第34話
専門学校の前はスーツ姿の男子と着物を纏った女子で賑わっていた。
キョロキョロと周りを見渡しながら歩いていると、元田たちを見つけた。
「おー、こっちこっち!」と中川が手を振ってくる。
「おはよ。人多すぎて迷いそうになっちゃったわ」
元田たちと合流し、僕は安堵のため息を漏らす。
「めちゃくちゃ人多いよな。うちの学校ってこんなに人いたの?って感じ。
とりあえず体育館の中入って席取っちゃおうぜ」
吉田に促されるまま、僕たちは体育館に向かった。
無駄に広い校舎、中庭、体育館。
入学したばかりの頃はこの広さと綺麗さに感動しながら登校したものだが、もうすっかり慣れてしまった。
同じ学科だったメンバーと会場の中で挨拶を交わしながら、僕らは用意されたパイプ椅子に横並びに座る。
この2年間の思い出を語り合うわけでもなく、別れを惜しむわけでもなく、僕らはいつも通りの会話を続けていた。
もう少し感傷に浸ってもいいのではないかとも思ったが、これはこれで居心地が良い。
しばらくすると体育館の照明が少し落とされ、いかにも卒業式らしい音楽が流れ始めた。
その音がフェードアウトすると同時に校長が壇上にゆっくりと現れる。
「俺らの校長ってあの人だったんだな」と隣で高原がボソッと呟き、思わず笑ってしまう。
当たり前と言えば当たり前だが、校長と学校生活で関わる機会は全くない。
コロナの影響をもろに受けた僕たちは、こうして体育館に大勢で集まるような機会も皆無に等しかった。
やわらかな日差しがそそぐこの頃がなんたらかんたら、とどこかで聞いたことのあるような時候の挨拶を校長がし始める。
校長が門出を祝すような言葉を話している時も、多くの生徒はスマホをいじったり、隣に座る友人と話したりしていた。
僕もそのうちの1人だったが、あまりにも校長の話を誰も聞いていないので少し校長のことを不憫にも思う。
校長が話終えたあとは、学友会やなにやらよくわからない代表の方々が順々に話し、小一時間で卒業式は終了した。
「この後は学科ごとに最後のオリエンテーションになりますので、指定された教室に移動してください。まずは放送芸術科の・・」
一応規制退場のようなものがあるらしいが、そんなものは無視してみんなおもむろに席を立ち始め、体育館を後にする。
僕たちも長い列ができる前にと、少し早足で教室へと移動を始めた。
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