第280話 サザールダンジョン攻略開始

サザールダンジョン攻略開始


朝食を摂るため昨晩と同じ宴の間へと連れて来られたマーシャとロキシー、目の前には昨晩とは違い割と質素な料理が並んでいる。

朝食はやや海藻類が多く、貝類も多いようだがかえってその方が飽きずに済む。


《おはよう》

《おはようございます海王どの》

《おはようございます皆さま》


昨晩と同じく海王の両隣には娘であるアローリアと息子のシャーズ、昨日とは違う装いで座っている、既にダンジョン攻略の用意を済ませて来たと言う事なのだろう。


《本日は食事の後いよいよダンジョン攻略になるわけだが…》

《妾はいつでも良いのだがな》

《そういうわけにはい行かないのだ、ダンジョンのある激流渦が収まらなければ扉を開ける事が出来ないのでな》

《なるほどそういう作りか…》

《場所はここから2k先の洞窟内、もちろん先日進呈した指輪を装着するかもしくは魔法で呼吸が出来るようにしなければ攻略は不可能じゃ》

《うぬ》

《それとこの2人を無事に連れて行っていただければ後は何も望まぬ》

《分かった》


朝食は30分程度で終わり、その後はいよいよサザールダンジョン攻略の為、海底洞窟へと一行は移動した。


《こちらです》アローリア

《……》シャーズ


海王の娘は率先して先導してくれているが、息子の方はむくれたように言葉を控えている。

昨夜、姉弟で何を語りあったのか分からないが、どうやらシャーズはいくつかの禁止事項を守らされる事になったようだ。


《お前みたいな人族の幼女になど攻略できる物か!》

《ようやく口を開いたか》

《あ?》

《できなければそれで終わりじゃ》

《やはりできないんだろう?》

《おぬしはなんだ、自分がすぐやられたから妾もすぐやられると言いたいのか?》

《ああ、そうだろう》

《攻略出来なければ母にも会えぬが、それでも良いと?》

《お前など頼らずとも、いつか俺一人で攻略してやる》

《ではなぜ今日付いてきた?》

《…》

《うるさい!》

《シャーズ口を慎みなさい!》

《姉上》

《マーシャ様の強さをあなたは分からないのですか?》

《わかるわけないだろう》

《あれだけ魔力鑑定の練習をしておきなさいと言ったのに…》


どうやらシャーズは魔法よりも腕力の方が得意なのだろう、確かに全長4メートル近い体に筋肉質の太い腕や足を見れば魔法など勉強する必要はないと考える者は多い。

だがそれは対人、いや対獣戦であればそこそこ通用するが相手が魔物や魔法を得意とする相手ならそうはいかない。


《どうやらおぬしは脳筋のようじゃな》

《脳筋?》

《脳みそまで筋肉で出来ておる奴の事を脳筋と呼ぶのじゃ》

《なんだと!》

《なんだ、妾と一戦交えるか?》

《上等だ!》

《マーシャ様》ロキシー

《姫様!》

《まだ激流は収まらぬのじゃろう》


一行の500メートル先に巨大な渦が見えている、もちろんこれ以上近寄ればその渦に巻き込まれてしまうだろう。

ダンジョン攻略には約500メートル手前でこの激流が収まるのを待つ必要がある。


《待つ間も暇じゃ、一度手合わせするのも一興》

《いいぜ、俺も賛成だ》

《では審判は私が》ロキシー

《ハンデをやろう妾は武器も魔法も使用しない事にする、おぬしはどうする》

《素手で俺と戦うのか!》

《おぬしは武器でも何でも使用してよいぞ》

《舐めてるのか?》

《それは戦ってみなければ分からぬがな》

《よしいいだろう後で泣いて許しを乞うても知らぬからな!》

《ふふふ》

《では両者ともに10メートル離れて》

《うぬ》

《始め!》


まさか海底で海竜族とやり合うとは思ってもみなかったが、海の中での戦闘はマーシャも初めてだった。

だからダンジョン攻略の前にその戦い方を知り勉強する必要があった。

勿論手加減しないと現在のマーシャの実力があれば相手のシャーズは簡単にあの世へと旅立つことになる。

少し痛手を与えて、彼の自慢の鼻を折ってやることがこの先へ進む前に必要だと感じたマーシャ。


《オリャ!》

《シッ》


足のヒレを使いまっすぐにマーシャの目の前に突進して来るシャーズ、だがそれを簡単に受け流すと同時に胸元へ手拳を突き入れる。


「バシン」

《グッ》

「ギュルル」


海竜族の体はマーマン達と同じように少し体表に被膜のようなヌルッとした液体に覆われている。

海の中で暮らすにはそういった性質が必要なのだろう、そして筋肉だけでなく皮膚も人族とは違い数倍の厚みがある。

だがマーシャの手刀はその皮膚を簡単に切り裂いた。


《いつの間に…》

《おぬしの攻撃は当たらないな》

《避けるからだろう》

《?避けるのは当たり前だろう》

《われら海竜族はよけずに戦うのが基本だ!》

《初めて聞いたな、そういう縛りかなるほどな…》


どうやら戦いと言う物に自らルールを作ってやるのが海竜の決まりらしい、マーシャにとっては「なんじゃそりゃ」という感じだが、まあ相手に合わせてやってみるのも悪くはないと思ったマーシャ。


《そうかでは今度は躱さぬ、だがどうなっても知らぬぞ》

《ぬかせ!》

「ギュルル」


一度距離を取るシャーズ、マーシャは使用している軽減スキルをいくつか外し海底にその体を固定する。

マーシャにはいくつものスキルが常時発動している、重量軽減や装備軽減などのスキルだけでも数十あり全てが常時発動している。

その中のいくつかを外し、装備であるバトルドレスの重さを解放してやるとどうなるか。


「ズズズ」


その小さな体が海底の岩に沈み込む、あまりスキルを解放すると岩を割り体が半分以上埋もれてしまうので、キリの良いところで解除スキルをストップさせた。


《死ね!》

「ギュルル、バチュン!」

「ドガン!」


マーシャの懐へ飛び込んだシャーズ、その威力は30トンクラスの岩が時速100kと言うスピードで突っ込んでくるような物。

だがマーシャにはいくつものガードスキルが有り、シャーズが全力を出したとしてもガードスキルが破られることなど無い。

一瞬海底の岩肌が粉々に砕けると辺りの藻屑が沸き上がり2名がぶつかった場所周辺は透明度が一気に下がる。

だが次の変化はすぐに表れた、その濁った海底から気を失ったシャーズが伸びきった体のまま浮き上がって行く。


《うぬ、このぐらいでも大丈夫なようじゃ》

《シャーズ!》アローリア

《気を失っておるだけじゃ》

《ヒール》


要するに彼は厚みが数メートルもある金属で出来た板に頭から突っ込んだと言う事、但しマーシャが途中でスキルを解除したので脳震盪ぐらいで済んだのだ。

マーシャが上手くスキルを操らなければ頭蓋骨が砕かれ首の骨は折れてしまい即死したに違いない。

マーシャが言った通り魔法は使用していない、もし重力魔法を使用して100%反発していたならシャーズの体は全身の骨が砕けてしまっていたことだろう。

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