食事、獣人と共に
「おまたせ」
……そう言い、出された食事はいつもの
ジャガイモを崩して一口食べてみると、これでもかと塩味が聞いており、水で流し込みたくなる。
が、俺が一日に飲める水は日に二回の食事の時に出される一杯の水だけ……我慢しなくては。
「……じゃねぇ!? ジズさんが嬉しそうにしてたから、漸くぶりにまともな飯食えると思ったらいつもと変わんねーじゃん!?」
「祝日だから特別な料理。海水を混ぜて煮たジャガイモと干し肉がある」
「変わってねーよ! いつもと同じクソ不味い料理じゃん! 大皿一杯の
はぁはぁはぁ……思わず、愚痴ってしまった。
ジズさんには悪いことをぐぇっ!?
「……そんな台詞、これを見てから言え」
「く、苦しい……! つ、着いてくから首閉めないで……!」
ジズさんに連れられてやって来たのは、船にある食料保存庫だ。
他の部屋と比べても換気が行き届いており、結構涼しい。多分 湿気による食料への被害を逸らすため……だと思う。
「えっと、ジズさん? 一体なんでここに?」
「……まず、これを見ろ」
指差した方を見ると、そこには大量の麦の入ったが麻袋一つ。
……これがいったいどうしたんだ?
「次にこれを見てみろ」
その隣にはもう一つの麻袋が、更にその隣には麻袋が……と数えきれない程の麻袋が並んでいる。
部屋の住みにぽつん、とジャガイモが詰め込まれている箱が数箱置かれていた。
……まさか、これって。
「これ、全部オートミール。他には高級船員用のジャガイモが十数箱と干し肉が数十枚、以上が船の食料」
「……い、いやいやいや、全部オートミールだとしても、まだ調理方法あるでしょ。ほら? 麦パンとか作れませんか?」
何とか、単調な食事を避ける為、パンは作れないのかと提案してみる。
だけど、その提案にジズさんは困ったような表情を見せて。
「麦だけじゃパンは作れない。いや、作れるけど卵もないし、水も一日に規定の量しか料理に使えない。何より……」
小さく溜め息をついて、酷く残念そうに言った。
「火が使える時間も限られてる。船の中じゃ火災防止の為に一日一時間しか火が使えない。一時間で全員分のパンを焼くのは無理」
「……マジっすか」
「マジっす。……で、どう頑張っても作れないって分かってくれた?」
「うっす、理解したっす」
「……じゃ、帰ろう」
小さく頷き、俺はジズさんの後に続いた。
その後ろ姿は大分気落ちしており、俺に料理を不味いと言われたのが悔しかったのか、それともこんなものしか作れない自分の腕にガッカリしてるのか。
何か言い出そうとしても、何も思い付かず……食堂についた。
「……食べ飽きてるって気持ちは分かる」
「ジズさん?」
食いかけの食事を前にジズさんは素手でジャガイモを一口分に崩して、口に運ぶ。
口から指へ、透明な涎の糸が真っ直ぐ延びたかと思うと、プツンっと切れて見えなくなった。
「少しだけ、美味しいご飯の食べ方、教えてあげる」
そう言うと、ジズさんは崩したジャガイモをオートミールに入れると、スプーンでオートミールを掬い、こちらに向けてくる。
……これを食べろと言うことだろうか?
と言うか、この状況って結構恥ずかしいものがあるのだが……うん、ジズさんのことだし気にしてないんだろうなぁ。
男は度胸、食わないと始まらんか。
差し出されたスプーンに口をつけ、いつもと変わらないオートミールを──。
「あれ、美味しい? ……いや、食感とか殆ど変わんないけど、何かいつもと違うような?」
「オートミールは元々、各々の好きな味付けで楽しむ料理。蜂蜜や砂糖をかけてデザート風に食べるのも、塩をかけて食べるのもその人の自由」
「……てことは、今まで食いかた間違ってましたか? 俺」
「間違ってはない。海水を混ぜてもしょぱくて苦くなるだけ、塩なんて船の上じゃ作れないし。でも」
と、崩したジャガイモを掌で転がしながらジズさんは珍しく笑う。
「こんな風に濃い塩味がついたものを混ぜれば、そこそこ美味しく食べられる」
「それでも、そこそこなんすね」
「船の上だから。陸なら美味しい私特製のオートミールをご馳走してあげるのに」
「いや、陸までオートミールは正直勘弁っす」
「……そう、残念」
しゅん、と一瞬だけ落ち込んだ様子を見せるが、ジズさんは何事もなかったように更に自分の分のオートミールを注ぎ、ジャガイモを一つ手に取り、そのままテーブルの上に置く。
干し肉は自分用に、と大きめに切り分けた物をテーブルの上に置いて俺の膝の上で食べだした。
「……何故!?」
「君の膝の上、結構気持ちいいから。他の船乗りと違って、まだ筋肉が発達してないし、椅子にはちょうどいい」
「そりゃこの椅子よりはマシだと思いますが……」
俺達が座る椅子は正直言ってかなり酷い。
そもそも椅子なのかどうか怪しいレベルであり……ぶっちゃけると木の中身をくり貫いて椅子代わりにしている。
その為、座り心地は悪く、尻を痛めている船員もいるほどだ。
「そう言うわけだから。お礼と思って椅子代わりになって」
「……うっす」
食事を提供される立場なんだし文句は言えんか。
ジズさんに従い、俺は黙って椅子代わりになって食事を続けた。
● ● ●
食事を終えた俺はジズさんと別れて、自分の寝床に足を運んでいた。
寝床と言っても、平船員には船室なんて高価なものは与えられていない。自分の船室を与えられるのは高級船員に限る。
では俺達、平船員が何処で寝泊まりしているのかというと……あったあった。
「よしよしっ、今日も誰も入ってないな」
空樽をどけると、そこにはなんかよく分からない(恐らく、船を作った時に生まれた欠陥)人一人分くらいは入れそうな穴が空いていた。
……そう、ここが俺の寝床だ。寝床? 布団や毛布は? と思うかもしれないが、この船にそんなものを持ち込めるスペースは存在しない。
俺みたく寝やすい場所を確保しているのは稀で平船員は基本的に、その辺の床で寝るか、『今』は船底に何もないからそこで寝るか、天気のいい日は甲板で寝るか……選択肢はこれくらいしかない。
「さてと、明日も早いしとっとと寝るかぁ……」
穴の中に潜り込み、寝ようと瞼を閉じる……が。
「あっ! ここにいたんですね、探しましたよ!」
「……どーしたんすか、
穴から這いずり出てみると、そこにいたのはふわふわの長い金髪を靡かせた少女。
名前をミア・リリーホワイト、この船の船長であり同時に俺の雇い主でもある。え? 船長はクリストファー船長だって?
……色々と事情があるんだよ、正直な話をすると説明すると長くなるし、俺もよく理解していないんだがともあれ、この船には船長が2人いるってことを覚えてくれてればいい。
「ならクリストファーに明日、貴方を休ませるよう進言しましょう。これなら構わないでしょう?」
「休みくれるなら話し相手くらい構いませんが……」
「ふふ、その言葉を待ってましたよ。この船、知識人が少なすぎるんです。私の話を理解してくれるのはクリストファーとノーマ以外だと貴方くらいですのよ」
俺としては我が儘お嬢様の話し相手を勤めるのは面倒で堪らないんですがね。
……ま、こんな風な文句を聞かれたら、どうなることやらだし口には出さないが。
「ささっ! 早く部屋に行きましょう! 貴方のお話、どれも新鮮で楽しいの! 今日もいっぱい聞かせてちょうだい!」
そういう訳で俺は疲れと眠気に堪えながらお嬢様の我が儘に付き合うことになるのであった。
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