第56話 押しかけ護衛エドガー&ビアンカ
「俺たちは今後、君の護衛に付かせてもらう。安心して任せてくれ」
はぃぃぃいいいいい?
何故、君たちが、僕の、護衛を、マルテに、依頼されるのか?
何もかもが、ちっとも繋がらない。
セーラさんの顔をチラとうかがってみたけど、僕の視線をごく自然に受け止めて満足そうにうなづかれちゃいました。意味が分かりません。
「まず、どういう経緯でそうなったのか説明してもらえますか?」
立ち話も何なので、また座るようにソファーを勧めてから僕も腰を掛ける。
エドガーは一瞬、何でそんな分かりきったことを聞くのか、という表情を見せたが、すぐに気を取り直して簡潔に事情を教えてくれた。
「ガラスペンが王都でも話題になっている。その出所である君は今や最重要人物だ。誘拐や暗殺を恐れたマルテが俺たちに護衛を依頼したというわけさ」
「あ、暗殺ぅぅぅうううううう!?」
さよなら異世界。
心残りが無数にあるけど、まだ死ねないし死にたくないんでロンググッバイ。
「可能性の話さ。金の卵を踏んで割り潰すような真似をする奴はまずいない。だが誘拐は大いに有り得る。警戒するにこしたことはないだろう」
「……状況は理解できました。そういうことであれば、有り難く護衛をして頂きたいと思います。セーラさんもそれで宜しいですか?」
「もちろんですわ。エロオさんの身の安全が最優先ですもの」
「では、決定ですね。僕の身の安全をよろしくお願いします」
「ああ、任せてくれ。良からぬ事を企む悪人には容赦しない」
これで話はついたなという感じでニカっと精悍な笑顔を見せるエドガーだったが、横からズンとヒジ打ちを喰らってその笑顔にヒビを入れられた。
「肝心なことを聞き忘れてますわよ」
「お、そうだった。エロオ君、マルテから言伝を頼まれた。『ロカトールと話がついたから港湾都市エリンまで行って欲しい、自分も同行する』とのことだ」
「おおぅ、ついにやってくれましたか!」
「君の都合の良い日程を教えてくれとのことだ」
「この国の地理にまだ詳しくないのですが、エリンというのはモルザークからどのくらい遠くにあるんでしょうか?」
「船で川を下れば1時間とかからないよ」
え、そんなに近いんだ。
それなら、余裕を見ても二泊三日程度の旅ですよね。
ただ、こちらの移民受け入れ態勢がもうちょっとかかるから……
「5日後、来週の月曜の朝にここを出発したいと伝えて下さい」
「了解した。それから、ガラスペンの仕入れはまだかと死にそうな顔で言っていたよ。王族や貴族、上級市民の矢の催促を受けてるから無理もないが」
「あぁ、仕入れ自体はもう終わってるんですよね。ただ、宿屋の改修があと2日ぐらいかかりそうなんで待ってたんですよ」
「えぇ、そうだったのかい。マルテはガラスペンの為なら野宿だって平気なんだから、直ぐに伝えてあげれば良かったのに」
「いや、僕たちが気にするんです。宿屋すらろくにない町なんて噂されたくありませんからね。セーラさん、人員のほうの確保はできましたか?」
「ええ、エロオさんに言われた通り、十分な数を揃えておりますわ」
よし、これで宿泊客だけでなく、ロカトールが連れてくる12人の移民も収容することができる。空き家の改修が終わるまでは宿屋に住んでもらいましょう。
「という訳で、もし良かったら、3日後の土曜日に来てもらえませんかね。日曜日に面白いイベントをやる予定ですからぜひ参加して欲しいですし。そして、月曜日にここから一緒にエリンに行くってのはどうでしょう?」
「そのイベントというのは?」
「それは秘密です。当日のお楽しみということで」
「フフッ、分かった。君が言った通りに伝えさせるよ」
「お願いします」
「今日はもう外出の予定はないのか?」
「特にないですね」
「じゃあ俺たちは引き上げさせてもらうよ。明日の朝にまた来る」
「わたくしたちが来る前に屋敷の中で襲われてたりしないで下さいませね」
んんん、一日中張り付いてる訳じゃなくて、外出する時だけ護衛するってことなのか。まぁ、24時間、じゃなかった、この世界だと1日36時間ずっと護衛なんて無理がありますよね。だって人間だもの。
「我が屋敷でそのような不埒な真似は絶対にさせませんわ(ゴゴゴ)」
「そういうことですので、今日はもう安心して休んで下さい。しかし、宿屋はまだ未完成ですから、また酒場の二階に泊まるのですか?」
「いや、酒場では晩飯だけにして、馬小屋に置かせてもらった幌馬車で寝るよ」
これは、イザって時にすぐ駆け付けられるようにしてくれてるのかな。
「分かりました。何か必要なものがあれば言って下さい」
「そうさせてもらうよ。じゃあな」
「失礼しますわ」
冒険者の護衛コンビは立ち上がってセーラさんに一礼してから去って行った。
ふぅ、急に身の危険を自覚させられて、レベルアップの感動が吹き飛んだ。
それにロカトールも移民を連れて来るし、浮かれてる場合じゃないですね。
「セーラさん、移民受け入れ準備の詰めをしておきましょう」
真剣な顔でうなづく女領主と意見のすり合わせを始めました。
この第一次移民の受け入れが失敗すれば、村に降格されたこの領地を町へ再昇格させるというセーラさんの悲願が遠のいてしまいます。
何が何でも成功させないと。たとえ予想外のトラブルが起こったとしても……
「えぇぇええええええ! ここで革命って…ウソだと言ってよエロオーっ!」
押しかけ護衛のエドガー&ビアンカが来た翌日、今日も朝からエロオ雑貨店の営業を開始した僕たちは、朝一の客をさばいてから店頭に置いたテーブルでトランプに興じていました。
ベルちゃんの暇つぶしだけでなく、エドガーとビアンカにアラビア数字を覚えてもらうという重要なミッションでもあるのです。
今やっているゲームは定番中の定番、大富豪です。
最初にやった七並べとは比べ物にならないほど皆さん白熱していました。
冒険者コンビはVIP(なんと僕)の護衛を任されるだけあって頭も良く、あっという間にアラビア数字とルールを理解して知力を見せつけ始めています。
「ウフフフッ、捨て札と残りカードで、あなたが革命を起こすだろうと……わたくしには分かっておりましたわ!」
ビアンカは最弱から最強になったカードの3を出して一抜けした。
僕とエドガーがそれに続き、その後にロザリーとテレサが上がるとベルちゃんはドン尻に沈み、テーブルに突っ伏してブツブツと呪いの言葉を吐いてます。
「モルザークにもトランプとそっくりのカードはあるが、この大富豪というゲームは無かったよ。凄く盛り上がって面白いなこれは」
「そうでしょ。モルザークでも流行らして下さい。よし、じゃあ僕とロザリーとテレサは抜けますから、ジェロ監督たち入ってもらえますか?」
「おう、見ながらルールは覚えたから大丈夫じゃ! お前さんもロザリーとテレサのことを頼んだぞい。優しく面倒を見てやってくれ」
「僕のほうも大丈夫です。最高の仕事をしてみせますよ。エドガーさん、小一時間ほど二階に行ってきますね……」
そう言って立ち上がった僕は、果樹園で働く二人の女性をエスコートして二階のヤリ部屋へとご案内してあげました。
「エドガー、店内の安全は問題無いのかしら?」
「入り口はここだけだ。俺たちが目を光らせていれば問題ない」
「そう。ですがあの人も、店長なら仕事は店員に任せてここにドッシリと座っていてくれれば、わたくしも余計な心配をせずにすみますのに」
「ワッハッハッハ、こればっかりはあの男じゃないとできん仕事じゃからのお」
「どういうことですの?」
何も分かっていない魔法使いにやれやれと溜息をついた剣士が口を開く。
「彼は凄腕の竿師でもあるんだよ」
「竿師!? あの童貞が服を着て歩いてるような痩せ男が……竿師ですって?」
「そうだ。村中で伝説になってる程のな。だから酒場での情報収集は大事だといつも言ってるだろ。お前はもっと護衛対象に興味を持て」
「……そんな与太話でわたくしは騙されませんわよ。いくら竿師でも女性二人を同時に種付けして1時間で戻ってくるなど不可能ですわ!」
「確かにその点は俺も懐疑的なんだが……どうだ、お前も二階に行ってそばで確認しながら護衛するってのは?」
「な、なんてバカなことをおっしゃるのかしら。死ねばよろしいのに」
「ねえ、まだぁ。早く次のゲームやろうよー」
色気より食い気と遊びが優先のアナベルが顔に大きく退屈と書いてせがむ。
護衛の男女コンビは、ある意味ピュアな少女のお願いを無碍にできず、一時休戦して大富豪を再開した。
勝負事になると熱中するのは冒険者の性。
あっという間に小一時間が経ち、髪と肌がツヤツヤになって戻って来たロザリーとテレサと二人を相手にした直後でもピンピンしてるエロオを見て、伝説は本当だったと驚愕するエドガー&ビアンカだった。
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