第3話 新聞の片隅にある程度な事件
ありえないことが起きていた。
そう、それはあまりにありえなかった……
落ち着きを取り戻した私は、木島と一緒に車に乗り込み、月見神社に到着した。大きな鳥居をくぐったところで、先導していた木島が立ち止まり、私にこう言った。
「ここから琴乃さんは、大変な思いをするでしょう……けれど、思い出さなければ、はじまらない」
生真面目な顔でこちらを見る木島に気圧(けお)された。何があったのだろうかと思った。私は困惑を抑えられないまま、鳥居にくぐった。くぐって、目に飛び込んだ光景は、私と彼が住む部屋だった。
え? どうしてここに……どうして……と思っていると、鈍い音が聞こえてきた。勢いよく何かがぶつかったような鈍い音……。
私の胸の内でざわざわとしはじめた。異様な音だったと、確認しなければと思う自分と、それを拒もうとする自分。肌が粟立つのを感じながら、わずかに競り勝った確認するという意思を持って、私は歩き出した。
そして見つけた……薄暗い部屋で、私を見つけた。
その「私」は、倒れていた。頭から、血が流れていた。思わず触れてしまったが、存外温かった。猛烈な勢いで頭を殴られたのだろうか……表情は苦悶に満ちていた。泣いていた、死体だった。
「う、ウソっ」
私はよろめきながら、窓側へ身体を向ける。誰が私を殺したのか、殺す可能性があるのか……そう思ったら、恐ろしくて、悲しくて、否定したくて、私は叫んだ。
「智彦さん……!」
彼の名前を。
なんの返事もない。けれど私は目を見開いて、ソレを見た。
血に塗れたダンベルが床に転がっていて、そこから上に視線を辿ると、足が見えた。ぶらぶらと揺れている。まるで風に揺れる洗濯物のようだ。とりとめのない、吊るされた洗濯物。しかし、吊るされて許されるのは、無機物と食料品だけだ。生きているものが吊るされては死んでしまう……何故か心はすぅと冷えていた。ぶらぶら揺れるソレの顔を、私は見た。彼だった……。
ああ……そうだ、私、友達に誘われて、出かけたいという話をしたら、彼が本当に壊れて、一家心中の形で、殺されたんだ。
あまりに言葉にするとあっけない事実、急に現実感が戻ってきて、私は声をあげた……。
「いやぁあああああああっ」
どす黒い絶望が宿った慟哭が、部屋中に響き渡る。
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