「魔界編-SAVER-」

「お父様!!どうか…死なないで!!」

「だめだ…もう…私はここまでだ…カイト…どうか、この国を…いや…この世界を守ってほしい」

「お父様…!!」

「大丈夫だ…イクナグンニスススズ…リッチ…その他優秀な部下達…もし迷ったら部下達に頼ってほしい…私もそうしたからな」

「そんなこと言われても…!お父様…!」

「安心しろ…私がいなくてもお前がいる。それだけで十分なのだ…頼んだぞ…カイト…」

「お父様だめ!!行かないでよ!!」

「…」

「お父様…?お父様ーーーーーーーーー!!」


ここは魔界ヴォルトロス。多種続住居惑星ハイテラからちょっと離れた場所に存在する魔界と言われる世界

しかしいつも暗い雰囲気のする惑星では無い。きちんと朝昼晩がある、そんな世界だ。ちゃんと朝は来るし夜にだってなる

惑星ハイテラよりも惑星の規模としては小さく、そこまで人数は多いとは言えない。しかし住居してる種族はいる

この魔界では中心部にある王国、そしてあちこちに点在する村と街がありどれも王国のための村と街でもある

ハイテラと特別変わらない。太陽がまぶしい時間帯に人々は働き、夜になったら家に戻る。そんな世界だ

種族は悪魔、不死、亡霊と3つの種族が主体であり例えばこの地域の個別種族、とかこの世界の種族。というのはいない

昔、ヴォルトロスとハイテラは行き来できる空間だったがある時ダークロードがハイテラへ行き、ハイテラを支配しようとした

結果ダークロードは討伐されてその時の王国の魔王が空間を行き来するのをとめて現在は全く通れない仕組みになっている

ヴォルトロスを知るハイテラの住居民はそこまでいない。ヴォルトロス出身の悪魔不死亡霊は指で数えているかどうかの話だ

またヴォルトロスで亡くなるとなぜかハイテラにある天界へと行くのだがそれはよくわかっていない。そのことを研究する人もいない

そんなヴォルトロスという惑星だ。そして今、中心部にある王国に朝が来た。ヴォルトロスにも平等に朝という時間帯は存在する

王国はいつもにぎやかだ。王国の民は魔王のことをとても信頼しており魔王の部下も魔王をとても信頼と尊敬の念をしている

この前、ヴォルトロス15世…バイカと呼ばれる前魔王が亡くなった。まだ16歳の少女カイトを残してこの世を去った

魔王が亡くなったときは王国に住む民が全員悲しみ、そして泣いた。ほぼ全国民がバイカを悔やんだ。とても良き魔王だったからだ

そして後日、ヴォルトロス16世が降臨した。カイトと呼ばれる少女が魔王として登場したからだ

魔王になる必要条件はそこまで難しくない。王国外れにある神殿に行き禊をして魔王の剣を持てばいいことだ。難しくはない

そしてそれを行い、戻り、改めて魔王の存在をアピールするために王国民に呼びかける。簡単なことだった

しかしここの王国民は良い人たちだらけだ。少女である魔王を否定する民はあまりおらずむしろ肯定する民のほうが多い

女性魔王という存在。新しい雰囲気がする魔王。人々はこれからの魔王を大いに期待をしていた

色々な段階を踏まえて、ようやくカイトはヴォルトロス16世として魔王になった。少女なのでまだ威圧感などはない

王国の魔王城。ここの王の間に一人の少女、魔王が座っている。カイトである。カイトと呼ぶ人は少ない。魔王呼びが基本だ

魔王の存在を表す冠。ちょっとぶかぶかする魔王のマント。しかし服装は今どきのような服装。時代に合わせた風貌である

カイトは髪色は黄土色で瞳はサファイアのような色。王座にしっかり座り、周りを見渡す。その横に重鎮とも言える人がいる

右隣にいるのは副王イクナグンニスススズ。アザトースやヨグソトースと言った邪神の一人。ずいぶん長く副王を勤めている

身体には火属性の鎧。そしてフルフェイスの兜。まるで戦争に行くかのような格好をしている。しかしあまり重くはないらしい

彼女は長い名前なのでスズ副王と呼ばれるのが基本だ。たまにフルネームで言うときはあると言えばあるが…

顔が全く見えないその姿から表情を読み取るのはとても難しい。だが無口じゃないよく喋る人なので安心はしている

左隣にいるのは軍師リッチ。彼もずいぶんと長く軍師を勤めており、いつまでもその姿は変わらない

軍師のような服装をして、骸骨姿だが骸骨の内部から青い炎がありそれが魂のような姿をしている。前魔王が慕ってた人物でもある

とても冷静で何事にも動じない。様々なアクシデントはすべて彼が解決してきた。だから慕ってもおかしくはない

冷徹とか冷酷とかいう人もいるが決してそこまでの軍師でもない。カイトも決してリッチのことは怖いとは思っていない

…そんなカイトの右腕と左腕。かけがえのない存在。その2人がいるからこその魔王ありだ

魔王になったばかりのカイトは早速王の間に部下を集めて言う

カイト「…今日もよろしくねみんな!」

元気に部下達に挨拶をするカイト。その言葉を聞いて部下はお辞儀をする。少女とは言えど魔王は魔王。現段階でのトップだ

スズもリッチも元気そうにしてる魔王を見て安心する。やはり魔王でも元気なのが一番だ。部下がお辞儀すると2人も同じくお辞儀をする

カイト「表を上げてみんな。早速だけど何かあるかしら?」

そう言うと部下の一人が言う

部下「発言させていただきます。魔王様の威厳で新しい部下達が次々と来ています。どうすればいいでしょうか?」

カイト「え?えーっと…スズ?」

カイトは副王に顔を向ける。スズはすぐに答えた

スズ「そうですね。まずは面接などを通して新しい人を選びましょう」

スズはフェイス越しだがやんわりとした口調でカイトに答えを言う

カイト「わかったわ。じゃあそういう感じでいい?」

部下「ははー。かしこまりました」

そう言うとまた別の部下が言う

部下「すいません私も発言をお許しください。最近王国内で盗難の事件が発生しています。これは私達がいたらいいでしょうか?」

カイト「それはー…リッチ?」

カイトは今度はリッチのほうに顔を向ける。リッチはすぐに答える

リッチ「強い警備を重点的に置きましょう。警備がいれば盗難の被害は少なくなると思われます」

リッチは優しい口調でカイトに答えを言う

カイト「うん!じゃあそうしよう!」

部下「かしこまりました魔王様」

カイトはとても安心した。簡単な話でも副王と軍師がすぐに答えてくれる。しかも優しい口調でだ

だからこそカイトの父、バイカが部下に頼れとはこのことなのだろう。カイトは改めて優秀な部下がいることに感謝したいと思った

それにまだ16歳のカイト。これから何があるかわからない。部下、腹心が精一杯頑張らないといけない。そういうことだ

部下の発言が終わっただろうか。カイトが再び言う

カイト「じゃあみんな!下がっていいわよ!」

カイトが言うと部下達が命令どおりに王の間を後にする。カイトはその姿を見てほっとする

魔王とは言えど何度も言うが未成年。まだ自分自身で考えて命令するのは難しい。それにまだ魔王になったばかりである

王の間にカイト、スズ、リッチが残った。カイトは後ろを向いて2人に話そうとしていた

スズは兜をかぶっているため表情が見えず、リッチは骸骨なので表情というものが無くどういう気持ちなのかはわからない

ただ、ひとつ言えることは決して魔王に対して柔らかな表情をしているのだろう。スズも、リッチも…

カイト「スズ、リッチ、ありがとう。私はまだまだね」

カイトは2人に感謝を伝える。スズもリッチもまた柔らかい口調で口を開く

スズ「魔王様。まだ貴女は魔王になったばかり…私達のことを使って構わないのですよ」

そう言うとリッチも続けて言う

リッチ「軍師である私も魔王様を支えないといけません。だからご自由に私と副王を使ってください。決して一人で悩まないでください」

2人の話を聞くと魔王カイトは笑顔になる。まだ16歳の笑顔。とびっきり可愛い表情だった

そんな表情を見せたらそれは当然2人とも心が穏やかになる。本当に良い魔王だ。2人してそう思った

カイト「ありがと2人とも!じゃあ私そろそろ私室に戻るね!」

そう言うとカイトは立ち上がり王座を離れて私室へと向かった。残ったのはスズとリッチだった

本当に元気でプラスの表情をする良い魔王だ。何度も思う。スズとリッチはその場で話しかける

スズ「…先代魔王様が亡くなってまだ日にちは経ってないのに…とても明るい魔王様ね」

リッチ「ああ。最初どうなるか私でもわからなかったが、今は安心してる。これも部下達が励ましたりしてくれたからだろう」

リッチが言うとスズはフルフェイスをかぶったままリッチに顔を向ける

スズ「でも、これから大変になりそうね。魔王としての資格を持たないと民衆がどう思われるかわからないわ」

スズが言うとリッチはすぐに答える

リッチ「そこは大丈夫だ。魔王様はまだ若い。未成年とは無限の可能性を秘めた年代。私達が良い方向に導けばきっとよりよい魔王になるだろう」

リッチは右手で持ってる杖ととんと鳴らし床を響かせた

スズ「リッチの言う通りね…。まだこれからだもんね。私達が頑張らないと」

2人はさっき見せてくれたカイトの笑顔を思い出していた


2人は城の廊下を歩いていた。なにせ右腕と左腕。通るだけで部下達がお辞儀をして通路をあけてくれる

副王スズはここ数十年。リッチも数十年ずっとこの王国の腹心であった。その存在感は部下達は誰よりも知っていた

通路を歩いているときに部下が近寄った

部下「副王様。軍師殿」

スズ「うん?何?」

スズが言うと部下が言う

部下「さっきメイド長から言われたのですが…魔王様は女性なので副王様がコミュニケーションをとってほしいとの通告がありました」

スズ「私が?」

フルフェイスで表情はわからないが、スズは不思議な顔をしていた

部下「はい。軍師殿でも構わないのですが、女性の心を掴むのは女性なんだ…とメイド長が言ってました。それを報告です」

そう言われるとスズはあのメイド長のことだ。何言い出すかわからないだろうと思った

城にいるメイド長も結構長い間城に勤めておりある意味スズやリッチでもそこまで逆らえないほどだ。威厳のあるメイド長だからだ

メイド長の名前はマーヤと呼びいつまで経っても若い顔をしたメイド長だ。悪魔の一人だが高位悪魔ではないかとの話もある

部下のメイド達を指揮し、なかなか難しい性格をしたメイド長である。しかし魔王には優しい。それは先代魔王からそうであった

そんなメイド長からの指示?でスズは従うしかないだろう。と思った。そんなメイド長だから変に歯向かうと何言い出すかわからない

スズの次の言葉は当然の言葉だった

スズ「わかったわ。マーヤがそう言うならそうするわ」

部下「聞いてくれてありがとうございます。それだけです。失礼します」

そう言うと部下は離れた。スズとリッチは顔を合わせる

スズ「相変わらずメイド長は色々と言ってくるわねえ」

リッチ「そうだな…マーヤという人物はある意味私達よりも威厳のあるメイド長。私ですらあまり反抗ができない」

スズ「まあマーヤの言う通りかもしれないわね…マーヤってそういえば片手剣の免許あるんだっけ」

マーヤはメイド長ながらも武器の達人であり下手な兵士よりも強いというオーパーツな人物でもある

リッチ「そういうそなたも炎の剣を使わせたら右に出るものはいないだろう?」

イクナグンニスススズという存在は実際には炎を司る邪神。その強さは誰も真似できないほど強力である

スズ「うんまあそうだけど…リッチも闇の術使わせたら強いじゃないの」

リッチは闇の術という魂を抜かれるような術を持つ天才。部下達が真似しようにもできないほどスズと同じ強力な術を持つ軍師だ

リッチ「私はこうだからこうなったわけだ」

ここまでしゃべるとスズは言う

スズ「ちょっと私、自室に行くわ」

リッチ「そうか。私も自室に戻ろう。書類があるからな」

2人が言うと別れてそれぞれの場所と行く


スズは自分の部屋へと戻った。ちょうど部屋に行く前にメイドが掃除をしてくれたらしく挨拶をしてスズは自室へとはいる

キレイにされた部屋。その大きさは魔王カイトの部屋とあまり変わらない。彼女は自室の鏡を見た

鏡を見てもピンと来ない。おっと、フルフェイスをかぶっているからだ。スズは兜を脱いだ

そこにいたのは美人の顔であり、セミロングで赤いまるで鮮血のような髪色をしている。目はルビーのような赤い目。しゅっとした出で立ち…

いつもフルフェイスの顔をかぶっているが、決して誰にも見せてないというわけではなかった。顔を知ってる部下は何人もいる

もちろんリッチもわかっているしメイド長もわかる。カイトも当然知ってるので顔がわかってない部下はあまりいない

スズは顔を見て軽いため息をつく。相変わらず私は完全NGじゃないけど部下達に見せるのが恥ずかしいわね…と

鏡の横にある化粧水を軽く頬につける。あまりアンチエイジングはしてないもののたまにはいいだろうと。でも効果があるかはわからない

メイド長いわくカイトを見守ってほしいと言われてちょっとだけ不安にはなる。他に候補はいるだろうに、どうして私を?

あのメイド長の言うことはやはりイマイチよくない。だが難しい性格をしてるのだからそう言われたら指示どおりにするしかない

私が…魔王様の側にいればいいのだろうか。鏡の前でふと、目をつぶり思い出す。カイトのとびっきりの笑顔を…

魔王に対してリッチは一人で悩まないでくださいとは発言してても私が悩んでしまうだなんて…私は邪神の一人だけど…

ここまで考えるとドアからノックオンがした。こんこん…と

スズ「うん?誰?」

そう言うとドアが開いた。そこにはまだ若い魔王がいた

スズ「魔王様!」

驚いた。カイトがここまで来たのだ。彼女は言う

カイト「スズ!…あ!スズが兜脱いでるわ!」

スズ「え?えーとですねこれは…」

兜脱いでいることに指摘されてちょっとだけ慌てるスズ。しかしカイトは何も思わず笑顔で言う

カイト「いいよ兜脱いでも!ねえねえスズ。私と一緒に手伝って!外に行きたいのよ!」

え?外出するのか?そう思ったらスズは再び兜を装着した

スズ「わかりました魔王様」

カイト「えー!兜脱いでよ!脱いだスズのほうが一番の美人なんだから!」

これは命令だろうか。しかたなくスズは装着したが再び兜を脱いでカイトのほうに顔を向ける

スズ「これでいいでしょうか魔王様」

カイト「うん!それでいいのよ!さ、いこ!」

そう言うとスズは魔王の命令どおり一緒に外に出ることになる


リッチの部屋。なんだかリッチな部屋とか言えそうなリッチの部屋だが実際真面目なリッチなので遊び目的な物は存在しない

今日もひたすら書類を処理する日課となっている。しかしいつもどおりのことなので彼はちっとも疲れることはない

リッチには親衛隊がいるがこちらは闇の術で強化されてる親衛隊でありリッチの他に魔王にも付いてくる者達だ

もちろんリッチは不死なので親衛隊だって不死の面々が揃っている。しかも全員強い。選ばれた不死のみが付ける親衛隊である

机に座り、書類を見る。今日は特別大事なことはないようだ。リッチは何もないように進める

親衛隊の一人がリッチの部屋に来た。ノックをして開ける。そこには骸骨剣士…不死の親衛隊がいた

親衛隊「リッチ様。ご報告の書類です」

リッチ「うむ。ご苦労。下がっていいぞ」

親衛隊「ははー」

そう言うと親衛隊は部屋から出る。リッチは早速それを見る。そこには報告といえばそうなのだが面白いことが書かれてあった

リッチ「なになに…最近同性婚をするカップルが増えこれをパートナー婚と呼ぶ。王国でもそれをするカップルが多いとのこと…。

…パートナー婚か。そういえば我が魔王様にも同性婚をしたと言われる魔王様がいた気がするが…ちょっと過去の書類を見てみよう」

そう言うとリッチは机の隣にある過去の書類をまとめた棚からどこにあるか確認をする。ヴォルトロス何世だったか…

ちょっと確認をしたらすぐに見つかった。その書類を机に持ってきてリッチは座る。そして確認をした

リッチ「えーと…元ヴォルトロス10世様か。女性であった10世様は一般市民女性と恋に落ちた。既に辞めていた先代9世様は反対する。

しかし、10世様は反対を押し切りその女性と結婚。10世様は更に反対を押し切って別の村に2人で住居することになった…。

先代9世様は10世様を諦めて別の子供を10世様にした。元10世様は今はどうなってるかは一切不明…。なるほどな」

パートナー婚…。リッチには恋という感情が全くないため細かいことは一切わからない。しかしこういう事例もあったりすると感心した

しかし今は恋愛というのは自由。もちろん異性と結婚するも良し。同性と結婚するのも良し。そういうことだ

ここでふと、思った。もしスズと魔王様が恋に落ちたらどうなるのだろうか?私、リッチよりもスズのほうが一番良いと思ってみた

だが副王はあまり恋という感情があるかはちょっとわからない。ましてやまだ若い魔王様にも恋なんて感情はあるのだろうか?

リッチは考えたが副王と魔王が恋をしたらきっと幸せになれるのではないだろうか?反対する輩はいるとは思うが…

私ではだめだ。もちろんメイド長だってだめだろう。副王が一番親密になるべきだ。そう考えた

なんだかまるで政略結婚のような気がするが、それでも親密な2人になれそうなのだから2人に行き先を考えてみよう

書類の処理を今は止めて早速魔王の部屋に行こうとした。椅子から立ち上がり手ぶらで部屋から出た。武器兼威厳の杖は持っていかない

ここは広い城だが長年勤めているリッチは自分の庭のようにわかっていた。彼は魔王の部屋に行く

着いた。ドアをノックをしたら返事がない。おや?返事がないとは珍しい。もう一度ノックする。出ない。もしかして王の間か?

そんなことを考えてたら部下が来た。メイド長、マーヤであった

悪魔の角が生えていて、クラシカルメイドの格好。何よりも大きい。女性としては大きいほうの体格をしている

マーヤ「魔王様、今は外に出てますのよ?」

リッチはその言葉を聞くと一人で出たのかと思った

リッチ「一人でか?」

マーヤ「いいえ。副王様と一緒に出ましたわ」

リッチ「…そうか。わかったありがとう」

マーヤ「後、リッチ殿。あまり魔王様を甘えたりしてはいけませんわ」

私が甘やかした形跡は無いのだが…力の強い言葉で言われて冷静にはなれない

リッチ「だがそういうそなたはどうなのだ?副王と魔王様と一緒に出て何も言わなかったのか?」

リッチがそう言うとマーヤは何事も無いような顔をして言う

マーヤ「魔王様のご厚意ですわ。いずれにせよ、魔王様にはしっかりとした魔王にならないとだめですからね」

…言ってる意味があまりよくわからないが、まあいいか…

リッチ「わかった。とにかく副王がいるのなら全然大丈夫だな」

マーヤ「そういうことですわ。それでは」

そう言うとマーヤは下がっていった

リッチ「…私が考えなくとも2人で出ていったのか。不安だが副王がいるから安心できるだろう。部屋に戻るか」

リッチは自分の部屋に戻っていった


王国内の繁盛店の通り

ここは王国内でも特に繁盛してる店が並ぶ通りだ。ここで買い物する人は多いしなんと言ってもいつでも賑やかな場所だ

そこに2人の女性が並んで歩いていた。魔王カイトと副王イクナグンニスススズだ。2人は仲良く歩いていた

現段階での魔王と腹心の副王が歩いているのだから一般市民は道を開けたりヒソヒソと会話をしていた

「魔王様と副王様だ」「今日はどういう偵察をしてるのだろう」「副王様が兜を脱いでる」「2人とも可愛い人たちだなあ」

そういう会話が聞こえた。副王のスズはちょっと恥ずかしい。魔王の命令とは言えいつものフルフェイスの兜を付けてないからだ

一方の魔王カイトは何知らず笑顔でルンルン気分で歩いていた。恥ずかしいが魔王様が喜んでいるのなら別にいいかとはスズは思った

そういえば…メイド長からちゃんと許可を出しているのだろうか?あのうるさいメイド長マーヤ。ちょっと聞いてみる

スズ「魔王様。マーヤから外出許可を出していますよね?」

彼女が言うとカイトは笑顔で答える

カイト「もちろんよ!後ね、マーヤはスズと行くことに何も感じていなかったわ!だからいいの!」

なるほど。だがあの難しい性格のマーヤがスズと行くことにちっとも思っていなかったのは意外だった

スズ「そうでいらっしゃいますか。しかしあまり時間をかけると何言い出すかわかりませんから早めに用事を済ませましょう」

カイト「大丈夫よスズ!すぐに終わるわ!…あ、着いた!」

カイトがそう言うと指をぴしっと指して店を発見する。そこは…服屋であろう。様々な服が揃った、そんな店であった

2人は仲良く入っていく。そこには新しいファッションをした服が並んでいた。スズはちょっとだけ欲しいとは思った

カイト「わー!どれにしよう!」

彼女がそう言うと店の中を見定めした。そして走る

スズ「あ!魔王様あまり走るといけないですよ!」

しかし聞いてないのかカイトは色々な服をあっちこっちと見て回る

カイト「ねえねえ店員さん!今どれが一番良い!?」

魔王が突然やってきて店員はしどろもどろになりそうだなあ…とはスズは思ったが案外慣れている対応をする

店員「はい。こちら、緑の服をしたのが一番だと思いますよ」

…ここの店員はなぜ魔王が来ても普通な対応なのだろうか。訓練されてる店員だろうか?

カイト「わーい!スズ!これ、似合いそうかしら?」

魔王がそういうのならスズの返事はひとつだ

スズ「はい。とても似合うと思いますよ」

スズが言うとカイトはとても喜ぶ

カイト「やったー!スズに褒められたわー!んじゃあこれちょうだい!」

即決である。しかし店員は何事も動じず冷静な対応をする

店員「はい魔王様。レジ前にどうぞ」


冷静な店員と喜ぶ魔王を見てスズは驚愕するしかなかった。もしかして知らぬ間にちょくちょく来てるのだろうか?

買った服を袋に詰めてルンルン気分でカイトはまた歩いていた。歩いていたらカイトは言う

カイト「ねー。スズー」

スズ「魔王様どうしました?」

そう言うとカイトはちょっと恥ずかしそうに答える

カイト「手…つないでいい?」

え!?手を…つなぐ!?突然のまるで恋人のような感じになって思わずスズはびっくりする。しかしこれも命令かもしれない

スズ「わ、わかりました。でも、私の鎧には決して触れないでくださいね。熱いので」

副王が着てる鎧は基本的に炎なので触ると熱い

カイト「うん!」

2人が言うとカイトはすっとスズの手をつないだ。カイトはスズの手がとても暖かくぬくもりを感じた。優しいぬくもりだった

魔王より身長の高いスズだが、今このときを一番感じてた。手をつないで少し歩くとカイトは言う

カイト「…私ね。お父様にちっとも愛情表現を感じられなかったのよ。いつも厳しいお父様。でも、亡くなったときは当然悲しかった。

でも、私はそれでも悲しい気持ちにはならなかったのよ。だって、スズやリッチやマーヤ。その他部下達…あなた達がいたからよ。

特にね。こうやって人のぬくもりを感じると優しいスズがいてくれてとても嬉しい気持ちだわ。誰でもない、貴女がいたから」

そう言うと彼女は少しだけうつむいて、スズの方へ顔を向ける

カイト「いつも支えてくれてありがとう。この恩、一生忘れない。貴女が好きよ、スズ」

す、好き!?ただでさえ体温の高いスズはその言葉で余計体温が上がっていくのがわかった。魔王様が、好きとおっしゃった!?

スズ「あ、あの…その…私は…」

さっきの店員よりも冷静になれずしどろもどろになってしまったスズ。だが、本当だろうか?そんな表情をしてたらカイトは言う

カイト「スズは私のこと…嫌いなの?」

嫌いと言われてますます慌てる。だが、ここはきちんと言ったほうがいい。スズは冷静を漂わせて言う

スズ「…いえ、私も好きですよ魔王様」

スズはカイトと目を合わせて言う。そう言うとカイトは更に命令をする

カイト「嬉しい…スズ。今度から私のことをカイト様って呼んで?」

今度は名前呼びであった。だがこれも命令だろうか?スズはカイトの瞳をしっかり見て言う

スズ「…カイト…、様」

カイト「スズ…嬉しいわ!」

スズ「…」

副王は思った。こんな簡単な理由で名前呼びしていいのだろうか、と。彼女は少しだけ理解ができなかった

まだ16歳の彼女…。そんなまるで思春期の子の行き過ぎた行動と言動ではないだろうか?スズは今でも頭がヒートアップしている

この時間、この時の考えを全くまとまらない。自分自身でひとり会議をしている。魔王様に愛を囁かれてどんな気分になれるだろうか?

だが魔王は好きと言った。からかってるわけではない。本当の「好き」なんだろうと。邪神なりにそう考えた

そんな考えをしてたらいつの間にか城に着いていた

スズ「さあ、戻りましょうま…カイト様」

カイト「うん!スズありがとう!」


はぁ~…

スズはとても大きいため息をついた。そしてまだ公務があるだろうに自室のベッドで横になっていた。当然好きと言われてこうなっている

火の属性を持つ鎧も脱いだ。スズに身に着けているのはブラジャーとパンツのみだ。だが着替えることもできない

カイト様と言うようになって胸のドキドキが一切おさまらない。いや、思えば思うほど余計ドキドキしておかしくなりそうだ

ここでふと思う。私のことが好き?私が好き?好きという感情?これは昇華したら愛してると言える話なのか?

あまりにも突然すぎてひとり会議したものの全く結論に達していない。むしろ一寸先は闇みたいな感情である

…おっと、そろそろ鎧を着よう。まだ仕事がある。胸のドキドキが止まらない身体で気合いで彼女は再び鎧と兜を着て部屋を出た

スズ「…好き…私が好き…邪神なのに…」


ヴォルトロスという惑星

魔界の中心でカイトとイクナグンニスススズとの関係はどうなるのか?


続く



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