03 顔合わせ2

「さて!じゃあいよいよ私たちの自己紹介だね!私からでいい?いい??」


 そわそわとしていたエステラが、ジャイロの自己紹介が終わるなりきらきらした目で研究者一同を見やる。エステラの性格をよく知る一部は苦笑い、彼女を尊敬している他の研究員はにべもなく、どうぞ、とエステラに譲った。


「やった!じゃあ改めまして!私はエステラ!この組織を設立した張本人だ。といっても、代理人は立てたけどね。当時私は小さかったし。」


 彼女は人懐こそうな笑顔で頬を掻く。彼女は現在26歳で、この組織は今から12年ほど前に設立された組織だ。当時から行動力に長けた少女であったことが伺える。

 エステラ、という名は、この組織に所属していれば一度は聞いたことがある名前であった。所属してから長ければ、彼女の演説を見る機会もあっただろう。自信に満ち溢れた姿で、救世を成し遂げる、という大きな夢を語るその様は、正に皆を導く太陽そのものだった。


「……どうしようシャルル!話すことなくなっちゃった」

「ウソだろ……?なんかあるだろ、なんか……」

「ねえエステラ。あなたや私のように話すのが得意な子はいいけど、口下手な子もいるからあなたが私たちを紹介するのはどうかな?竜狩りの子たちはちょっと難しかったけど、私たちのことはあなたもよく知っているでしょ」

「あ!いいねそれ!他の子もそれでいーい?」


 薄桃の髪の女性の言葉に大きく頷き、エステラは研究者一同を見る。太陽に紹介される、ということで、何か変なことを言われやしないか、と思う人間もいるにはいたが、しかし殆どが彼女の熱心なファンであったので、これまた二つ返事で頷いた。


「じゃあまず私の双子の妹のメルクから紹介するね!」


 ややオーバーな動きで移動し、エステラは自分と瓜二つの顔をした少女に抱き着く。メルク、と呼ばれた彼女は、突然抱きしめられたことに驚いているようで目を丸くしていた。


「えっへへー、メルクは私の可愛い妹だよ!……っていう前提はともかくとして。研究者としての頭の良さは勿論、すごく整理整頓が上手でね。資料室とかでどこに何があるかわからなくなったらメルクに聞いたら一発でわかるので、頼りにしてね!」

「なんでお前が自慢げなんだよ」

「そして今憎まれ口を叩いたこの人はシャルルです。私の恋人」

「違う」


 深々とため息を吐いて、シャルル、と呼ばれた青年がちらりと竜狩り一同を見やる。


「俺はシャルル・ラティモアという。こいつらとは腐れ縁だ。……主に、装備の開発、調整を行っている。何か欲しいものがあるなら相談してくれ。それから決してエステラとはそういう仲じゃない。こいつが勝手に言ってるだけだ。以上。」


 全く……とこめかみをもむシャルルの隣で、メセチナがじとりとした視線を向けている。


「……そんな目で見るな、メセチナ!いつも言ってるだろ、俺にそんな気は」

「エステラ、次は僕でいいかな」

「おい」

「いいよ~」


 メセチナは姉のGoサインを確認すると、竜狩り一同へ顔を向ける。姉二人と違って彼の眼は青色をしていた。


「エステラとメルクの弟、メセチナだ。……シャルルと同じように普段は兵器開発をしている。でもそれ以外にも色々できるから何か困ったことがあったら言って」

「料理だけはだめだけどね」

「うるさいよ、リリー姉さん」

「ふふ」


 くすくすと笑い声をあげている彼女に、ばつの悪そうな顔でメセチナは目を逸らし、こちらに顔を向けていた男性をびし、と指さした。


「次きみが自己紹介しなよ。話すの得意でしょ」

「人を指差すのは良くないわ、メセチナ」

「そういうの良いってば……」


 ぺち、と軽く頭をはたかれて、リリーは楽し気に笑っている。メセチナが何とも言えない顔をしているのを眺めながら指名された男性はしなを作りながらしゃべり始めた。


「指名されちゃあ話すしかないわね」

「わね?」

「あたしはレイリナよ、よろしくね。ゲルマニア支部の出身で、主に竜の血の研究をしているの。医務室で医者代わりにいる時もあるから、体調不良の時は頼ってちょうだい」


 ローゼンが首を傾げてレイリナを眺めていたが、失礼だぞ、とエルザに窘められて首をすくめる。まあ気持ちはわかるけどさ……とこそこそ話しているのを、レイリナがじろりと軽くにらんだ。ぎくり、とした二人を横目に、レイリナはこほんと咳払いをする。


「ま、いいわ。それじゃあ次よね。」

「リリーお姉ちゃん自己紹介しないの?」

「私は後でいいよ」

「そっか」


 じゃあ、とエステラはシャルルに引っ付くのをやめて次に誰を紹介しようか、と視線を巡らせる。と、勢いよく手が挙げられた。


「はい!次自分が自己紹介したいです!」

「今日も元気だね、アディルちゃん!いいよ、どうぞ」

「はいっ!」


 元気に返事をし、椅子から立ちあがった彼女は目いっぱいの笑顔で竜狩り一同に頭を下げた。


「自分、アディルといいます!精一杯皆さんのサポートをさせていただくので、よろしくお願いします!」

「元気が良くて沢山働いてくれる良い子だよ!ちょっとおっちょこちょいだけどね?」

「えっへへ~」


 よしよしとエステラに頭を撫でられてえへえへと笑うその様はまるで犬のようである。それを見ていたミサキはなんだか親近感を覚えた。自分の番が終わったので、アディルはお利口に席についてふんす、と次の人の自己紹介を待っている。

 しかしながら、最後でいいと言ったリリーはともかくとして、他の残った三人はあまり自己主張が得意ではない三人だった。どうします、とお互いに視線を送りあっている。ふと、ジャイロは席を立ち、隅の方で戸惑ったような顔をしている少女の肩を叩いた。


「はぇっ!?えっ、ジャイロ司令?」

「折角優秀なのに、おとなしいのは変わらねえなぁ」


 ほら頑張れ、とジャイロがぽんぽんと肩を叩くので、少女ははう……と首をすくめた後に、意を決したような顔で立ちあがった。


「ヤマト支部出身、桜庭アヤネです!よろしくお願いします!……ぁっ、えっと、その、……目が見えないのでお役に立てることはないかもしれませんが……」

「恐らくこの場にいる人間の中で一番若いが、研究者としてはとても優秀な人材だ。それは俺が保証する。ま、ご覧の通り控えめな性格だ、気にかけてやってくれや」


 こんな幼い子供までこんなところで働かせているという現状に、思うところがないわけではない。だが、今は少しでも力が必要だった。故に、エステラに拾い上げられジャイロに預けられた彼女自身は、現状を決して悲観してはいない。

 自己紹介が終わると、余程緊張したらしい彼女はへろへろと椅子に腰を落ち着ける。それを見てジャイロは軽くアヤネの頭を撫で、それから自分の席に戻っていった。


「じゃあ次はベリルさん!行ってみよっか」

「あっ、はは……、」


 少しずれていた眼鏡を直すと、ベリルはひとつ咳払いをしてから軽く礼をした。


「ベリル・ヒュランデルと言います。魔術についての研究をしておりますので、もし興味があればお声がけください。……ああ、それと、もし研究室に姿がないようでしたら、保管庫に来ていただければと思います。」

「武器の管理、チェックも彼の仕事だよ」


 リリーお姉ちゃんに先に言われちゃった、と唇を尖らせているエステラに肩をすくめて、彼女はリリエルをちらりと見た。リリーが最後なので、必然的に次は彼女が自己紹介する番なのだが……。


「リリエル?起きてる?」

「……」


 リリエルは机に突っ伏したまま動かない。死んだように寝ているので、リリーは仕方がないと首を横に振った。


「……この子はリリエル。万年寝不足だから、まあ、許してあげて。竜についての全体的な研究をしてるの。まあ基本的にエステラの研究の補佐的な感じかな」

「私は竜の弱点とか、竜の毒素とか、まあその他諸々含めて研究してるからね!手が足りないからリリエルちゃんにはとっても助けてもらってるんだ」


 まあちょっと頑張りすぎなところがあるけど……とエステラが頬を掻いている。リリーはそれに同意しつつ、最後は私だね、とエステラと同じ赤い目を瞬かせながら微笑んだ。


「私はリリー・フォーサイス。残念ながら血の繋がりはないけれど、エステラとメルク、メセチナのお姉ちゃんだよ。……まあそれはおいといて、私はリリエルと同じように研究の補佐をしてたんだけど……」

「お姉ちゃんはなんでもできるしすごく頭がいいから、今は事務とか会計とかそういう方向で仕事をしてるよ!情報収集に整理もリリーお姉ちゃんがしてるんだ」

「まあ本当は研究の方に手を付けたいんだけどね、今はどこも人手不足だから。……このビルの受付か事務室にいるから、そこに来てくれればいいわ。私に用があったらね」


 リリーはにこりと笑いながら、そんなところかな、とエステラを見た。これで一通り自己紹介が終えられたので、エステラはよし、と張り切ってまたホワイトボードの前まで移動する。


「それじゃあ、みんなの自己紹介が終わったところで、これからしばらくどうするかの話をしていくね。今はまだ竜の巣はわからないし、ヤマトの中で竜による被害が大きいところを狙ってきみたちを派遣しようと思ってる。何事も経験は必要だし、竜の好きにさせるわけにもいかないからね。」


 曰く、現状情報収集をしている最中である為、数日間は自由行動である、とのこと。ビルの中の施設は好きなように使ってくれて構わない、とエステラは言う。


「まあ、あんまり沢山のことを話しても、今みんな疲れてるだろうし。このビルの地図は後で端末に送るね。あ!あとカードキーはきみたちの身分証も兼ねてるから無くさないでね!無くしちゃったらリリーお姉ちゃんにちゃんと報告するように」


 と、いう言葉を最後に、この場は解散となった。

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