第15話 果樹園で一発かましました
「この村に、若い男たちを取り戻すにはどうしたらいいと思います?」
どんだけこの村にはガキと年寄りと壊れた男しかいないんだよ、という主旨のルビーとラヴィの愚痴を一通り聞いてあげた後、その対策を二人に訊いてみた。
でも、いち早く答えてくれたのは、青髪の聡明な少女ミュウちゃんでした。
「モルザーク市に行く道を通りやすくすればいいんですよ」
「ソレな! モルザークに行けねーのは辛すぎるぜ」
「アタシも久しぶりに性欲をたぎらせた男たちに囲まれたいわ~」
「ボクはモルザークの水上マーケットに行ってみたい!」
「……学校と自宅の往来が大変です」
昨晩キャシーからも聞きましたが、やはり市街とのアクセスが危険なために、仕事や娯楽を求めて村を出ていった男たちが帰ってこないという話でした。
その道さえ安全であれば、人の行き来が増えるし、仕事不足や不便さも解消されていき、村の定住者も増加していくのでしょう。
「以前は、市への道の安全をどうやって確保していたのですか?」
「冒険者を雇って野盗や魔獣を討伐してたんだよ」
「ギルドがあった頃はよかったよね~、たくましい男がいっぱいいてさ~」
「いまだってママたちが魔獣をたおしてるよ!」
「そうよね。でもセーラ様たちだけだと疲れちゃって大変だわ」
なるほど。戦争で町の人口が減って村に降格された時に、冒険者ギルドが撤退したのが響いてるんですね。モルザークに行けばギルドがあるけど、討伐クエストを依頼するお金が領主のセーラさんに無いのでしょう。
だから僕を取り込んでお金を稼ぎたいのですね。大事な娘を差し出してでも。
これで解決策は見えました。そろそろ次の目的地に向かいましょう。
「ご意見ありがとうございました。僕たちはこれで失礼します」
「今度はコブ付きじゃなくてあんた一人できなよ」
「ホントだよ~、その気にさせて寸止めした分ハッスルさせるからね~♪」
「……一応、あなた達にも報告しておきます。私とエロオさんは婚約しました」
「げぇ、エロオ、お前人生捨ててんのか!?」
「ヤバッ、絶対これ村長に弱味握られてるわ」
「失礼ですよ。これは僕が望んだ結婚です。普通に祝福して下さい」
僕は、またキャシーを抱き寄せて強引に激しいキスをしてみせました。
「お、おぅ……さっきも思ったがマジでお前は性獣系だな。見直したぜ!」
「戦後復興から取り残された村に勇者エロオ降臨!これは濡れる~♬」
性獣でも勇者でもありませんが、この結婚が強制されたものではないと分かってくれたみたいですね。今はそれで十分です。
ディープキスの効果に満足した僕は、キャシーを抱き寄せたまま二人に別れを告げて立ち上がり、司祭館から墓守ギャル娼館に変わり果てた家を出ました。
「ダイオウコウモリを討伐してくれる冒険者じゃよ!」
司祭館の次に、僕とキャシー、アナベル、ミュウのニワカ視察団が向かったのは、領地で唯一の収入源となっている果樹園でした。
働いているのは初老のかたや女性がほとんどで、ベルちゃんよりも小さい3人の子供がお手伝いをしているのも見えます。
僕はここの監督をしている60代男性のジェロ氏にご挨拶をして、果樹園の話をいろいろと聞かせて頂いた後、この村に必要なものは何かと質問してみました。
そして、天を睨み拳を震わせるジェロ氏から出てきた回答が、冒険者です。
「そのダイオウコウモリというのは?」
「ワシらが丹精込めて作った果物を食い散らかす魔獣じゃよ!」
魔獣といっても、しょせんコウモリでしょと侮ることなかれ。
聞けば、体長1メートル、羽根を伸ばした横幅3メートルという巨体。
大王という名前に偽りなしという、お化けコウモリなのだそうです。
そのダイオウコウモリの大好物がここで作られているブドウとリンゴ。
20年以上前に、先代の領主が大規模な討伐を行って村から駆逐したのですが、数年前から再びチラホラと荒らしに来るようになったとのこと。
去年の収穫期も被害に遭ったそうです。
現領主のセーラさんも討伐に乗り出したのですが、村が大変な状況なので何日も果樹園にばかり張り付いている訳にもいきません。
そして、ギルドに討伐を依頼するお金もなく、結局してやられたと。
「次にまたダイオウコウモリが現れるのは、いつ頃ですか?」
「早ければ実が大きくなる4カ月後、遅くとも成熟する半年後には必ず来る」
それならまだ猶予がありますね。
日本と異世界を行き来してガラス細工や砂糖を金銀に代えてお金を稼げば、冒険者を雇えますし、他にももっと良い方法を思いつきました。
「果樹園の状況は理解できました。ここは僕が一肌脱がせて頂きましょう」
「な、なんじゃと!? 行商人のお前さんに何ができるというんじゃ?」
ざわ・・・ざわわ・・・ざわざわざわ・・・・・・ざわざわっ!
ダイオウコウモリという忌避すべき言葉が出たあたりから、周りで働いていた人たちが何事かと少しづつ集まりだしていました。
そこで僕が、討伐すべき魔獣を何とかすると言ったので騒然となっています。
あぁ、頼りなさそうな僕は、懐疑的な目で見られていますね。
今後この村で快適に暮らすためにも、ここで一発かましておきましょう。
「僕は商人ですから仕入れてきます────ダイオウコウモリを倒せる武器を」
「武器じゃとぉ!? お前さんワシらに魔獣と戦えと言うんか?」
「私たちは武器なんて扱えませんよ」
「温厚なダイオウコウモリでも攻撃すれば人を襲ってくるぞ!」
「昔、噛まれた子供が病気になって亡くなったことがあったわ。可哀相に…」
「お前は上手いこと言って俺たちに武器を売りつける気だな」
「あんた詐欺師じゃなかね?」
そうきますかー。
ドヤ顔でグッドアイデアを出したつもりだったんですが、このリアクションは予想していませんでしたよ。まさか、感謝されるどころか炎上するなんて……
ただ、僕も想像力が欠如していました。
ゲームや小説じゃなくて、リアルの魔獣討伐です。
冒険者でもない初老や女性の村人に武器を取れといえば、こうなりますよね。
「武器は売るのではなく無償で提供します。断じて詐欺などではありませんよ」
「タダじゃとぅ!? お前さん、ますます怪しいのぉ……」
ジェロ監督の言葉は周りの作業者たちの意見を代表していました。
皆さん、僕を胡散臭い目で見てます。正直、ツライです。
ここはさっさとキャシーに理由を語ってもらうとしましょう。
頼むよと視線でお願いすると、爆乳の地味子は重たい口を開きました。
「皆さんにご報告があります。私はこのエロオさんと婚約いたしました」
「「「「「「「「「 えっっっっっ!? 」」」」」」」」」
ミュウちゃんの家とまったく同じ反応で草しか生えませんよ。
たしかにキャシーは美人じゃないし、この世界ではデブ認定なんでしょう。
そして、沈みかけた村の領主の跡取り娘でもあります。
そこに婿入りなんて、自殺行為か人身御供に映るのは仕方ありません。
でも、僕はそんな常識が通じない異世界の地球人ですからね。
「これで僕が、武器を無償で提供する理由が分かって頂けたかと思います」
「お、おう……お前さん、見かけによらず骨のある男だったんじゃの…」
「その武器は、飛び道具で女性や子供ですら簡単に使えます」
「飛び道具か………じゃが、弓はそうそう当たるもんじゃないぞ。ボウガンは扱いは簡単じゃが女や子供では力が足りんし高価で数が揃わんじゃろ?」
「僕が用意する武器は、そのどちらでもありません。この世界、いえ、この国ではまだ作られていないものです」
「一体何じゃそれは?」
「説明するよりも、見て使ってもらったほうが早いです。遅くとも3ヶ月後には揃えてきますから、楽しみにしていて下さい」
「そうじゃな。実際に手に取ってみて勝算がありそうなら、改めてお前さんの話しに乗らせてもらわい。皆もそれでええか?」
信頼しているジェロ監督の言葉に、果樹園の人々は賛同の声をあげていく。
そして目下最大の問題が解決するかもしれないという期待と、憂いていたキャシーの配偶者問題が既に解決していたという驚きの喜びに、真っ暗だったこの村の未来に希望の光明を見出したようです。
皆さんから明るい笑顔で祝福の言葉をかけて頂きました。
今が収穫期だというイチゴと、ここで作っているシードル(リンゴのお酒)もお土産にくれるという歓迎ぶりに変わりました。素直に嬉しかったです。
子供たちと樽乗りをして遊んでいたベルちゃんとミュウちゃんを連れだって、僕はとても良い気分で果樹園を後にしました。
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