第57話 朝に和食って良いですよね

「あの空き家に転送門がある………それは事実なのですか…!?」


 エロオ雑貨店二階のヤリ部屋で、昨日に続き果樹園の女性二人の種付け依頼をこなしたエロオは、その後すぐに召喚の空き家へ行って日本へ送り返してもらった。

 当然、護衛のエドガーとビアンカも同行したので、一緒に入ったアナベルとミュウしか空き家から出てこずに忽然と姿を消したエロオに驚き慌てる。

 今は、屋敷に戻って女領主セーラに説明を求めてるところだった。


「アナベルが召喚したという話を聞いたかもしれませんが、それは私自身が検証した結果、娘の勘違いと判明しています。恐らく、エロオさんは娘を傷つけまいと話を合わせてあげているのでしょう」


「通常はダンジョンでしか見られない転送門がこんな僻地に……おっと、失礼しました。しかし、これが事実なら詳細な調査をした方が良いのでは?」


「エロオさんが望んでおられません。貴方も仰った通り、私も金の卵を踏んで割り潰すような真似をするつもりはありませんわ」


「そうですね……それが賢明というものでしょう」


「理解して戴けたなら、この件は今後一切、口外無用とします」


 女領主のクリスタルグレーの瞳がすっと細められ冒険者二人を射抜いた。

 二十歳そこそこの若さで騎士の叙勲を勝ち取ったセーラの実力は、腕の立つ冒険者なら僅かな身のこなしから察することができる。

 エドガーたちに否応は無かった。


「無論、俺たち冒険者には秘匿義務がありますから、言われずとも口外はしませんよ。ただ、最初に言ってくれてれば大慌てせずに済んだんですが」


「エロオさんが言わないことを私から言う訳には参りませんわ」


「そうですか。では俺たちは護衛対象がいない間、彼の店を守ることにします。できればそうして欲しいと言われているので」


「エロオさんが仰る通りになさって下さい」

  

「了解しました。ではこれで失礼します」


 エドガーとビアンカは一礼して執務室を出ていく。

 ひとりでは余りにも広い部屋に残ったセーラは、昨夜の激しい情事を思い出して胸を熱くさせる。知らぬうちに両手が乳房の頂点を触れていた。


 ────あのように私を愛して下さるなんて………!


 エロオはあろうことか搾りあげて乳首から噴出させた母乳を飲み干したのだ。

 この異世界では、ちょっと有り得ない行為だった。

 母国での愛情表現の一つだと言われた女領主は頬を染めて身を任せるしかなく、日に日に自分の中で大きな存在となっていく男の好きにさせた。

 すると、エロオは今日も寝起きから体を求めてきたうえに、また母乳を絞って満足するまで美味しそうに飲んでいった。


 ────あの人は本当に私を愛しているかのもしれない………


 自分自身にもこの領地にもさしたる価値はないと一番熟知しているセーラは、エロオの囁く愛の言葉を半信半疑で聞き、騙されまいとしてきた。

 だが今は、騙すなら死ぬまで騙し続けて欲しいと願っていた。




「おめでとうございまーーーす!!」


 ────パン!パパーン!パーン!パーン!


 召喚天使トリカさんが、お祝いの言葉を叫んでクラッカーを鳴らしました。

 もの凄いドヤ顔になってます。

 ここは広い心でノッてあげないとダメなんでしょうか。

 こういうのホント苦手なんで心からスルーしたいんですけど……


「うっわー! こんなに祝ってもらえるなんて本当に嬉しいでーす!(棒)」


「何を言ってるんですかヘイローさん。見事にまたレベルアップを果たされたんですから、担当天使の私がお祝いするのは当然じゃないですか。いや~、正に有言実行して下さいましたね。召喚させた私も鼻タカダーカですよ!」


「トリカさんに喜んでもらえたなら、僕も頑張った甲斐がありました。引き続き功績値を稼ぎ続けて、さらにレベルアップをする所存であります」


「ありがとうございます! ところで今回も買い出し帰還ですか?」


「はい、温めていたイベントが予定より早く実現できそうなので」


「それは大変喜ばしいことです。では早速、日本へ送り返しますので異世界パラダイス村の建設に邁進して下さい!」


 上機嫌のトリカさんは、営業スマイルではなく心からの笑顔で、宙に浮いた黒い穴に吸い込まれて行く僕を見送ってくれました。




「5日ぶりね、ヘイロオ兄さん。でも、こっそり夜に帰って家に入るなんて、何だか変態ぽくていやらしいわ」


 五日ぶりのマリアちゃんは相変わらずマリアちゃんでした。


「帰って来たのは夜じゃなくて朝の6時半だよ」


「朝ご飯をご一緒できて良かったです。ヘイロオさん、おかわりは?」


 あ、これは変わったことは無かったか聞いてるんじゃなくて、ご飯のお代わりはいるかってことですね。ここは頂いておきましょう。


「お願いします。向こうはお昼前だったんでお腹が空いてるんですよ」


「はい、どうぞ」


 サツキさんがキラキラと輝く白米をよそって優しく手渡してくれました。

 あぁ、朝から美味しい和食が食べられるとは何て贅沢な生活なんだろう。

 社畜時代は、良いとこ食パンで朝メシ抜きも珍しくなかった……


「もぉ、また泣いちゃって。お兄さん大人のくせに情けないわよ」


 ダメ出ししながらそっとティッシュを渡してくれる小悪魔が天使で尊い。

 ティッシュで涙と鼻水を処理した僕は、気になる近況を訊ねた。


「こっちは何か進展や変わったことはありませんでしたか?」


「一昨日、上城さんから連絡がありました。決定的な証拠を掴んだから一週間の内に離婚が成立する。もう少しだからこの家でジッとしてて欲しいって」


「やった! 上城さんホントにやってくれましたね。これで僕たちも堂々と夫婦としてこの家で暮らしていけますよ」


「水を差して悪いけど、ちょっと気が早いわよ。離婚が成立してもお母さんはすぐに再婚できないんだから」


「法律で半年は再婚できない決まりなんです。あ、今は100日だったかしら…」


「えーっ、そんな意味の分からない法律があるんですか。知りませんでした。だけど……婚約者は名乗っても良いですよね!」


 隣に座る美貌の人妻の手をギュッと握って綺麗な黒い瞳を見つめました。

 サツキさんは僕の熱い想いに応えて手を握り返し目を見つめ返します。

 僕の体温と視線で伝えた「今すぐセックスしたい」というメッセージを麗しの婚約者は正確に読み取ってくれました。


「シャワーだけ浴びてきますね……」


 そそくさと立ち上がって風呂場に消えて行く長身ダイナマイトボディを見送った僕は、この後に待つお楽しみを想像し、ウシシというニヤケ顔が止まりません。


「もぉ、お兄さんはこんなところだけ大人なんだから」


 いかにも呆れたという声色でしたが、その表情はとても嬉しそうだった。

 子供って両親の仲が良いと嬉しいもんだよね。

 普段、ケンカばかりしてるのを見せられてると特に……

 僕も身に染みて知ってるよ。


 これからマリアちゃんが夫婦喧嘩を見ることは二度とない。誓うよ。




「お待ちしてましたよ、ヘイローさん。地球では1日ぶりですね!」


 1日ぶりって、要は昨日会ったばかりじゃないですか。

 今回は予定にない帰還でしたからね。

 必要なものだけ買い揃えて速攻で異世界に戻らないと約束に間に合わないんですよ。マルテに待ちぼうけなんてさせたら、あとでどれだけ嘆かれるやら。


「昨日ぶりです、トリカさん………ハァハァ、ちょっと、いや、かなり疲れてるんで……ハァハァ、今すぐサクっと向こうに送ってくれませんか……ハァハァ」


 僕はリヤカーのハンドルに上半身をもたれかけて荒い息を吐いた。


「召喚される5分前までセックスしてればそうなりますよ。しかもゴールデンボールが空っぽになるまで撃ち尽くしてくるなんて一体どうしたんですか?」


「いや、ビッコーンと閃いたんですよ。地球で魔力無しの精子を出し尽くしてから異世界に行ってスキル回復Sを使えば、即座に魔力有りの精子をチャージできるって。そうすれば、向こうが深夜でも寒さに震えないで済むじゃないですか」


「………その通りですよ! そこに気付くなんてヘイローさんさすがです!」


 最初の間が怪しいですね。

 きっと、教えるのを忘れてたと内心焦ってるんでしょう。

 ホントこのウッカリ天使は頼りになりませんよ。


「ともかく、そういう訳でライフもゼロに近いですから、早く……」


「分かりました! それでは今回も功績値をガッポリ稼いできて下さい!」


 まぁ、功績値も稼ぎますけど、今回はもっと重要なイベントがあるんです。

 セーラさんの領地を僕のパラダイスにするために、まずは領民を増やしたり、その領民から好かれたりしないといけませんからね。

 そのための準備はしてきましたよ。


 ふふふふふ、あとは僕が上手く立ち回るだけです!


 ………ハァハァ、やっぱ5連発はさすがにキツかったですね……ハァハァ…

 ヘロヘロの僕を心配したのか、トリカさんはしっかりという感じのガッツポーズを見せながら、黒い穴に吸い込まれる僕を見送っていました。

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