あの時

第49話

・当日欠勤をしたい時、無断欠勤をしてしまった時に会社への連絡を代行

・急な体調不良や入院など、やむを得ず会社に休みの連絡をできない時に代行して電話をかけてくれる

要約すると、こういったサービスを提供している会社であることがその記事から分かり、僕は思わず震えた。

一切迷うことなく、このサービスを利用することを決めたのだ。

たかが1日休むだけ、たかが会社に連絡するだけ。

人はそう言うだろう。

休みの連絡さえできないなんて、社会人失格だと。

そんなこともできないなんて、これからの人生やっていけないぞと。

だからなんだと、僕は思う。

「たまたま」当たり前のことが当たり前に出来る星の元に生まれてきた人間に、

「たまたま」当たり前のことすらも当たり前に出来ない星の元に生まれた人間を馬鹿にされたくはない。

欠陥商品なりに、こっちは出来るだけ迷惑をかけないように生きてるんだ。

自分のことを欠品商品だと認めた上で、歯を食いしばりながら生きているんだ。

料金は1万5000円と記載されていた。

僕にとっては全く高いと感じない値段設定だ。

申し込み方法や手続きの仕方を調べるために記事を見ていくと、その記事の途中には、その会社が手掛けている他のサービスも記載されていた。

育児代行、整列代行、デート代行…

今の時代は本当に色々な仕事があるんだなあと感心していると、その中でも一際大きく書かれた代行サービスを見つけた。

即日退職可能！退職代行サービス！

退職代行、退職代行、退職代行。

ちらほらと耳にしたことはあったが、その生態はあまり詳しく知らない。

添付されたURLから別の記事に飛ぶと、そこには退職代行の細かいことが書かれている。

電話代行と同様、退職の連絡から退職に関わる手続きを全て代行してくれるサービスらしい。

最短で即日から退職でき、過去の実績や内容も誇らしく掲載されている。

「ブラック企業で過酷な労働か環境に悩んでいる時、このサービスを利用しました。

毎日泣きながら仕事に行っていた日々を懐かしむ余裕ができているほど、今は楽しく過ごせています。本当にありがとうございました！」

「何度も辞めたいと会社に懇願していたにも関わらず、辞めたらその分の損害を賠償してもらうと脅され、なかなか辞められずにいました。

弁護士の方も雇用しているサービスなので安心して利用できましたし、本当にこのサービスに出会えて良かったです。

またお願いしたいですが、もう使わないで済むように次の職場では頑張ります（笑）」

少し業者の匂いも漂うような完璧なレビューの下に、料金は一律2万7000円！と記載がある。

この記事を見た瞬間、僕の中の張り詰めていた何かが、壊れる音がした。

見栄や、世間体や、常識や、プライドや、自意識。

今まで僕をがんじがらめにしていた鎖のようなものが一つずつ解けて、剥がれて、心が少しずつ軽くなっていくような感覚がある。

もういいんだ、楽になれ、とこの記事が僕に語りかけているような気がした。

いや、実際には、そんな細かいことを考えたり、感傷に浸ったりしている余裕すらなかった。

半ば衝動的に、半ば無意識に、僕は無心で記事をスクロールして、そこに載っているURLをクリックしていた。

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