魔力—が渦巻き、統一され、あおい炎が現れる。


「これを、こうしてっと…。ほいっ!」

「…ふえ?」


 よし!少女の傷は治ったし帰るか…!てか、これ以上巻き込まれてもめんどそうだしな!


「んじゃな!また縁があったら会おう!」


 そう、去ろうとした時


「あ、あのっっっ!!!!どうか、わたしに―」


□香和さくら

 一瞬だった…。その男の子ひとにらんだだけでいじめをしていたあいつは倒れちゃったし…。

 しかも、最後に使ってくれた『蒼炎』てスキルも…、体を蒼い炎が包んだと思ったらわたしの傷がすごい勢いで治っちゃたし…。この人って、一体何者?でも、どっかで知っているような…


「んじゃな!また縁があったら会おう!」


 え…?ま、待ってよ!わたし、まだ、貴方に何も言えてない…!ありがとうも伝えられてないし、貴方の名前も知れてない…!

 お願い…!まだ、離れたくないの…!


「あのっっっ!!!!どうか、わたしに修行をつけてください!わ、わたしを貴方の弟子にしてくださいっ!!」

「「………」」

「えっ…?」

「ふえ…?」


 え…?えぇ…?わ、わたし、何言っちゃたの⁉ど、どうしようどうしようどうしよう⁉ほんとは、お礼言って名前聞きたかったのに…!ほら、相手も混乱しちゃってるし…!

 でも、これはきっと人生の分岐点だ…!これが神さまのいたずらによる、偶然だとしても…!お願い…!もう、私だけの力じゃ無理なの。これ以上、どうやっても分からないから。これは、奇跡でもいい、私が変わるかもしれない最後のチャンスなんだ。


「い、いやいやいや、何言ってんだ君⁉てか、自分でも驚いてるってどゆこと⁉」


 う…。そうだよね…。わたし、いま絶対に変な子だ。

 だけど…、やっぱり諦めたくない…!もう弱い自分ではいたくない…!だから、何がなんでも、このチャンスを逃せないんだ。


「お願いします。わたしは、もう弱いままでいたくないんです!このまま、またなにもできない場所へ戻りたくない…!わた、わたしは…!貴方のように強くなりたい…!」

「…………」


 静かな、静かな時間ときだった。それは、一瞬でもあり、永遠のようでもあった。そして―


「———そうか…。そうか。くくっ、よしっいいだろう!それはすごく


 そのとき、風が吹いたように感じた。その笑顔はあまりにも無邪気で、優しくて、そして不思議と力に溢れていて…。

 強く温かい風が、春の桜を舞い上げた。そう錯覚して


「よかったよ~…」

 

──この瞬間のことを今でも鮮明に思い出せる。深く深く安堵して、わたしはきっと学校に通い始めて、初めて心から笑えていて。もしかしたら、こんなすごい人なら、わたしの事を変えられるんじゃ、て期待して、その機会を手に入れられたことに嬉しくて……、夢じゃないかて何度も何度も思っていた。


だからだろうか、わたしがとんでもないことをしでかしてしまったことに気づかなかったのは。あの後は安心して倒れちゃったから気づかなかった、てのもあるんだけど……。うぅ、自己紹介の時になんで気づけなかったんだろぉ。いや、あの時はわたし、すんごい泣いちゃったし安心と喜び一色ではあったけどさぁ。


でも、まさか。まさか、わたしを助けてくれたあの人が、師匠になってくれた強い少年が、【混合世界】ワールドランキングNo.1、【創世神】月龍その人であることには気づきたかった。

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