第2話最強と最弱の出会い

霧宮朧きりみやおぼろ

俺はイケメンである。黒髪黒目・高身長、親の遺伝の影響もあり、中性的でさわや

やかな顔立ちだ。

しかも、運動も勉学も何もかもが『できて』しまう。まあ、一部の例外はあったが…。

そうはいっても、何もかもができることは、生き甲斐というものを縁遠くさせてしまっていたわけで。この世界がつまらない、そうずっと思っていた。

あの学園に行くことが決まった時も、そこに期待なんてなくて、あるのはただ諦め

―自分を楽しませてくれるがあることはない―という名の圧倒的な 『渇き』のみ―


「だったはずなんだがなぁ…」

「どうしたんですか?朝っぱらから辛気臭い顔しちゃって!

鬱陶うっとうしいですよ、お師匠さん!」


そう話しかけてきたのは黄金色のセミロングの髪を頭の上で小さくポニーテールにした碧眼へきがんの少女だった。


「ん。気にすんな。ちょっと、昔を思い出してただけだ。さくらは最初の頃に比べてうるさくなったよな」

「んな…!?いってくれましたね!?私が慰めてあげようとしたのに…!」

「え…?そうだったのか?」

「ツーン。もう知りません!」

「えー…」


少し不満げにして、俺の先を歩んでいく少女。

俺が変わったのは、きっと―いや、確実に―この香和かわさくらと の出会いなのだろう…。

あの日、俺、霧宮朧は変わったんだ―


□2254年4月1日東京都某所

「ふむふむ。ここが、私立栄王学園か…」


俺、霧宮朧はこの学園に今日から通う。


「ま、今日は入学式だし、本格的に通うのは明日から、だけどな…」

【栄王学園】。中高大一貫校の進学校であり、日本に二校しか存在しない【混合世界】をカリキュラムにいれてる学校である。基本的な科目以外に、このゲームをカリキュラムに入れているところの一つであり、日本が誇る【再現者】養育機関でもある。


「お、着いたな。ふーむ、ここが。なかなか綺麗な学舎だな。だけど、ま、俺をさせてくれるものなんざ、ないんだろうがな…」


西洋風のレンガ造の門もなかなかだったが、校舎の方も綺麗なもんだな。レンガ造は同じだが、所々に巧妙に隠してある結界もすげえな。

校長にしつこ…じゃなくて、熱心に勧誘されたから来てみたが、思ったより早く到着したし、この校舎の外観を見ることにも満足出来たし、さっさと帰るか。というか、思ったより早くついてぶっちゃけ暇だし、帰って【混合世界】したい。


「—————ッ」


その時、小さな悲鳴のようなものが聞こえた気がした。


「ん?なんか揉め事か…?ちょっといってみっか」


いつも通りにゲームするのもいいが、無視するのも後味が悪い。ただの勘違いだったら、ちょっとした暇つぶしになったとでも思うか。



□香和さくら

あぁ…。またか…。学年トップの女子に呼ばれたとき、そう思った。

わたしはいじめられている。理由はごくありふれた嫉妬。【栄王学園】では、専用のカリキュラムに則って、【再現者】-【混合世界】のプレイヤーで現実世界にアバターを作り出す者-を育成する。そこでは、様々なクエストや、総合的な【ステータス】や【レベル】などが評価され、生徒たちはSランクからFランクにまで分けられる。そんな学園で、わたしは学年で最下位-堂々ぶっちぎりのFランクだーなのに、容姿がいいせいでモテてしまう。

ここに入れば変われると思っていた。弱くて負けばっかで守ってもらわないとあの世界で何もできない、そんな自分を。ゲームの成績じゃ受かれっこないと思ってたから必死に勉強して、中学受験に合格して入学できた。

だけど!変われなかった…。余計に惨めで、集まってくる男子はみんな顔と身体しか見ない。それでも、必死に3年間を頑張り続けていたけど、どうやら本当に私の才能はからっきしだったらしい。

弱いことは変わらず、だけどもしかしたら、ていう期待を拭えられないまま、ここで過ごしてる。はは...、結局なんも変わらなかったなぁ…ー


「おい!!!てめえ早く起きろよ!!」

「がはっ…!」


ーどうやら意識を失っていたよう…。今日はいつもより痛い…。さっきの走馬灯かな。でも、もう疲れたなぁ。やっぱり、期待するのはダメだったんだ。


「——ぁ…。もう、嫌ぁ…。誰かぁ…、助けてよぅ…。」


だから、こんな弱音がれた。漏れてしまったから、止まらなくなってしまった。


「なんで!?なんでよぉ。どうして、どうして……、私ばっか!!!助けて!助けてよぉおおおぉぉ……。どう、して…」

「おいおい!いるわけねえだろ!?てか、馬鹿だなぁ。そんな泣き叫んだところで誰も助けには来ねえよ!てか、私はこんなんで終わらせるわけねえだろ!」


あぁ…、今日もまたボコボコにされるんだ…。誰にも気づかれないで…。

わたし、馬鹿で、みじめだ…。あぁ…、またくるっ—


「おらぁ!いい声で泣けぇ!」

「———ぅぇ…?」


こない…?


「たく…、女の子同士でのいじめ現場にきちまうとは…」


薄らと目を開けると、わたしの前にいたのは黒髪のどこか気怠げな少年だった…。




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