第32話

「それじゃあ、入社までの流れはまた後日総務の方から連絡行くと思うから。

これから色々よろしくね」

「はい、よろしくお願いします。ありがとうございました」

昨日染めたばかりの真っ黒な頭を下げて、僕は会社を出た。

専門学校卒業を数ヶ月後に控えた1月上旬、ようやく内定を決めた。

なかなか内定が決まらず、かといって本気で就職活動をしている様子も見えない僕を見かねた担任が紹介してくれたイベント会社。

断る理由もないので面接に行ってみると、その場で採用を言い渡された。

よっぽど人手不足なんだろう。

即日採用の会社は決まってブラック企業らしいが、もうそんなことはどうでも良い。

イベント会社に入るために就職活動をやっていたわけでもないが、これといって働きたいところもなかったし、ニートをするわけにもいかないし、これで良かったのだ。


「先日紹介していただいたイベント会社から内定いただきました!」

会社を紹介してくれた専門学校の講師にメールを送ると、すぐに返信がきた。

「おめでとーーーう!良かった!一安心だよ!また次学校で会ったときに話聞かせてよ!」


家族にも、友人にも、講師にも。

内定が決まったと言うとみんな決まっておめでとうと言うが、僕自身は全くピントきていない。

めでたい気持ちなんてこれっぽっちもないし、むしろ自分の人生のレールが引かれてしまったことに絶望感すら感じている。


ぶぶっとスマホが振動し、反射的に僕はスマホをポケットから取り出す。

りほからのLINEだった。

「おめでとう!」

その一言以外に返信がないことを確認して、再びスマホをポケットに戻した。


「おめでとう以外に、なんかないのかよ」


返信する代わりに、1人でぼそっと呟いた。

僕は何にそんなイライラしているんだろう?

就職活動をしていないりほの呑気さにも、昔より明らかに素っ気ないLINEの返信にも、全てにイライラしているような気がする。


時間が経てば、色々変わるものがある。

それは、良くも悪くも。

だけど、変わった方がいいものほどなかなか変わってくれなくて、変わって欲しくないものほどすぐに変わっていってしまうのはなぜだろうか。


あと2ヶ月で、僕らは専門学校を卒業する。

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