第41話

荷物を全て運び終え、先輩社員の中島さんと中西さんが戻ってくると同時に他の先輩社員や上司、社長も数名現場に到着した。

今日のイベントは割と大掛かりなものなので、新入社員だけでは人手と実力が足りないのだ。

全体ミーティングを行った後に設営とイベントの準備が始まり、そこでもいつも通り僕は何度も怒られた。

初日に教わったテントの立て方さえまだろくに覚えられていないのは勿論、生来の鈍臭さと間の悪さが、ピリついている先輩社員の神経を更に逆撫でしてしまうらしい。


「あと3メートルぐらい横にずらすからそこ持って。はい、せーの。 

 …おい、引っ張りすぎだよ!戻してもうちょい。…戻しすぎ!

3メートルだって!逆!

ああ、いいや。ここやっとくからお前向こう手伝ってこい」


このように、猿でも分かるような指示さえろくにこなせず、違う作業場所へと島流しされるものの、島流しされた先でさえもろくに業務をこなせず、結局は手持ち無沙汰になってしまうというのが常だった。


しかし、社会とは面白いもので、有能であるかどうかと人間的に可愛がられるかどうかは別らしい。

あまりにも無能な僕は、その覚えの悪さと鈍臭さを怒られはするものの、仕事の休憩時間や仕事が終わった後では他の同期よりも話しかけられる機会が圧倒的に多く、先輩社員との距離があっという間に縮まっていた。

同期からも、お前だけ先輩と仲良くてズルいと何度か言われた。

分かりやすく言えば、僕は先輩に可愛がられていたのである。

有能よりも憎めない無能が好かれるのが、社会という場所なのかもしれない。


一方、同期の中で能力の高い河地は他の社員から信頼されてはいるものの、特別誰かから可愛がられたり、コミュニケーションを積極的に取っている素振りは見えなかった。

誰からも怒られず、がんがん仕事をこなし、周りから信頼されたいという思いもあるにはあったが、この自分の無能さ故に今の人間関係があるのだとすれば、これはこれで悪くないのかもなという思いもある。

なんてことをぐるぐると考えていると、神田という30代のムキムキ社員と目が合った。


「栗原!何ボーッと突ったってるんだよ!早くそっちのブース作っとけよ!」

とんでもない剣幕で怒鳴られ、つい身がたじろいでしまう。

「お前が立ってる横のブースだよ!ほんとなにしてんのお前?

 …そっちじゃねえよ!逆だって言ってんだろ!!」


世の中の大抵のことは回数を重ねるごとに慣れたり、免疫がついたりするものだが、怒られるということに関しては何回同じことを重ねても免疫がつかない。

こうなるともう頭が真っ白になってしまい、自分が何をするべきかさらに分からなくなり、雁字搦めになってしまう。

とりあえず大きな声で返事をするが、こうやって怒号を浴びるたびに、

やはりこの会社に入ったことは間違いだったなあ、と強く思わされるのであった。

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