6 冒険者ギルド
「ようこそ、冒険者ギルドへ。おや?」
妖精さん。いいえ、レーシーさんと友達になった夜が明けると私たちはこの街の冒険者ギルドに向かいました。もちろんレーシーさんも一緒ですよ。
ちなみにこの町はポーツと言うらしいのです。ポーツの街の冒険者ギルドの酒場にはいかにも冒険者という風貌の方達でいっぱいでした。
「登録をしにきたのですが。」
ノアさんが受付の女性に向かって言いました。とても美人な人です。彼女のネックレスは三等星。どうやら彼女はレーシーさんが見えているようでこちらを見てニコリと微笑みました。
「分かりました。登録は二名でいいですか?それとも三名にしときます?」
受付の方は親切にレーシーさんの分も聞いてくれたようです。
「優しい人だね。」
私の肩に乗ったレーシーさんが言いました。彼女はとても嬉しそうです。
「ええ、そうですね。ところでレーシーさんは冒険者登録をするのですか?」
「う〜ん……いや、しなくていい。」
彼女は首を振って言いました。それを聞いてノアさんが受付の女性に登録は二人と伝えます。
「畏まりました。では、こちらの容姿に記入をお願いします。」
私たちは手際よく記入を終わらせました。自分の名前と等星だけなのですぐ書き終わってしまったのですけど。
それより私はこの時初めて文字を書いたのでした。
まぁ、ホムンクルスなので知識はあったのですが。
それでも紙の上をハネペンが走る感覚はなんとも新鮮で癖になってしまいそうです。
「ノアさんとスカイさんですね。えっと等星は……一等星と二等星?!そんな馬鹿な!!」
ギルドに受付の女性の声が響きます。その声に反応してギルドにいた他の冒険者の方々の視線を集めてしまったようです。背中が痛い。
というか、私はネックレスを服の下に入れてしまっていたようですね。これは失敬。最初から出していれば、こんなに驚かせてしまうこともなかったでしょう。
私は服の下から眩い光を放つネックレスを取り出します。
「た、確かにこれは一等星………それに妖精も見えているようですし……ノアさんはネックレスは持っていないんですか?神官とはいえ流石に持っているものでは?」
私のネックレスを見て信じてくれたのか、今度はノアさんにネックレスを見せるように催促します。
しかし、ノアさんは二等星だったのですね。私を殺しにきたと言っていたのでそこそこ実力がある方だとは思っていたのですが、二等星とはさすがです。
「はぁ……これでいいですか?」
彼は深くため息をついた後、修道服の下に隠してあったネックレスを取り出します。
「これは……確かに二等星です。でも、あなたこれ……」
「誰にも言わないでもらえますか。もちろん彼女たちにも。」
ここからでは彼のネックレスが見えません。ネックレスの色は人それぞれなのでノアさんのネックレスがどんなものか見たかったのですが、すぐに戻してしまいました。
「これでいいですか?」
少し苛立った様子でノアさんが受付の女性に言います。あんなノアさんは初めてです。ネックレスを見せるのがそんなに嫌だったのでしょうか。
「しょ、少々お待ちを!」
すると、受付の方はどこかにかけて行ってしまいました。取り残された私たちはただ呆然としているしかありません。
「ノアさんは二等星だったんだね。」
沈黙を打ち破るようにレーシーさんが言いました。私もちょうどその話をしたかったのでナイスですよ。
「ああ、昔かなりのスパルタ訓練を受けさせられてね。そのせいだよ。」
「でも、そのおかげで私とノアさんは出会えたのですけどね。」
ノアさんはそうだねと微笑みました。さっきの苛立ちはもう無いようです。やはりノアさんは怒っているより微笑んでいる方がいいですね。
すると受付の方が帰ってきました。
「お二人ともついて来てください。ギルド長から直々に話があります。」
なんと、呼び出されてしまいました。どんな話なのでしょう。まったく見当がつきません。
「これはもしや問題児というやつですか?」
「い、いや違うと思うけど。」
ノアさんは苦笑いを浮かべます。レーシーさんにもクスクスと笑われてしまいました。どうやら私は言葉の使い方を間違っていたようですね。これは恥ずかしい。
私たちは酒場の奥へ通されました。そこには一段立派な扉があり、私たちは受付の女性の案内でその扉の奥へと通されます。
「お前らか。一等星と二等星を名乗る奴らは。」
そこには片目に眼帯を巻き、強面でどすの利いた声を飛ばす黒服の男が机の上に足を乗せて座っていました。雰囲気は歴戦の戦士のそれです。
私にはすぐ分かりました。この人は怖い人です。ノアさんとは全然違う。
「なんのようでしょうか。」
ノアさんも眼帯の人に負けないようにしているのかいつもより声に覇気があります。
「いや、ちょっとネックレスを見せて欲しいと思ってな。もちろん外してだ。」
眼帯の人の要求に私とノアさん、そしてレーシーさんは一度顔を見合わせました。
「分かった。外してなら。」
ノアさんは要求をのみました。ノアさんがそうするなら私もそうしましょう。私たちはネックレスを外して輝きを失った魔石を眼帯の人の机に置きます。
眼帯の人は机に乗せていた足を下ろすと、まじまじと魔石を見つめました。もちろん片方の眼で。
「うん、確かに本物だ。疑って悪かった。」
そして、見終わると眼帯の人はわざわざ立ち上がって私たちに直接手渡しで魔石を返してくれました。
「一ついいですか?どうして確認を?」
「いや、最近ネックレスの偽造が増えててな。等星を偽る輩が増えてるんだ。」
なるほど、そういうことでしたか。確かに一等星と二等星が一緒に登録にくるなんて不審極まりないですね。それに私たちの見た目は若いですし。
「いや、本当に疑ってすまなかった。そのお詫びと言っちゃなんだが、何か少しくらいなら要求に応えよう。」
なんと!もしかしてこの人はいい人なのかもしれません。さっきも手渡しで魔石を返してくれましたしね。
「どうした、嬢ちゃん。」
「いえ、人は見かけによらぬものですね。私は最初、あなたのことを怖い人だと思っていましたから。」
すると眼帯の人は高らかに笑います。さぞ楽しそうに。そして私の目を片方の眼で見て言います。
「嬢ちゃん、その言葉は俺より似合う奴がこのギルドにはいるんだぜ。」
そう言って、眼帯の人はニヤリと不敵な笑みを浮かべて見せるのです。
結局、要求は今度という結論に落ち着きました。眼帯の人はここのギルドマスターだったようですね。まぁ、察してましたけど。
ギルドマスターの部屋を出た後、私たちは受付の女性の後について歩いていました。
「お二人はこの街に住んでいるわけじゃ無いですよね?」
「はい、私たちは旅の途中ですよ。それが何か?」
「いえ、それならこの街について説明しておこうかと思って。そこの妖精さんも詳しくは無いようですしね。」
「私のこと知ってるの?」
レーシーさんは驚いたように目をまん丸にして受付の女性に聞きました。
「見える等星の間では少しだけ噂になってますよ。ボロ宿に出る妖精ですよね?」
なんと、レーシーさんはこの街ではちょっとした有名人みたいですね。三等星以上の方にですけど。
「それはいいとしてこの街の説明をしましょうか。この街は港街ポーツ。主な特産品は海の幸ですよ。冒険者として依頼を受けるなら東の森のゴブリン退治などがおすすめです。まぁあなた達には簡単すぎるかもしれませんけどね。」
「なるほど、勉強になります。」
「それじゃあ、少し聞いてもいいですか?」
「どうぞどうぞ。なんでも聞いてください。」
と、そんなこんなで私たちはこの街について受付の女性から色々聞いているうちに元の受付の場所まで帰って来ました。
「ありがとうございました。色々この街について知ることができました。」
ノアさんが丁寧にお辞儀をしたのを見て、私も習ってお辞儀をしました。レーシーさんもそれに習います。
「いえいえ、お安い御用ですよ。………それでは。」
「??」
「え?」
「ん?」
私たちは何が何だかわかりませんでした。困惑したのも無理はありません。まるで何かを請求するように彼女の手が広げられていたのです。
「まずは冒険者の登録手数料、そしてギルドマスターの部屋までの案内と、帰りの案内。そして街の説明とその他もろもと。……一人5万ダムといったところでしょうか。×2で10万……いえ、妖精さんもいるので×3で15万ダムですね。持ち合わせがないのであればツケでいいですよ。その代わり必ず払ってくださいね。」
なんということでしょう。本当に人は見かけによらぬものです。
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