第53話
ベルトコンベヤーに流れ出したゼリーを竹内は素早くダンボールに詰め、こちらに流してくる。
竹内から流された段ボールを僕は指示された通りにテープを貼って密封し、隣のベルトコンベヤーへと流していく。
隣のベルトコンベヤーでは、吉田さんと僕と同じく日雇い労働者であろう高校生ぐらいの若い女子が賑やかに話しているが、竹内と僕はひたすら無言で作業を進めていた。
作業の仕方を説明されている時は、
(こんな事細かに説明されなくたって平気だろう。所詮流れてきたダンボールにテープを貼るだけなんだからな)
と思っていたが、実際やってみるとこれが案外難しい。
元来が人よりも数倍不器用にできている僕は、テープをカットして段ボールに貼り付けるという作業にえらく時間がかかるのだ。
それによって、竹内が詰めたゼリー入りのテープがまだ貼られていない段ボールがベルトコンベヤーに何個も滞在し、作業が滞った。
それでも、無言でゼリーを捌き続ける竹内のペースに追いつくように必死でテープを切り貼りしていたのだがどうしても間に合わず、次第に竹内の顔に苛立ちの表情が浮かぶ。
エアコンもろくに効かないだだっ広い工場の暑さと焦りによる冷や汗で熱湯のような汗をかきながら作業を進めていると、隣にいる竹内がボソッと言った。
「…ちっ、おっせえなあ…」
最初は単なる聞き間違いかと思い見逃していたが、竹内はその後も続ける。
「ほんとにおせえなあ、いつまでやってんだよそれ」
「はあ、もう絶対残業だわ今日、ふざけんな」
僕に直接言うでもなく、怒鳴り散らかすでもなく、聞こえるか聞こえないかの瀬戸際の声量で竹内は隣にいる僕に小言で圧をかけ続ける。
それから数分経つと、竹内は隣のベルトコンベヤーで作業をしている吉田さんのもとに行き、また僕に聞こえるか聞こえないかの声量で、
「あいつなんなんすか?ほんと無理、持ち場変わってください」
とわざとらしく僕をチラチラと見ながら言った。
「そんなこと言わないの。最初なんてあんなもんよ。慣れていけば徐々に早くなるんだから、ゆっくり焦らずやりなさいよ」
殺気立つ竹内を宥めるように吉田さんは笑顔で諭したが、竹内は食い下がる。
「いや、最初はあんなもんとかじゃなくて。テープ貼るだけの誰でもできる作業なのに、なんであんな時間かかるのか分からないんすよ、まじできもい」
「ほら、そんなこと言わない。文句言う暇あったら手動かしな。早くあっち行って」
吉田さんに背中を叩かれた竹内は、ため息を吐きながら自分の作業場に戻ると、また小言を言い出した。
「…ああ、マジ無理。帰りてえ」
最初は聞いてないフリをしていた僕も、あまりに執拗なその竹内の態度にじんわりと怒りが湧いてくる。
「…あの高校生の方がまだ良かったわ、こんな使えねえ奴いんのかよ今時」
怒りを収めるために深呼吸をするが、どんどん息は浅くなっていく。
「まじで早くやれよ、遅いんだって」
蒸し風呂のような工場の暑さと怒りで、頭が沸騰しそうになる。
「…なんとか言えよ、口ついてねえのか」
ただの小言から僕への明らかな攻撃に変わったその瞬間、僕の堪忍袋がブツっと切れる音がした。
そして反射的に、僕は作業していた手を止めて、竹内に言った。
「…は?さっきからなんだお前」
竹内の表情が一瞬で変わったのが見えた。
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