作戦

そこでようやく自分のしてしまったことの大きさを知った私は震災のこと、放射能のことを片っ端から調べた


どうにかして、あの子の状況を何とかしなきゃ

その一心だった


本当は見たくはない当時の映像、それと記録、被災された方の証言…


(その時見た資料は未だに覚えている。

10年経とうがきっと20年経とうが忘れることなど出来ない


特に3.11の日が近付くと何度もフラッシュバックが起こる

「あの日」や資料を見ているその瞬間に戻ってしまう


夢にまで出てくることもある


後ろから津波が迫ってくる夢。

とうとう津波にさらわれて溺れる夢。

もしくは、自分ではなくて大切な人が流されてしまう夢。

生まれ育った私の故郷が無くなる夢。

写真一つさえ持ち出せないまま故郷に帰れなくなる夢。


どれもとても鮮明で感覚まであるのだ。

津波のあの恐ろしい音、飲み込まれた時の冷たさと苦しさ


いつも、目が覚めて我に返るとあれは私が本当に体験したことではないかと思う


涙がボロボロ零れて、ひたすら自分の肩を抱いて泣く

その後の1週間は屍のようになる


友達曰く、

「まず、目が死ぬ。無表情。

ご飯はろくに食べない。

何も喋らないし、急に泣き出す。

まるで泣くことだけ教えられたロボット。」

だそうだ


それくらい私の心に深く刻まれている。)




そして私は色々調べていく中でとある作戦を思いついた


私にはあの子が放射能を浴びたのかも分からないからそれではきっとみんなは納得してくれない


ならばどんなに大変な思いをして、どんなに怖い思いをして、どれだけのことを奪われて辛い思いをした人がいるのかみんなに知ってもらおう

そしたら、そんな酷いことは出来なくなるはずだ


という作戦だった


もちろん、反省を活かして全部事実や根拠があるのかどうか確認してから行動した



おしゃべりな友達に片っ端から声をかけ、とある被災した子達が経験した出来事の話をした


さらに、あの日以降テレビで繰り返し繰り返し見ていた悲惨な映像が他人事ではないこと


何も悪いことをしていないのに散々心身に傷を負った子に追い打ちをかけたり責めることはおかしいこと


中には具体的に想像したのだろう、泣きながら話を聞いてくれる子もいた



そうしてどんどんその話は広まって行った

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る