第16話 セックスすればレベルアップするかもです

「私も連れて行ってくれませんか?」


 果樹園を出た僕たちは、お昼が近くなったので村の見学を切り上げて帰ることにしました。ベルちゃんたちは自宅へ、僕は日本のアパートへ。

 という訳で、やってきたのは召喚の魔方陣がある空き家です。

 セーラさんの検証で否定された召喚をキャシーに見せると、いろいろ面倒なことになりそうなので先に帰ってもらおうとしたところ、爆乳の婚約者はなんと僕に付いて行くというじゃないですか。既に面倒が起きちゃってましたよ。


「悪いけど、それはできないんだ」


「……母に言われてるです。絶対に離れてはいけないって…」


 そうでしょうね。

 この奥手な地味子ちゃんが自分から男に付いていく訳がありません。

 何としても僕を逃がしたくないセーラさんの苦肉の策ですよ。


 しかし、困りました。

 何とか納得してお引き取り願うにはどうしたらいいですかねえ……

 少し考えてから、スーツの上着を脱いでキャシーに渡しました。


「これは一張羅と言って、これが無いと僕は大きな仕事をすることができません。必ず受け取りに戻ってきますから、キャシーが預かっていて下さい」


「イッチョーラ…………分かりました。絶対に……戻ってきて下さいね」


 あぁ、そばかすの目立つ顔を真っ赤にしてますよ。 

 お世辞にも美少女とは言えないキャシーですが、照れながら思いのたけを伝える姿には愛しさが込み上げてきます。また有無を言わさずに抱き締めて、激しくキスをしました。いわゆるベロチューです。


「エロオまだ~、ボクおなかすいちゃったよー」


「駄目よベルちゃん、いま良いところなんだから」


 おっと、キャシーの舌を貪るのに夢中になり過ぎて、キッズたちがいたのをすっかり忘れてしまいました。

 また茹でダコ状態の婚約者を先に帰してから、ベルちゃんとミュウちゃんと空き家に入った僕は、幼い召喚士に左腕から外したデジタル時計を手渡します。

 ちなみに、ビンラデ●ンも愛用していたカシオの F91Wです。

 

 三日後の21時に召喚してくれと頼んだのですが、説明に時間がかかりました。

 考えてみれば当然のことで、地球とこの異世界では暦が違ったのです。

 一日の長さも違うので、理解してもらうのに苦労しましたよ。

 やはり、賢いミュウちゃんも連れて来ておいて正解でしたね。計算通りです。




「またお早いお帰りですね、へイローさん」


 異世界から召喚天使の応接間に帰ってきた途端、トリカさんに嫌味を言われてしまいました。だけど、僕にも事情があるので仕方ないですよね。


「やる事があって戻ってきただけです。また直ぐに向こうへ行きますから」


「そうでしたか! やる気が出てきたようで私も嬉し───あーーーっ!!」


「うわビックリしたなもぉ……何かあったんですか?」


「功績ポイントが増えてるじゃないですか!」


「え、そうなんですか?」


「もぅ、ステータスはまめにチェックしないとダメですよぉ」

「いや、でも僕はまだ、ステータスの見方を教えてもらってないですもん」

「あれ、そうでしたっけ? ウフフフフッ」


 また笑ってごまかした。この天使様、ハズレ疑惑が濃厚になってきましたね。

 やはり信用しちゃダメな感じですよ。


「キーワードは、無難に『ステータスオープン』にしておきますか?」


 ド定番ですね。しかしこれ、一部で不評みたいですが、僕は分かりやすくて良いと思います。異論はないので一つ頷いて早速試してみました。


「ステータスオープン」


天篠兵露於(アマシノ ヘイロオ) レベル1

体力21/24 

気力4/6 

魔力216/216 

精力1/1 

栄養11/18

SP6/6 

功績値1/6

<スキル> フラグ破壊 回復S 治癒A 如意棒

<ジョブ> ニート 行商人(仮)


「アララララ、気力の基礎値がかなり低いですね。これでは枯れ切ったお年寄りみたいになるのも仕方ありません」


「半年間、ブラック企業で奴隷をやればこうなりますよ……」


「精力も僅か1とは! どおりで1回射精したら使い物にならないわけですね」


「何度も何度も女性にオモチャにされて、NTRされたらこうなりますよ……」


「それはご愁傷様でした。ですが、これからの女性関係次第で、また年相応の精力を取り戻すことができますよ。頑張って下さい!」


「そうだといいんですけど」


「間違いありません! それより、功績値に1点入ってるのが見えますよね。あと5ポイント獲得すれば、レベルアップできますよ!」


「それは確かに朗報ですね。だけど、僕は功績を得るようなことは特にしてないんですよね。一体どこで増えたんでしょうか?」


「それも禁則事項で言えません。でも、よく思い出してみて下さい。貴方は異世界の人に感嘆されるようなことを何かやっている筈ですよ」


 んん……向こうの人を感動させるようなことなんて何かしましたっけ……?

 異世界でレベルアップの定番といえば、魔獣を倒して経験値を稼ぐことですけど、僕は最弱のスライムと戦ってすらいません。これは完全に違いますね。

 他に何か褒められようなことといったら…………あっ!!!


「キャシーとの婚約だ!」

 

 報告して回った先々で、皆さん仰天した後に感心してましたからね。

 そういえば、勇者とまで讃えられてましたよ。

 うん、これで間違いないでしょう。


「……惜しい(ボソ)」


「はい? 今、惜しいと仰いましたか?」


「え、私は何も言っていませんよ」


 そう言いながら、バチンバチンとウインクしてますよね。

 どうやら、キャシーとの婚約ではなさそうです。

 ただ、惜しいということは、それに近い女性関係ということ。

 となると、もうアレしかないですよ。


「セーラさんとセックスしたから功績ポイントが増えたんですね」

 

 トリカさんは何も言わないけど、満面の笑みで僕を見ていた。

 今度こそ正解したようです。

 そういうことであれば、今後もセーラさんとやりまくりましょう。

 しかし、昨晩セーラさんに三回も中出ししましたよね。

 だけど、功績値は1しか稼げていません。これはどういうことか?

 

 うーん、分かりませんね。今後、ステータスを確認しながらトライ&エラーを続けるしかないでしょう。レッツ・セックスです。




「そろそろ時間ですね。ベルちゃん大丈夫かなぁ……」


 あれから三日、僕は異世界に行く準備を整えて、一人アパートの部屋で召喚されるのを待っていました。あと5分か、最後の荷物チェックをしましょう。


 背負ったリュックサックの中には、大量の砂糖と塩が入っています。

 右手の手提げバッグには、通販で仕入れたガラス細工と着替え。

 左手のレジ袋には、午後ティーやラムネなどなど。

 よし、オールOK、と安心したその時でした。招かざる客が来たのは。


 ────ピンポーン、ピンポーン


 嘘でしょ!?

 もう直ぐ夜の9時ですよ。こんなハタ迷惑な人っていますぅ。

 居留守は使えませんね。窓から光が漏れちゃってますから。

 とにかく、速攻で対応して二秒で帰ってもらいましょう。


「はい、どちら様ですか?」


「2階の雪白です」


 女の子の声? ユキシロ………?

 アパートの階段を上がっていくランドセルを背負った少女を、何度か見かけたことがあるけど、特に面識はありません。一体何の用ですかね。

 ともかく、押し売りや勧誘じゃなさそうなので、ドアを開けました。


 黒を基調にしたセーラー風の長袖ワンピースを着た少女が、出てきてくれてありがとう、という感じに愛らしい笑顔を向けてきます。無垢な天使のように。

 思わず歓迎しそうになったのを誤魔化すため、事務的に質問をしました。


「こんな時間にどうしたの?」


 しかし、僕の塩対応にまったく怯むことなく、少女は甘えた声でとんでもないことを言い始めました。天使じゃなくて小悪魔でしたよ……


「今、家に入れなくて困ってるの。少しだけここにいさせて。ね、お願い」

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