第56話
15時にバイトを終えたりほと合流し、そのまま近くのカフェに入店した。
元来食への好奇心と探究心があまりない僕だが、先月にオープンしたこのカフェのパンケーキを食べようと前々から計画していたのだ。
ナイフで少し切り込みを入れただけでほろりと崩れ落ちるそのふわふわとしたパンケーキにじんわりと溶け出すバターを絡め、口いっぱいに頬張る。
パンケーキの横にちょこんと置かれたバナナを、りほは押し付けるように僕のお皿に乗せてきた。
「このバナナがうまいのに。わかってないねえ」
「おいしくないよ。パンケーキだけで食べた方が圧倒的においしいね。ほら、このバナナもあげるよ」
僕は軽く悪態をつきながらも、りほから押しつけられたそのバナナを次々に口に運んだ。
りほは好き嫌いが激しく、飲食店で出てきた苦手な食べ物の肩代わりを僕がするのが常なのだ。
見た目以上にボリューミーかつ甘ったるいパンケーキを完食し、胃袋をパンパンにした僕たちはカフェを後にした。
今日のデートの目的を既に果たしてしまった僕たちはバスに乗り、デートの二回に一回は訪れているであろう地元のららぽーとに入る。
何もやることがない時はこのららぽーとをひたすら散策するというのが、僕たちのお決まりの流れだ。
ゲームセンターでクレーンゲームをしたり、本屋を覗いたり、ウィンドウショッピングをしたりしながらパンケーキが消化するのを待ち、日が暮れて駅前の居酒屋が開店してきたタイミングで再びバスに乗り、いつもの居酒屋に入店した。
付き合う前に初めて行き、付き合ってからも何度か通っていたお気に入りの居酒屋は閉店してしまったが、そのテナントに新しくできた大衆居酒屋が最近の僕らのホームになっている。
どこの居酒屋に行っても年齢確認をされることはもうあまりなく、その度に僕とりほが付き合ってきた年月の長さと時の流れを感じ、少しだけ寂しくなる。
「はいっかんぱい!」
最近流行りのJ-POPが流れる店内で、りほはいつも通りのウーロンハイ、僕はカルピスサワーで乾杯した。
「最近のバイトはどうなの?ピッキング?だっけ」
「あそこはめちゃくちゃ楽だよ。ただ適当に歩いて商品集めさえすればいいんだから」
「えーいいなあ。最近りほの居酒屋いつも混むから大変なんだよ。おじさんがすぐ絡んでくるしさあ」
分かりやすく眉毛を下げるりほの表情がなんだかおかしくて、つい吹き出してしまう。
「なんで笑うの!こっちはほんとに困ってるっていうのにさ〜」
「いや、ごめんごめん。今度そのおやじきたら俺がとっつかまえてやるから!」
拳を固く握ってりほの目の前に差し出すと、頼りないなあと言いながらりほは笑った。
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