第51話

自室のベッドで目を覚ましてスマホを開いた時には、既に14時を過ぎていた。

早起きする必要もないので特に問題はないのだが、あまりにも堕落的な1日の始まり方に思わずため息が漏れてしまう。


弾丸旅行ならぬ弾丸退職を決行してから約2週間。

わずか1ヶ月間で終えた社会人生活の中で染み付いた規則正しい生活リズムは雲散霧消し、引きこもり半歩手前のような生活を送っていた。

つい数日前に退職に関わる手続きが完全に終わって、今は肩の荷が降りたような心境だが、むしろこれからが肩の荷を背負っていかなければいけない状況である。

両親はあっという間に退職した僕を責めることはなく、ゆっくり次の仕事を探せと言ってくれたし、りほも特に驚きもなく受け入れてくれたが、現実問題何らかの方法で収入を得なければどうにもならない。

今日のように昼過ぎに目を覚まし、数時間インターネットサーフィンをした後に二度寝し、そして夜中まで眠れず次の日はまた昼過ぎに起きるという最悪のルーティンが出来上がっていたが、そろそろこの生活を変えていかなければいけない。


「まずはバイトから始めるかあ…」

自分に言い聞かせるように呟き、学生時代にインストールしていたアルバイトの求人アプリを数年振りに開く。

コンビニ、ファミレス、スーパー。

自分が幼い頃から利用している近所のお店はどこも求人を募集しており、昨今の日本がどれほど人手不足なのかが求人アプリを通じて伝わってくる。

無職で毎日暇を持て余している自分ならシフトには融通が効くし、その気になればあっという間に採用されるだろう。

しかし、近所でアルバイトをすると勤務中に知人や友人と遭遇するリスクがある。

メモを取りながら真剣に責務を全うしている自分を見かけた友人は僕に声をかけ、こう言うだろう。

「あれ、こんなとこでバイトしてるんだ。就職したんじゃなかったっけ?」

「ああ、就職したんだけど1ヶ月で辞めてしまってね。今はここでバイトをしているんだ」

「1ヶ月で辞めたの!?それは流石に根性無すぎじゃないか…」

「………」

「まあいいや、なんか悪かったな。まあ、とりあえずバイト頑張れよ。じゃあな」


細かいやり取りまで簡単に脳内で映像化されてしまい、それだけで気が滅入ってしまった。

とりあえず自宅から3キロ圏内はアルバイト先の候補から消して再検索をかけるも、いまいち自分に合いそうな、こんな自分でも問題なくできそうなバイト先が見つからず、さらに気分が落ち込んでしまう。

「まあ、まだそんなに焦る必要もないよな」

誰に対してしているのかも分からない自己弁護の言葉を吐き捨て、この慊りない現実から目を逸らすようにして、再びインターネットという大海原に飛び込むのであった。



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