第291話 サザールダンジョン20階層

サザールダンジョン20階層


ちなみに普通のダーツフィッシュは透明ではなくやや赤い色付きだそうだ。

そして彼らの好物だと言う話、それほど大きくはない魚だが、たくさん獲れるのとその身には甘さがあり。

海洋獣人族の子供には海狩りの勉強と間食を兼ねていたりするのだそうだ。


《食べられないのは少し残念だな》

《ええ普通ならばこのままかじっても骨が少なく美味しいのですけどね》アローリア

《ほー昨晩の宴には出ていなかったな》

《身が少ないのと透き通っているので、宴の食事には向かないようです》

《そうか、そういう魚こそ美味だと思うのじゃがな…》


ダンジョン魔物として製作された魔物と実際に海で泳ぐ魚にはそういう違いがあると初めて知った。

確かに狼やゴブリンなどの魔物はダンジョン特有の仕組みがあるらしく一定の行動制限があるように見える。

もしダンジョンで自然の動物を使用したなら、階層ごとに沢山の動物を用意することなど出来ないだろう。

自然に発生している動物に必要な餌や環境を数百年規模で整備維持するのはダンジョンマスターでも無理に違いない。


《では20階層を見てみよう》

《はい》


10階層の時と同じやや大きい扉に手を掛けると目の前にはどこかの映画で見た事のある巨大なサメが見えた。

隊長30メートル以上、胴の太さは直径5メートル以上、そしてその口にはもちろん鋭い牙が無数に生えている。

そいつがゆっくりと20階層の階層ボス専用海底洞窟を泳いでいる、かなり広い空間であり他の魚などは見当たらない。


《どうするか…》

《一度俺にやらせてくれ》

《自分の力を試してみるか?》

《ああ》

《では防御のバフだけかけておいてやる、無理はするなよ》

《わ 分かった》


20階層のボスである鬼王サメは全体が真っ黒で口から生えている歯だけは白く、その動きはそれほど早くは見えなかった。


《いくぜ!》


海竜族の王子は一応変身魔法でその体のサイズを変更している、元の海竜としての大きさは10メートルは超えるだろう、アローリアはらにその倍はあると言う事になるのだが。

魔法で体積まで変える事が可能だと言う事になる、マーシャは不意にそんなことを考え出した。

(もしかして変身魔法をちゃんと覚える事が出来れば生前の姿になれるかも)

魔法がある世界だからこそできる変身、この攻略が終わったならば自分も変身魔法を教えてもらおうと思っていたりする。


「グオー」

《くそ!》

「バシュン」「ビュー」「バシュン」


その巨体でヒットアンドウェイを繰り返す鬼王サメ、シャーズが手にした槍は巨体を傷つけるどころか徐々に折れ曲がり始めた。


《シャーズ!》アローリア

《これはまずそうか…》

《まだまだ》シャーズ


手に持った槍を捨て、どうやら本来の姿に戻る呪文を唱えだした。


《大いなる海原よ我が姿にお力を、トロピカルリメイク》


シャーズがそう叫ぶと彼の姿が徐々に巨大にそして海竜として本来の姿へと変化していく。

だがそんなことなどお構いなしとでも言いたそうな鬼王サメは彼の変身中の姿へとその口を開けながら突っ込んで行く。

何度かの衝突でいつの間にか海中は藻屑を舞い上げており、特にシャーズのいる場所ははっきりとその姿も見えなくなっていた。


《シャーズ!》アローリア


巨体が目の前で暴れている、その水圧がこちらまで飲み込もうとやって来るがマーシャが魔法で水圧を遮断する。


《分断》


どうやら変身は間に合ったようだ、海竜の姿は思ったより滑らかなボディであり。

やはり口のあたりだけはそれと判る牙が見えている、大きさはやはり全長15メートル前後。

胴回りは2メートル前後と言った所、相手の鬼王サメの約半分だが腕と足がある分サメより自由度は高い。

彼は腕でその口をいなし、ちょうどサメの鼻の辺りに鋭い牙でかみついた。


「ギャーギャワー」


サメはそれを振り払おうとあがいているが、隙をついて今度は鬼王サメの目を攻撃する。

水かきのついた腕ではあるがその指先には鋭い爪があり、サメの体にいくつもの爪痕を付けて行く。


「ギャーグアー」

《止めだ!》

「ブシュー」


分厚いはずの皮膚に爪を立て、そのキバで急所を引きちぎる、約25分の戦いは鬼王サメの断末魔で終焉を迎えた。


「グオー」

《シャーズ、大丈夫!》

《俺は平気だ》


見るとその体には殆どキズなどついておらず、先ほどまで戦いで浴びた血の跡も今は何もなかったように消え去っていた。

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