第10話 それから3年
それから3年
「マーシャ様~マーシャ様お待ちください~~」
「待たにゅ、おにゅしそれじぇよく王家の女中が務まりゅな」
「マーシャ様それは心外でございます、他のお王子様はマーシャ様みたいに、城中を走って回られたりいたしません」
マーシャは現在3歳になりハイハイなどとっくに過ぎて、オムツも取れて走り回っている。
この歳でこの状況はめちゃくちゃ早いらしい、自分でもそう思う。
だがそうしないといけない理由がある、天使からの仕事を早く始めたい。
マーシャは生前かなりおてんばだった元ヤンキーだからね、今期もそうしようと思うがいかんせん立場が違いすぎる。
3歳になりはしたが、体の動きはまだまだ。
確かに丈夫ではある風邪は引かないし転げて頭を打っても直ぐに直ってしまう。
それはそれで好都合だが、他の王子達とのかみ合いもありなかなか先に進めさせてはくれないようだ。
そう早く勉強しなくてはならない、この国とこの星とこの世界の事を。
算術や語学は元のスキルにより既に取得済み。
知りたいのは魔法や剣術といった前の世界では手に入らなかった情報。
王族の勉強は5歳からと決まっているらしいが、そこを何とか3歳から始めさせたい。
5歳からと決めているのは別にそう言う規則を作ったわけではないらしい、そこに目をつけた私はこうして女中や側付きの手を焼かせているのだ。
私をおとなしくさせたいならば勉強をさせろと。
元の世界の親なら泣いて喜ぶ状況だが、この世界のしかも王族ともなれば勝手が違いすぎる。
いくら前世では頭が良くても、教えてもらえなければその先へは進まない。
「では勉強させにょ」
「それはまだ早いと王妃様が言っておられたではございませんか」
「何処が早いにょだ、理由にょ申せ」
言葉使いがややおかしいがこの世界で、やばくねーとか言ってるしょ、等と言っても基本語に訳されるので、逆にちゃんと伝わらない。
放った語意がえらそうに聞こえれば良いだけなので、いつの間にかこういう言葉使いになってしまった。
まあ外へ出たときにはもう少しましに直そうとは思うけどね。
「マーシャ様それは無理なんですって…とほほ」
「おみゃえでは話ににゃらにゃい侍従長か執務長、もしくにゃ騎士長を呼め!」
「!何処でそんなお言葉を…」
「みゃから言っておにょう、おまえ達の頭にょは違うんしゃ、はにょ話にょ解るもにょ連れて参るにょら!」
この時点で側付きの女中は3名、肩で息をしながら対応しているが、だれも私の足には付いて来れなかった。
「全くおにゅしにゃもやわいにょ~~」
(はあはあはあ)
「何の騒ぎです!」
「侍従長様!」
「何ですか3人もそろってはしたない、あなた達は仕事に戻りなさい!」
「はい」
「それでマーシャ様、今日は何の御用でしょうか?」
「早にゃく学術にょけんにゅつ教えにゃさい!」
「それは出来ません」
「ならひゃ毎日はしりまわるにょ、よいにゃ!」
マーシャは乳離れし走れるようになり、言葉も話せる、さらに丈夫で身体能力も大人並み。
そんな3歳児が毎日広い城の中を駆けずり回るというのだ、何かあったら首が飛ぶなんてものじゃない。
せっかく王の御烙印と言うワンチャンスを胸にこの城へ狭き門をくぐってやってきたのに。
王女一人のために全て失ってしまう可能性があるのだ。
確かに御烙印を身ごもる年齢は過ぎたとはいえ、ここに居れば一生食うに困らないのは保証されている。
それにまだ、他の役職や宰相とか衛士長とかその他、国の重責を担う方々の寵愛を受けられる可能性も無きにしも非ず。
(侍従長36歳、独身 元男爵家令嬢シャルル・ヨークリー、まだまだ諦めませんよ。)
実は彼女、騎士団長のロドリゲス・パイロンと少しイイ仲になっており、たまにHらしきこともしているらしい。
他の女中から噂話しで聞いている。
「おにゅし騎士長にょうまくいきにゃいのなろう」
「何処でそれを!」
「うまくとりはからちぇあげゆからなんとかしにょ」
「うぬぬ…」
「そうにゃ、おにゅしが教えてくにぇにぇばいいにょ」
「私が?」
「そうにゃ」
確かに元男爵家令嬢、王宮に入るために並々ならぬ努力を重ね、夢に見た王妃の座。
あれよあれよと言う間に三十路は過ぎいつの間にか今では誰も振り向かない、時折般若と化す行き遅れの令嬢、もう令嬢と言うには恥ずかしいほど体は疲れ切っている。
そんな中で手に入れた最後の恋・いや最後のチャンス、これを逃せば一生独身。
糞ガキ一人に振り回されて夢敗れるのか、それともこの王女にかけてみるか、二つに一つ。
「わかりました、その話のらせていただきます、但し上手くいくようにお手を貸していただく必要がございます」
「まかせうにょな!」
その日から王妃や他の王子達への根回しが始まった、まずは侍従長が専属になることでマーシャがおとなしくなるという、効果を説明。
さらにずっと付いて回るという絶対安全状態をアピール。
さらにさらに侍従長による勉学の勧め、元男爵家令嬢の博識な部分を惜しみなく利用する。
そして、軽い剣術を含めた騎士団長とのタイアップ、3歳児を教育するのにはこれでもかと言うぐらい万全を期して事に当たる。
しかも王女本人からの涙ながらの訴えもプラスされれば、王妃でさえもむやみに禁止することさえ難しくなっていく。
今までの5歳までは勉強させないという目的のない信念はいつの間にかぽっきりと折れていた。
だが…
それで面白くないのは他の王子王女達、だからわざと頭がそれほど良くはない、運動も得意ではないというところをわざとアピール、そもそも頭がよければ勉強など必要ないのだから。
回りの人間をうまい具合にだまし、剣術と魔法を教えてもらいながらすくすくと育っていく。
他の王子王女達にはねこなで声で、従属をアピール。
「お兄様お姉さまには勝てませぬ」(5歳になりようやく舌が追いついた)
等と言いながら、力量ははるかに超えて、騎士団長でさえ攻撃を捌くのがやっとと言う腕前までこぎつけた。
すでに5歳児ながら初級魔法は全て使えるという、将来が約束された天才児。
外見はこれでもかと言うぐらい、かわいらしい金髪碧眼の美少女。
いつの間にか騎士団のマスコットにまでなっていた。
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